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164 通路に巣くう魔物

 数百年ほど前は今よりも世界は発展していたらしい。その時の詳しいことや何故衰退したのかといったことはわかっていないために空白の時代と言われている。

 残されたわずかな資料を読み解き、当時使われていた技術などを今に活用できないかという研究が盛んに行われているらしいが、アッシュはよく知らない。


「で、どうする。ボロボロだけどいけそうだよ」


 中は思っていたよりもと広く、武器を使用しても問題ないだろう。また、年期は経っているが、崩壊の恐れもなさそうだ。

 どんな魔物が待ち受けているのかわからないが、激しい戦闘を避けて進めば、通路の先にあるというキョウガ島に行くことが出来るかもしれない。


「行ってみるか」


 引き返すべきなのかもしれないが、この向こうには何があるのだろうというアッシュの中の冒険心が抑えられない。

 悪癖だなと自覚はしているが、彼はそれを知り、自分の目で見たくて旅をしているのだ。

 警戒しながらも、その足取りに躊躇いはなかった。





 一歩前へと進むごとに足音が反響して辺りに響く。不気味なほどの静けさだ。


「入ったときも思ったんだけど、何もないね、ここ。」


「本当に人が通るだけが目的で作られたみたいだな」


 ここを作るときに使ったであろう道具が放り出されているわけでも、人が住んでいたような形跡もない。ただ同じ壁がどこまでも続いている。

 あまりに景色が変わらないので今、自分は前に進んでいるのかと疑いそうになる。配置されている灯りが暗く、しかも点滅しているため不安を煽られて余計にそのようなことを思ってしまうのだろう。


 ふっと目の端に何かが映り、アッシュは足を止めた。


「ん? どうしたの」


 口に人差し指を当て、問いかけるヒルデに静かにするように訴えかける。彼女が頷いたのを確認するとアッシュは手にした灯りを上へとかざす。

 そこにはゴミなど色々なものがくっついた大きな蜘蛛の巣があった。警戒しながら天井を見回すが、幸い近くに本体はいないようだ。


「調べるために入った人が見たのはこれかもね」


「ああ、魔物を呼び寄せないように出来るだけ音を立てずに慎重に進むぞ」


 通路という限られた空間ということもあり、戦闘は避けられないが倒壊の危険もあるので出来るだけ戦いたくはないというのが本音だ。


 視線を前に向けて進もうと一歩踏み出したそのとき、糸を切ったような感覚がした。足元を見るが、そのようなものはなくもなく、気のせいだったのかと思って進もうとしたとき背後から何かものが落ちてきた音と振動がした。

 振り返るとアッシュたちよりも大きな土蜘蛛が赤い目を光らせて、八本の毛深く長い足をかさかさと動かし、こちらへと迫って来た。


「ヒルデ、先に行け!!」


「わかった!!」


 彼女が自分の横を通って奥に行くのを見届けるとアッシュは手に持っていた光る花を土蜘蛛に向かって投げた。彼よりもそちらに目がいった敵は泥の塊を吐き出してそれを目掛けて攻撃する。泥が当たった花は力なく床に落ちた。


 アッシュは素早く振り返ると目を閉じて壁伝いに走った。彼が逃げようとしているのを見て敵は苛立ちまぎれに先ほどの花を踏み潰す。

 その瞬間、目を開けられないほどの眩しい光が花から放たれて辺りを包む。目を焼かれた土蜘蛛はその場で痛みによりのたうち回るのだった。




 目を開き、敵が追ってこないことから足止め出来たことを確信してアッシュは胸を撫で下ろす。

 おそらく、彼が切ってしまった糸は獲物の存在を知らせる罠だったのだろう。いつもなら気が付くのだが、薄暗く、上に敵がいないかと警戒していたため足元への注意が疎かになってしまったのだ。


「…このまま逃げ切れればいいんだけどな」


 好奇心に負けてここに入らなければよかっただろうかと思ったが、もうここまで来たら前に進むしかないと腹を決める。

 








楽しんで頂けたなら幸いです。

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