158 人柱
丘を降りて港に停まっている船を見ながら歩いていると大勢の人が集まっているのが見えた。
「何で集まってるんだろうねぇ」
「ちょっと行ってみるか」
気になって近づいて行くと騒がしい声が聞こえてきた。
それによると誰かがここに来るということがわかったが、いまいち要領を得ない。
人垣の隙間から覗くと待ち人が着いたところのようで、品のいい着物の男たちが馬に乗った人々を出迎えている。
刀を持った男たちが馬から次々と降り、最後尾の辺りにいた人物が降りると出迎えた男が近づいた。
その人物は刀を持った男たちと違い、袂が長い特徴的な白い着物で他の男たちと違って手ぶらのようだ。
「いやぁ、陰陽師を言いましたが、まさかあの高名な陰陽師を輩出していることで有名な一族の次期当主であるアオイ様がいらっしゃるとは思いませんでした」
陰陽師とは学術や占いを用いて悪霊を鎮めたりなどの様々な人外の困りごとを解決する者のことだ。国によって認められた者だけがなることができ、独特の服を着ることが許されているらしい。
アオイと呼ばれた真面目そうな青年だけが異なる格好をしているのでおそらく、彼が陰陽師なのだろう。彼は男の揉み手を見ると途端に不機嫌そうな顔をする。
「余計なことはいいので、何故、私たちを呼んだのか、もう一度聞かせてください」
彼から何とも言えない圧を感じた男は姿勢を正すと話し始めた。
この港は他国との玄関口である。それというのも、フクハラの地を発展させるために国際的な交易の場をとの考えにより古代の人々が場を整えた成果なのだ。
最近になって船が通る海路に渦が出現するようになった。以前はそのようなものはなかったので対応が遅れ、現在交易に損失が出ている状態だ。色々と試してみたが自分たちではどうすることも出来ず、陰陽師の力を頼ったのだそうだ。
「そういえば、僕たちの乗る船も予定より遅れたよね」
「ああ。渦の所為だったんだな」
アッシュたちはもう少し早くオノコロノ国に着くはずだったのだが、乗るはずの船が何度も欠航した。それが何故かは説明されなかったが、これが理由だ。
自然発生ならばわかるが、突然出現したとなれば何か原因があるのだろう。それによっては今後の交易に影響が出るという考えにより説明されなかったのだ。
「渦とはあれのことでしょうか」
アオイが指さす場所にはいくつもの渦が巻き、それが起きている周囲に波が立ち、泡で白くなっている。男が頷くと彼は独り言のように呟く。
「…なるほど」
「何かわかりましたか?」
男の期待の籠った問いに彼は首を横に振った。
「いえ、それはこれからです。少し私から離れてください」
一緒に来ていた男たちが離れたのを確認するとアオイは目を閉じて何かを唱え始めた。
すると、彼の足元が光り、魔法陣のようなものが現れて魔力とは違う何かが辺りを漂うのを感じた。
しばらくして、光が収まると彼は目を開けた。
「わかりました。原因はあそこに見えるキョウガ島ですね」
「キョウガ島、ですか」
アオイが顔を向ける先には島があり、渦は特にその周辺で発生しているようだ。
名前を聞き、同じように島を見る男の顔色が一気に悪くなる。
だが、彼は男が青くなろうが、気にすることなく話を続ける。
「ええ。あの島で龍神様のような姿をした何かが荒れ狂っている姿が見えました。それが影響してこのようなことになっているのでしょう」
「龍神様が怒っているということでしょうか!!
ど、どうすれば、渦はなくなるのですか。教えてください、アオイ様!!」
早く答えを聞きたくて焦る男をじっと見つめるとアオイは口を開いた。
「古代の人々が行ったのと同じように、人柱を捧げれば鎮まるでしょう」
その言葉に男だけではなく周囲の野次馬たちも息を呑んだ。わかっていないのは他国の人間であるアッシュたちだけだ。
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