172 船の墓場
「でも、そうだとしたら、何でここは壊れていないんだ」
アッシュたちが使った通路は崩れ、その瓦礫は海の中だ。繋がっているのならば、ここも同じように水が押し寄せて崩壊しているはずだ。
なのに、彼らが居る場所はヒビ一つ入っておらず、水も入って来ていない。
「作ったのって空白の時代っていう凄い技術を持ってる人たちだったんでしょ。
なら、僕たちが知らない魔法かなんかで防いだんじゃない?」
「それが出来るんなら通路も壊れないように出来たはずじゃないのか」
空白の時代の技術は現代では説明、再現できないものばかりだ。ヒルデのいう通り、アッシュたちが知らない何かでここだけは守ったというのは考えられなくはない。
しかし、そんな方法があるのならば、通路だけそれを施していないというのは理解ができない。
「ん~、通路だけ老朽化で発動しなかったか、あえてしなかったとかじゃない」
「あえてしなかったってなんでだ」
人差し指を頬に当て、ヒルデは自分の考えを述べた。
「キョウガ島って避難場所でしょ。もしもの時は外と繋がる唯一の通路を壊しちゃえば、魔物がこっちに来られなくなって安全だと思ったから、とか?」
「なるほどな」
キョウガ島には魔物はいないようなので、外部からの魔物の侵入をそのように防ぐことができれば安全だろう。真偽のほどはわからないが、少なくともアッシュは納得した。
「で、右が左、どっちに行く?」
「確か、左がフクハラの方向だったよな」
ならば、そちらに行っても崩れた通路があるだけで何も得るものはないだろう。
「じゃあ、右に行こう」
この先はどこに繋がっているのだろうと考えながら前へ進むと段々磯の香りが強くなって来る。急に土がむき出しの壁となったと思えば、大きくドーム状に開けた所に出た。
自然にこのような形になるとは思えないので、ここは人口の洞窟だったのだろう。洞窟の出入り口の奥には海が広がっている。
地面は変わらず石で出来ているのだが、途中で何故かコの字型に分かれて途切れており、近くには船のような残骸がいくつも見える。
「ここ、もしかして港なの?」
「そうみたいだな。島に避難して来た人たちが船に乗ってどこかへ逃げるために作ったんだろうな」
船はどれも見たことのない形をしているので空白の時代に作られたものだろう。使えるかと思ったが、船首だけだったりと壊れたものばかりで脱出に使えそうなものはない。
もし、使えたとしても操縦方法がわからないので意味はないのだが。
「…なんか、船の墓場みたいだね」
アッシュが顔を上げるともう日が落ちそうになっていた。空を赤く染める夕焼けと壊れた船の両方を見ていると何とも言えない虚しさを感じる。
「そうだな」
ヒルデに答えながら、アッシュはこの光景から目が離せなかった。
港には上から落ちてきた人の背丈ほどもある岩がいくつも落ちている。
足元に注意しながら何かないかと見回しているとおかしなものが目に映った。洞窟の出入り口の海の辺りに水が不自然に盛り上がっているのだ。
「なんだ」
アッシュの呟きが聞こえたかのようにそれは長い首を持ち上げ、こちらを見た。爬虫類のような鱗が全身を覆い、蝙蝠のような翼を持つ生き物、龍だ。体は何故か水で出来ているようで向こうが透けて見えるが、この特徴的な見た目は間違いない。
龍がいる周辺の海に渦がいくつもできているのが見える。おそらく、最近の異変は目の前の龍が起こしたものなのだろう。
「これが龍神なのか」
唖然として見ていると透明な体の中に何か宝石のようなものが見えた。首の辺りにある小さな宝石が赤く光るとアッシュたちがよく知っているあの嫌な魔力を感じた。
すると、龍神は雄叫びを上げて首を激しく振る。まるで、中に入った異物を取り除こうとしているようだ。
「まさか、中の宝石みたいなのはダンジョンコア!? あ、いや、小さいからコアの欠片だな」
「どっちでもいいけど、あれ怒ってるんじゃなくて苦しんでるんじゃん。あの嘘つきぃ!!」
確かに今の姿だけを見ると怒っているように見えるかもしれないが、アッシュたちにはダンジョンコアに抵抗して暴れているとしか思えない。
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