16 傷ついて欲しい訳ではない
火事の描写があるので苦手な人は注意してください
「アッシュは拠点で待機でいいんじゃない?
アッシュの仕事はマリーナが代わりにすればいいんだし」
もう何も思っていない相手とはいえ仲間なのだ。傷ついて欲しい訳ではない。
アッシュはうつむいていた顔を上げるが、相変わらず長い髪が邪魔をして何を考えているかわからない。最後に彼の顔を真っ直ぐ見たのはいつだっただろうとこんな時に考えてしまう。
「マリーナさんは魔法に専念するべきだ。俺の仕事までしたらどちらも中途半端になって、結果全員を危険に晒すことになる」
キースやアメリアの実力もあるが、マリーナのサポートのおかげで高ランクの魔物も討伐できたことも数多くある。それがなくなればと考え、全員が息をのんだ。
「今までの魔物みたいにおとなしく罠に掛かってくれる相手じゃないのはわかってる。
だが、ミントやマリーナさんに近づけないようにすることぐらいは出来るはずだ」
マリーナの結界があるとはいえ、魔物が襲ってくると思うと集中ができないかもしれない。しかし、近づかないようにしてくれるというのならば、ミントもマリーナも魔物の動向を気にせずに魔法を使うことだけに集中することが出来る。
「それじゃ、ミントが魔法を詠唱している間に僕たちがブラックウルフの相手をする。
ミントが魔法を使って数を減らしたら、奴らが混乱している間にアメリアと僕がリーダーを倒すと言うことでいいかい」
キースの言葉に全員がうなずいた。それを確認すると彼はアッシュの方に顔を向ける。
「アッシュ君はポーターとして僕たちのサポートと無理のない範囲で魔物を二人に近づけないようにしてくれ。くれぐれもマリーナの結界から外へは絶対に出ないように気を付けてくれ」
「わかった。それと、耳に入れて欲しいことがあるんだ。
もしかしたら、ブラックウルフの一部に火の魔法を使う個体がいるかもしれない」
ブラックウルフは自身の爪に魔力をまとわせて攻撃することが知られている。
だが、それはあくまでもブラックウルフの爪の強度を高めるだけで、火の魔法を使い、攻撃するなど聞いたことがない。
「どうしてそう思うんだい」
「ブラックウルフがいると思われる森の周囲に炎を見たという目撃証言があった。
気になってもう一度ブラックウルフについていろいろ調べてみたら、昔、火の魔法を使うブラックウルフと戦ったという人を見つけた」
火の魔法を使うブラックウルフと戦ったという人物はある貴族の領軍に所属する兵だった。ある日、ブラックウルフの不審な動きを察知し、主に報告した彼らは、討伐の任を受けたらしい。
討伐は上手くいったのだが、一匹の瀕死のブラックウルフが火の魔法を使ったことにより火事になった。
まさか、ブラックウルフが火の魔法を使うとは思ってもみなかった彼らは混乱した。
火の魔法で火事になることはなくはないが、雨不足で乾燥していたこと、混乱による初動の遅れなど悪条件が重なり、炎は広がり、周りの街を焼き尽くした。
その人は素早く判断し、動けなかった自身を後悔する言葉をこぼしていた。
「なるほど。もし、本当に奴らの中に火の魔法を使う者がいればやっかいだね」
偶然なのか、ブラックウルフが潜伏していると思われる森の近くには大きな街がある。
もし、森が火事になれば同じように街を燃やし尽くすかもしれない。
「燃える前に消しちゃえばいい。森で暮らすエルフにとって火事は一番気を付けること。
古代エルフ魔法には火を打ち消すものもあるし、普通のエルフの魔法でも火を消せる」
「俺の方でも火を消すことの出来る物を用意するから、もしもの時は使えるようにしてくれ」
ブラックウルフを倒すためにそれぞれが決意を固め、戦いに備えることにした。
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