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149 黒い涙

 光が収まるとアッシュたちはスイムイ城にいた。どうやら、先ほどの光景は過去の出来事だったようだ。


 アッシュが前を見るとチルダルが地面に膝を突いて荒い息を吐いていた。彼の体から黒い煙が出ていき、人型の魔物と化していた見た目から、徐々に本来の姿へと戻っていく。


 全てを知ったハリユンは近づくと彼に尋ねた。


「チルダル、お前は今も、昔も私を守ろうとしていたのか」


 彼の問いかけにチルダルは何も答えようとせず、肩で息をする。返事を待つことなく、ハリユンは続けて疑問を口にする。


「ならば、何故、私たちを襲ってきたのだ。あれに支配されず、自我を保っていたならば、私たちが戦う理由などないはずではないか」


 彼の必死の叫びのような問いを聞いても、黙ったままのチルダルに代わり、アッシュが自分の考えを述べた。


「おそらく、ハリユン様に知られないためかと」


 彼の過去を見たことから、ハリユンが信頼していた従者の老人に裏切られたということを知られないためにそう振舞っていたのだということがわかった。

 しかし、理由はそれだけではないだろう。


 一度、コアを受け入れてダンジョンマスターとなった人間は、決して元に戻ることはなく、しばらくすると、自我を失い、破壊を目的とするだけの人形と成り果てるのだ。

 それを止めさせるには核となるコアを破壊し、とどめを刺さなければならない。そうすることでようやく動きを止め、後には人とも魔物とも呼べない骸となるそうだ。


 コアの力を受け入れた自分はいずれ、そうなるのだとわかっていて、チルダルは悪役に徹していたのだ。そうなった彼を見ても、ハリユンが気に病まないように。


「黙って、聞いていれば、勝手なことばかり」


 声がした方を向くとチルダルがこちらを睨み付けながら、立ち上がろうとしていたところだった。


「俺は貴方が嫌いだった。甘いことばかり言う貴方が。ただ、それだけだ!!」


 チルダルはハリユンに向かって行き、剣を持つ腕を振り上げた。その間、ハリユンは避けることもせず、じっと彼を見つめていた。

 その彼の姿に剣を持つチルダルの手が震え、なかなか振り下ろすことが出来ない。


「何故、避けようともしないのですか」


 チルダルの目を逸らすことなく、ハリユンは答える。


「あの時、友に裏切られたと思い、お前を信じられなくなったからこそ、私はあれほど取り乱したのだ。わかるか、チルダル」


 あの日の前のように自然に話すその穏やかな声にチルダルの目は揺らぐ。


「今度こそ、信じたいんだ。友であるお前は、決して私を傷つけないと」


 ハリユンの言葉を聞いた瞬間、チルダルの手から剣が滑り落ち、再び膝を突いた。

 矢に射られたチルダルの右手から黒い血が流れる。それはまるで、泣くことが出来ない彼の涙のように見えた。


 剣は音を立てて地面に落ちると根本からヒビが入り、やがて粉々に砕けた。

 魔物と化した後からチルダルの剣の音に鈍いものが混ざり、アッシュは違和感を覚えた。おそらく、ヒルデの重い戦斧を受け止めたことから剣が限界を迎えたのだろう。


「ヒルデの戦斧を受け止めるだけでああなるなんてな」


「ちょ、僕が壊したみたいに言わないでよぉ。元々ボロボロだったじゃん」


 屋根から降りてきたヒルデがアッシュの呟きを聞いて頬を膨らませた。確かに、当時の武器をそのまま使っていたようだったので、ヒルデの戦斧を受け止めなくとも、壊れていただろう。


「そう、だけどな」


 だが、彼女の戦斧がチルダルの剣の破壊を早めたのは間違いない。それをいうと余計むくれるのがわかっているのでアッシュは口を閉じたのだった。







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