18 『冒険家』
いろいろ考えているとアメリアはアッシュにずっと聞いてみたかったことを聞いた。
ここで聞かなければもう聞けないような気がしたからだ。
「アッシュはどうして冒険者にこだわるの?
昔から冒険者になるって言っていたし、師匠から冒険者は諦めろって言われても諦めなかったし」
冒険者になると言っていたアッシュのために幼かったアメリアは母を通じて貴族である祖父に頼んで剣聖に彼の稽古を頼んだことがある。
しかし、剣聖はアッシュが木の棒を振るのを見てすぐに才能が無い、冒険者になっても無駄死するだけだ、諦めろといい、こんな者に稽古をするなど時間の無駄と言ってそれ以降アッシュを見ることはなかった。
アメリアはというとアッシュを真似て木の棒を振っていた姿を見て、剣聖は彼女の才能を感じ、付きっきりで剣を教えた。
彼女の才能に惚れこんだ剣聖は弟子になって自分の側で剣を学ばないかと言ってくれた。
アッシュと一緒にいたいと思ったが、剣を学び、強くなれば彼の助けになれるかもと考え、剣聖について行くことに決めた。
そのおかげでアメリアは剣聖にも愛弟子とも認められるほどの強さを得ることができた。
村でアメリアが剣聖に教えを受けている間、才能がないと言われたアッシュはというと剣聖と彼女の稽古の様子を見ていることもあったが、変わらず木の棒を振り、自分なりの稽古をしているようで、決して諦めることはなかった。
「俺がなりたいのは冒険者じゃない。『冒険家』だ」
「それって何が違うの?」
そういえば、幼い頃は冒険者ではなく冒険家になると言っていたかもしれない。
しかし、冒険者が世間一般的であり、いつの間にか変換して聞いていた。
だが、アメリアには違いがわからない。どちらも冒険するのだから同じなのではないかと思った。
「一般的に違いはないかもしれないが、俺の中では明確な違いがあるんだ。
冒険者になるには冒険者ギルドに所属する必要があるが、冒険家は必ずしもそうじゃないと俺は思っている」
「じゃあ、アッシュは冒険家になりたいのになんで冒険者ギルドに入ってるの?」
アッシュの考えで言えば、冒険家になりたいならば冒険者ギルドに所属する必要はない。
しかし、彼は周りから馬鹿にされても冒険者を辞めようとしなかった。
「俺が冒険家になってやりたいことは冒険者ギルドに所属していなければ出来ないことがある。だから所属している、それだけだ」
長い髪からわずかに見える目には強い意志を感じる。
冒険者、いや、冒険家になると言っていたあの頃のように。
幼いアメリアには、夢を語り、その夢に向かって努力するアッシュが眩しかった。
そんなアッシュと、どうにかして一緒にいたい。
彼が『冒険者』になると言うなら自分も『冒険者』になればいいじゃないか。
そして、二人でみんなに英雄と言って認められるぐらい強くなる。
その後、ほどよいところで冒険者を引退し、二人きりで穏やかに過ごせればと考え、アッシュの話を聞いていなかった。
そういえば、あのときのアッシュは冒険家になって何かしたいと言っていたような気がする。それが何かは思い出せないことがアメリアはもどかしかった。
アッシュはそれ以上の口を開こうとせず、アメリアも何も言えなくなり、二人の間に長い沈黙が流れた。
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