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143 本心

 距離を取っていたチルダルはこちらに走って来るとハリユンに向かって剣を振り上げる。彼に剣が振り下ろされる前にアッシュが刃を受け止め、隙が出来たチルダルへとヒルデが戦斧を振った。


 チルダルはアッシュの刃から剣を放し、彼女の戦斧を受け止めた。魔物化したとはいえ、ヒルデの方が力は強いらしく、剣を押し返した。


「膂力は強くなったが、行動は単純になったな」


「だね。前だったら、警戒して、僕の戦斧は絶対に受け止めなかったもん」


 刃を合わせてわかったが、チルダルは魔物化したことで力を手にした代わりに冷静に状況を判断することが出来なくなったようだ。前は頑なに避けていたヒルデの戦斧を受けたことからも間違いないだろう。


 お互いに見合っているとチルダルの筋肉が僅かに動くのを感じた。何か仕掛けてくると構えているとチルダルはアッシュたちと離れていたハリユンに再び向かって来た。


 狙いが自分だとわかるとハリユンは剣を構えることを止め、迫ってくるチルダルに背を向けて訓練所の窓から御庭(うなー)へと走る。チルダルは目の前にアッシュがいるにも関わらず彼らを無視して、ハリユンを追いかけるために壁を壊した。




 大きな音が聞こえたので走りながら音がした方を向くと、煙が上がっているのが見えた。その中からチルダルがうなり声を出しながら姿を現す。

 それを見たハリユンは急いで御庭(うなー)の中心まで来ると急に立ち止まり、剣を構えてチルダルを待った。

 ハリユンを探すために周囲を見回したチルダルは彼を見つけるとこちらに真っ直ぐに向かって来た。


 生前の彼は常に状況を把握し、注意深く慎重に行動していた。その彼が何も考えず、ただハリユンを倒すことだけしか考えず突撃して来る魔物となっていることに怒りと恐怖で体が震える。それでもハリユンは彼から目を逸らすことはなかった。


 過去の自分の決断がチルダルを魔物に変えたのだ。その事実に向かい合い、最後まで見届けるために。


 チルダルはハリユンに近づくとその勢いのままに剣を振るった。ハリユンは何とか受け止めることが出来たが、そのあまりの強さに吹き飛ばされる。

 追撃するために一歩足を動かすと、気配を感じたチルダルは振り返った。


 見ると、追って来たアッシュが彼に向って刀を振るったところだった。

 チルダルは急いで刃を受け止めるのだが、彼よりも大きく、強くなったはずなのに押し負けてしまい後ろへ数歩下がった。そのことに苛立ったチルダルは出鱈目に振り回すような乱れた剣でアッシュに襲い掛かる。


 それら全てをアッシュは難なく受け止めるのだが、その度に刃が合わさったのとは違う鈍い音が辺りに響く。

 もう一度剣を振ろうとしたチルダルは、また別の気配を感じ、その方を向いた。

 飛ばされたハリユンが立ち上がり、こちらに走って来たのが見える。口角を上げてハリユンを攻撃しようとするが、その前にアッシュの刀が向かって来た。


 どちらかを相手しなければいけなくなったチルダルは、アッシュから距離を取り、代わりに

 ハリユンへと剣を振る。

 先ほどのように吹き飛ばされると思ったのだが、ハリユンは歯を食いしばり耐えた。そんな彼の姿を見て、チルダルはわずかに目を見開く。


「なあ、チルダル」


 彼が答えないことをわかっていてもハリユンは問わずにはいられない


「お前はオノコロノ国に与すると決めた私に失望し、本当にティーダ王国の崩壊を願っていたのか」


 それは彼が目覚めてからずっと聞いてみたかったことだ。

 炎の中で対峙したときは彼が裏切ったのだと思ったら頭に血が昇り、冷静に考えることができなかった。

 だが、アッシュたちから話を聞いてハリユンの心の中に疑問が生まれた。


 ハリユンはチルダルという男をよく知っている。だからこそ、彼ほどの男が兵士としての自らの誇りを傷つけられたからと言って破壊という短絡的なことをするだろうか。

 何か、自分の知らない事情があったのかもしれないと。


 刃を受け止めていたチルダルは定まらない目でハリユンを見つめると口を開いた。


「あのとき、俺が言ったことは本心ですよ」


 雑音が入ったような声だが、確かに魔物化する前に聞いたチルダルのものだ。驚きに目を丸くするハリユンを尻目に、チルダルは続けた。


「俺たち兵士を守るためという貴方の優しさだということは理解しています。

 ですが、それを決めた貴方に抑えようもない怒りを覚えた。だから、全て壊れてしまえばいい。それも貴方の愛したティーダ王国ごととそう思ったのですよ」


 チルダルの言葉を聞いて、ハリユンは言葉を失った。

 ティーダの崩壊を思うほど、彼に嫌悪されていたのだとハッキリと言われてわずかにあった希望が打ち砕かれた。







楽しんで頂けたなら幸いです。

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