167 照りつける太陽が見せる幻
太陽の光が雲によって一時的に隠れる。
とある島の海岸にアッシュはうつぶせに倒れていた。
何とか意識を取り戻した彼が目を開けるとぼやけた視界の中で胡坐をかき、右膝を立て考えるような姿勢でじっとこちらを見ている人影のようなものがいた。
まだ、頭がはっきりとしていないためか、自分を見つめる人物の手が六本あるように見える。後光のようなものを背負うその姿は仏のように見えた。
そういえば、キョウガ島の完成を祝っていると山の頂の雲が島を覆い、楽しい音楽を鳴らしながら仏たちが現れたのだと調べているときに聞いた。その中には人柱となった青年もおり、彼の姿はやがて如意輪観音という仏となったのだということを思い出した。
幻が見えるほどまずい状況なのだと自覚し、起き上がろうとするが力が入らない。重い瞼がまた下がって来ると抵抗虚しくアッシュは再び気を失ったのだった。
アッシュの耳に波の音が入って来る。
太陽の容赦ない熱が海岸の砂と彼を焼き、その暑さで彼はようやく目を覚ました。重い体をむち打ち、何とか立ち上がるとふらつく頭を押さえる。
「あれから、どうなったんだ」
波に飲み込まれる直前、ヒルデが何かの光に守られるように包まれるのを見た。その光を見たときアッシュは何故か彼女だけは大丈夫だと思い安心した瞬間水に飲み込まれ、海へと放り出されたのだ。
アッシュの目の前は海が広がり、後ろは木が生い茂って森のようになっている。海岸には流れ着いたゴミなどが落ちているのが見える。フクハラの海岸は綺麗に掃除されていたので、どうやら別の場所にたどり着いたことがわかった。
もっと何かわからないかと体を動かそうとすると痛みが走った。
体は濡れているだけで見かけは大きな怪我はなさそうだが、流されているときに何か当たったらしい。特に右足は少し歩くだけでもひどく痛む。
だが、刀やペンダントなど大切なものは無くしていないので、これだけで済んで良かったと思うべきだろう。
「悪運が強いな、俺も」
見たところ島なのはわかったが、ここがどこなのかを正確に知るために海岸を歩いているとアッシュと同じように倒れている人が目に映る。その姿に見覚えがあった彼は痛む足を引きずるようにして慌てて駆け寄る。
「ヒルデ!!」
近づいて彼女が呼吸をしていることに一先ず胸を撫で下ろす。どうやら気絶しているだけのようだ。
「ヒルデ。起きてくれ、ヒルデ」
抱き起して声を掛けると彼女の長い睫毛が震えてゆっくりと目が開いた。
「…アッシュ、君?」
「大丈夫か。怪我は」
アッシュが問いかけるとヒルデは頬を膨らませる。
「それはこっちのセリフだよ。なんか知らないけど僕だけが変な光に守られたのに君はそのまま海に飲み込まれちゃうし」
話を聞くと、どうやら光に包まれて守られたヒルデだったが、あの後すぐにアッシュと同じように海に放り出されたらしい。
助け起こしたアッシュに礼をいうと彼女はゆっくりと立ち上がり、無くしたものがないかと確認している。いつも背負っている戦斧は自らの空間魔法の中に入れていたらしく、取り出して満足気にしている。
見たところ大きな怪我もなく、いつもの調子で話す彼女の姿に思わず安堵のため息を吐いた。
「もぉ、あの光って何だったのかな」
「ああ、たぶん、女神の加護なんじゃないのか」
あの時はわからなかったが、今思うとヒルデを守った光はティーダで自分たちを導いたあの光に似ている。ティーダでは貝殻には女神の加護が宿ると言われており、彼女は女神から貰った貝殻を使った髪飾りをしているので、危険を察して加護の力が発動してもおかしくはない。




