17 戻らない過去を懐かしむ
明日はブラックウルフが出没するという場所へ向かうことが決まり、アッシュは明日ために準備の確認を行っていた。そこへ、彼の部屋をノックする音が聞こえた。
「アッシュ、起きてる?」
「アメリア?起きてるけど」
「入っていい?」
扉の方へ歩き、ドアを開け、アメリアを招き入れた。
「どうしたんだ。こんな夜更けに」
視線は下を向き、いつものアメリアとは違う雰囲気を感じた。
「なんか、いろいろ考えてたら、昔のこと思い出して。
気がついたら、アッシュに会いに来てた」
話が長くなりそうだと感じたアッシュは彼女に部屋に唯一ある椅子に座るように勧め、自分はベッドに腰掛けた。
アッシュの部屋を見回していたアメリアは床にポーションなどが置いてある状況を見て微笑んだ。
「こうしてると二人でパーティー組んでた時のこと思い出すよね。
あの時もアッシュ、不備がないか確認のためにポーションとか床に出しててさ、何回も躓きそうになったことあったんだよ、私」
「あのときも魔物の討伐は全部アメリアがしてたんだ。
今も昔も俺はポーターとしての仕事やサポートぐらいしかできないからな。
戦わないなら、それぐらいはちゃんとしないと」
アメリアとパーティーを組む前、アッシュは一人で冒険者として活動していたらしい。
F級などの低ランクの魔物ではあるが単独で討伐したこともあったようだ。
だが、アメリアと組んでからアッシュはポーターの仕事に専念していた。
彼女の方が強かったから自然とそういう形になっていた。
あの頃は必死で、目の前のことしか考えられなかったが、あのときにアッシュともっと話し合っていれば何かが変わっていたのかもしれないと、キースがパーティーに加入して、彼を前のように特別に思えなくなってから余計に考えてしまう。
「アッシュ、ごめんね」
「…何が?」
「アッシュがパーティーを組んでから何もしてないって聞いて、裏切られたって思った。
信じてたのにって」
アメリアの言葉にアッシュは腕を組んだまま下を向き、ただ黙っていた。
だが、それでよかった。これはただアメリアの自己満足のためのひとりごとのようなものだからだ。
「でも、最近考えるんだ。アッシュに合わせた依頼を最初から受けていたらって」
アッシュとアメリアがパーティーを組んでからは彼女に合わせた依頼ばかりを受けてきた。依頼料が高いというのもあるが、何よりアッシュが受けられるような簡単な依頼はアメリアにとってはやりがいがなく、つまらなかったからだ。
今思うと、パーティーを組んでいるアッシュもアメリアの依頼に同行することになるため、自分の実力に合った依頼を受ける時間が無かったのではないか。
それを言い出せずにいたため、このようになってしまったのではないかと考えてしまう。
もし、あのとき、アッシュの実力に合った依頼を受け続けていたら、今頃アメリアと並び、戦ってくれていたのではないかと思ってしまう。
「それに、私たちの考えを押しつけてたなって思うんだ。
アッシュは一度も私たちと一緒に前衛で戦いたいなんて言ったことないのに、勝手に私たちと同じ考えだって思ってた」
アッシュが前衛希望でポーターの真似事をしていることに不満だという噂は知っているが、本人から直接そうだと聞いたことがない。
ポーターの仕事も不満を漏らさず真面目に熟しているし、ポーターの仕事以外にアメリアたちのサポートなども積極的にしてくれている。
思えば、幼い頃、木の棒を振って冒険者になると言っていたアッシュを見て、彼は前衛で戦いたいのだと勝手に思い込んでた。
しかし、アメリアとパーティーを組むとアッシュは、前衛で戦うことに何の未練もないかのようにあっさりポーターの役割などをするようになった。
もしかしたら、ポーターとしてアッシュはアメリアたちと共に戦っていると思っていたのかもしれない。
それなのに、アメリアたちは彼の話を聞かずに、前衛で一緒に戦ってこそ仲間だと思っていた。
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