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173 龍神の雄叫び

 コアを壊しに行きたくても龍神は海の上にいるので空を飛ばない限り、近寄ることさえ出来ない。泳いで近づこうとしても渦と船の残骸が邪魔でたどり着くことさえ無理だ。


 どうしたものかと考えていると龍神の動きが止まった。

 コアが体から離れたわけではないのに何故と思っていると正気を失ったような目でこちらをじっと見ていた。その目は、コアによって操られたハリユンによく似ている。


「意思を奪われたのか」


 龍は水の球のようなものをいくつか作り、出鱈目に放って来た。向かって来る水の球を躱しながら、すぐに近くの岩の側に隠れる。


 水の球は幸い隠れた岩に当たらなかったが、攻撃が当たったむき出しの土が見える壁が大きくえぐれていた。ティーダのダンジョンでも同じようなことがあったが、あれとは比べようもないほど水の球のサイズも威力も大きい。あれでは掠るだけでも無事では済まないだろう。


 冷静に周りを見回し、どうすべきか思案していると攻撃が収まったのに気が付いた。不思議に思い、岩の陰から様子を見ると龍神は苦痛に満ちた呻き声を上げ、藻掻いていた。

 ダンジョンコアとは言え欠片なので力が弱いためにまだ完全には操られていないということだろう。

 だから、攻撃の精度が低く、アッシュたちを狙って打ってこなかったのだ。


「チャンスは今だけしかないな」


 時間を置けば、龍神は確実にダンジョンコアの操り人形に成り果てる。そうなれば、誰も手出しができない魔物が誕生し、フクハラどころかオノコロノ国全土が破壊される。その前にどうにかしてコアを破壊しなくてはならない。


 同じく岩に隠れていたヒルデが龍神の挙動を確認しながら問いかける。


「コアが原因であの龍が渦を作ってるんだとしたらさ、壊せば暴走も渦も止まって全部解決するんじゃない?」


「だと思うが、相手は海の上にいるんだぞ。どうやって近づけば。

 あ、ヒルデの弓は?」


 弓ならば手が届かない場所でも遠距離から攻撃することが可能だ。普通なら難しいかもしれないが、ヒルデの腕があれば可能だと思い、期待しながら聞くが彼女は残念そうに首を横に振った。


「いくら僕でも攻撃を避けながら、遠くにあるコアの小さい欠片を正確に狙って射るのは難しいと思う。今だったら水の球を打ってこないけど、コアに抵抗して暴れてるから狙いが定まらないよぉ。

 もぉ、大人しくしてくれれば壊したげるのに」


「そうか」


 近づくことさえ出来れば、アッシュでもコアを破壊することができるのだが、足場になるようなものが何もない海の上ではどうすることもできない。


 何か手はないかと隠れながら龍神の様子を見る。耳に入って来る雄叫びと身をよじらせる動きが小さくなってきたので、また意識がコアに取り込まれようとしているのだろう。

 焦る気持ちを抑えつつ、どうすればいいのかと辺りを見ると何かがぶつかるような大きな音がした。


 音の方を向くと龍神が起こした波で流された船の残骸が港の防波堤に当たったものだった。残骸は波に乗ってまた海の方へと流されていく。


「船、か」


 よく見てみると龍神に向かって船の残骸が散乱している。それを見てアッシュに考えが浮かんだが、実行するにはヒルデの協力が必要だ。


「…ヒルデ。ちょっとの間、アイツの攻撃を一人で耐えられるか?」


「僕が囮になるってことだね。

 アイツの狙いはめちゃくちゃだし、軌道も読めるから避けられると思う。隠れられるところもあるからしばらくは大丈夫だと思う。それに」


 不自然に途中で話すのを止めて目を閉じるヒルデをアッシュは不思議そうに見つめる。再び目を開けると彼女は髪飾りを嬉しそうに触れてこちらに向かって微笑みかけた。


「本当に危ない時はアッシュ君がくれたこれが守ってくれるから」


 その笑みを見て体の緊張が緩むのを感じ、アッシュは苦笑する。

 どうやら異常な状況と龍神の気迫に知らないうちに知らないうちに呑まれていたようだ。








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