165 シンクロする魔物
足元も見えにくい中、また同じ罠に掛からないように注意をしながら走っているとヒルデの姿が見えてきた。声を掛けようとすると、ヒルデが戦斧を手にして何かと戦っているのが見えてきた。
暗闇の奥に毛深い足で赤い目をした大きな姿がアッシュの目に映る。先ほど彼が振り切ったのと同じ土蜘蛛だ。
自分の知らない道から先回りされたのかと思ったが、大きさが違う。どうやら土蜘蛛は二匹いたようだ。
ヒルデの方を見るといつものように戦斧を思いっきり振れていないようで苦戦している。
間違って戦斧が壁に当たりでもしたらヒビが入るかもしれない。もう、ここは海の中なのでそんなことになれば浸水してしまうだろう。それを恐れて実力が出せないのだ。リーチが長い戦斧ならではの欠点だといえるだろう。
だが、刀を使うアッシュならば遠慮することはない。
「ヒルデ!!」
声を掛けると心得たようにヒルデは後ろへと飛んだ。その代わりにアッシュが前に出て土蜘蛛に向かって刀を振る。刃は敵を斬り裂き、足の一本斬り落とすことに成功した。
敵は雄叫びを上げながら足を引きずるようにして後ろへ下がると粘着性のある糸に石や金属の棒など様々なものをくっつけてアッシュたちに次々と放ってきた。
広いとはいえ限られた空間なので二人とも避けるので精一杯でこれ以上前に進むことが出来ない。そのうち何かが後ろからこちらへ迫って来る気配がした。
おそらく、目が回復してアッシュの跡を追って来たもう一匹の土蜘蛛だろう。
「後ろは僕が抑えるからアッシュ君は前の奴、お願い」
「悪い。気をつけろよ」
後ろはヒルデに任せてアッシュは目の前の敵にだけ集中する。
敵の方も石がくっついた糸を大きく振りかぶることが出来ず、あまり遠い距離を投げられないようだ。その代わりなのか泥の塊も時々放って来るが、攻撃力はないので近寄らせないための牽制なのだろう。
刀という武器の性質上接近しなければ敵に攻撃をすることが出来ないので投げて来る石と合わせて厄介だ。
アッシュは大きく息を吐くことで気持ちを落ち着かせると飛んでくる石に意識を向ける。刀を構え、刃で滑らせるようにして向かって来るものの軌道を逸らす。
一つ、また一つといなし、泥の塊は最小限の動きで回避して敵へと近づく。
自分へとゆっくりと向かって来るアッシュに敵が焦っているのが手に取るようにわかる。
敵の足元に何もなくなり、飛んで来るものがなくなったのを見計らって一気に距離を詰め、刀を振る。
しかし、土蜘蛛は刃が向かって来る寸前に素早く天井へと張り付く。
天井は高いとはいえ、飛べば攻撃が届く範囲だが、どうしても空中で無防備になってしまう。そこを狙われればただでは済まないだろう。
敵もアッシュが来ないことをわかっているのか、その体勢のまま壊れた壁などにある石を糸にくっつけて放ってきた。
同じようにいなすが、アッシュは先ほどのように踏み込むことができない。斬られたことで警戒した敵が天井に張り付いたまま、なかなか隙を見せようとしないからだ。お互い決定的な攻撃が出来ず、時間だけが過ぎていく。
石をいなしていると突然、攻撃が止んだ。
不思議に思い、上を見ると今までよりも大きな石を見つけた敵が糸をくっつけ、アッシュの方へ投げようとしているのが見えた。
石がくっついた糸を円状に振り回していることからおそらく、遠心力を利用して放つつもりなのだ。先ほどより飛距離が出て、なおかつ段違いの威力になることは考えなくてもわかる。




