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142 獣のような雄叫び

 「…チルダル」


 ハリユンの呼びかけに、もうチルダルは答えない。

 ただの獣のような雄叫びを上げてハリユンに向かって剣を振り上げる。それを離れて見ていたヒルデが一気に距離を詰めて受け止めた。


「うわ、さっきより力が強くなってる」


 チルダルの剣を何とか押し返しながら、ヒルデが呟く。


「ヒルデ、少しでいい。時間をくれ」


 再び向かって来た剣を上手く捌きながら彼女は答える。


「わかった。任せて」


 少しの間チルダルの相手はヒルデに頼み、アッシュは目の前で起こったことに理解が出来ずに放心しているハリユンに話しかけた。


「ハリユン様、聞こえていますか。ハリユン様!!」


 肩を持って強引に揺らすことでようやくハリユンは返事をした。


「あ、アッシュ。チルダルが」


 彼の両肩に手を置き、目を真っ直ぐに見つめてアッシュは正気を取り戻させように言い聞かせる。


「ハリユン様、チルダルさんはまだ完全に魔物となっていないはずです」


 戦っているときに見たチルダルの人間味溢れる表情や行動から、彼がハリユンのように完全にダンジョンコアに支配されていないとアッシュは確信していた。


 ――俺が必死にアイツを取り込んで、ここをダンジョンにしようとしているのに


 黒い物体が言っていたアイツとはチルダルのことだろう。

 何故なのかはわからないが、彼はコアを拒否し続けていたのだろう。そのために、ここは完全なダンジョンではないのだ。


 おそらく、ハリユンがスケルトンではなく、肉体を持つのは、いつまでもコアを受け入れない彼を動揺させるためだ。

 生前の姿のままの彼が目の前に現れたならば、いつか必ずチルダルに心の隙が生まれると考えたのだろう。そこをつけ込んで完全に取り込むつもりだったのだ。


 そんな長い年月、コアを拒絶し続けるほどの強靱な精神力を持つ彼がダンジョンコアに取り込まれて魔物化しまったとは言え、簡単に支配されるとは思わない。

 きっと、今も抵抗しているはずだ。


「どうすればいい。どうすれば、チルダルを元に戻せる」


 ハリユンはその目に希望を抱き、アッシュに尋ねた。


「貴方の力が必要です。協力してください」




 アッシュたちが話している間、チルダルと戦っていたヒルデは苦戦を強いられていた。

 魔物化したとはいえ、神社で襲ってきた敵に比べてそこまで強くはない。

 だが、やはり元は人間だったと思うと、いつものように思いっきり戦斧を振ることが出来ない。


「もぉ~、厄介すぎない?」


 また、チルダルが剣を振り上げたのが見えた。そのまま攻撃を防ごうとしたが、何かに気づいたヒルデは小さく笑うと後ろへと飛んだ。チルダルの剣を回避した彼女に代わり、アッシュが刃を受け止める。


「待たせた」


「王様は?」


 ヒルデの疑問に答えるようにハリユンはチルダル向かって剣を振る。アッシュとつばぜり合いをしていた彼は躱すことも、攻撃を防ぐことも出来ずに斬られた。


 斬られたチルダルはアッシュの刃を押し返して彼らから距離を取った。定まらない血走った目で彼はこちらを睨み付けている。


「うわぁ、めっちゃ、怒ってるね」


「ああ、それにハリユン様だけ見てるな」


 ハリユンを認識してから、チルダルは彼しか見えていない。それは自分を斬った相手だからという理由だけではないだろう。

 思えば、チルダルは魔物化する前からハリユンだけを気にしていた。おそらく、アッシュたちが知らない何かがあるのだ。









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