140 自爆
敵がこちらへ振り下ろそうとしている剣をアッシュは刀で受け止める。その太刀筋を見て確かに今まで見てきた者たちよりも強いと感じたが苦戦するまでもないとわかった。
他のスケルトンと違って、明らかな殺意を向けて来ることからも遠慮はいらないために余計にそう感じるのかもしれない。
むしろ、手加減する方が彼らに対して失礼だろう。
それでも極力傷つけないように気をつけてアッシュは受け止めた剣を押し返し、刀を振った。彼の刃を受け止めようとスケルトンは構えるが、剣は弾き飛ばされて空を舞う。
刀を振ったあとの隙を狙い、他の敵がアッシュの背中に向かって剣を振る。
だが、刃が届く前にそれに気づくと素早く後ろを向き、薙ぎ払った。刀は剣を持つスケルトンの腕を斬り裂く。
スケルトンの腕が滑るように床に落ちる。これでこの敵は攻撃の手段を失った。そのはずなのに妙な胸騒ぎがする。
警戒をしつつ、睨み付けていると腕を斬られたスケルトンの胸にある赤い石が点滅しているのが目に映った。アッシュは本能的に危険を感じて後ろへと飛んだ。
彼が避けるのと同時に敵は爆発し、粉々になった。
おそらく、戦いの中で死ぬことが誉れというその考えのもと自分の命を使ってでも彼を倒そうとしたのだろう。それを否定するつもりはないが、いざ目の当たりにすると気分が良いものではない。
刀の先生であるシゲルは、人はもちろん、魔物であったとしても尊き命なのだといっていた。その大切な命がこんなにも簡単に失われて良いはずがない。
仲間が自爆したにも関わらず、スケルトンたちは平然としているのが見える。これが心ない化け物ならば何も思わなかっただろう。
しかし、彼らは人間だったのだ。他者を思いやり、慈しむことが出来るはずの。それらの感情が欠如した彼らの姿に怒りとも哀れみとも言えない感情にアッシュは見舞われた。
思わず動きを止め、うつむいていると数体の敵が彼に向かって剣を振り上げる。アッシュはすぐに前を向き、それが自分に振り下ろされる一瞬の狙って真一文字に薙ぎ払う。
あまりの素早い刀を前に何もすることが出来ず、彼らの胸にあった赤い石が砕けた。石を失った敵は糸が切れた人形のように床に倒れて動かなくなった。
しばらくしても爆発する様子のないことに安堵したアッシュは同じくスケルトンたちと戦っているヒルデに声を掛ける。
「ヒルデ、胸の石を狙え。それで動かなくなる」
「王様の時と一緒だね。わかった」
そういうと彼女は一体のスケルトンの胸を槍のように突くとそこから赤い欠片が舞う。石を壊された敵は動きを止めて倒れた。
それを見た彼らが思わず怯んだのを見逃さず、ヒルデは自分を囲っている敵の石を同じようにして砕いた。
「よし。骨はこれで全部かな」
周りを見渡しても他のスケルトンは見当たらない。彼女の言う通りこちらは全て倒せたようだ。
「あとは」
奧に目を向けるとハリユンとチルダルが戦っていた。何とか食らいつけているようだが押され始めている。
「行こう」
ヒルデの言葉に頷くと武器を構えて彼の下へと向かった。
チルダルの剣がハリユンへと振り下ろされる。何とか受け止めるのだが彼の一撃は重く、腕がしびれてきた。思わず手を放しそうになるが奥歯を噛みしめ、耐える。
「ただ剣を習っただけの貴方にしては良く保っていますね」
息を乱すハリユンに対し、チルダルは軽口を叩ける余裕さえあるようだ。悔しさに彼を睨み付けながらもアッシュたちがこちらに来るまではと自分を鼓舞し、剣に食らいつく。
突然チルダルが何かに気がついたように受けるだけだったハリユンの剣を押し返した。耐えきれず後ろへとよろける彼の目にアッシュの刃を受け止めるチルダルの姿が映る。
どうやら時間稼ぎぐらいは出来たようだとハリユンは胸を撫で下ろした。
アッシュとつばぜり合いをするチルダルにヒルデの戦斧が迫る。だが、チルダルはすぐに刃を放して彼女の攻撃を回避するように後ろへと飛んだ。
「…アイツらを倒したのか」
驚いているようだが、どこか安堵したような顔をしてチルダルは呟く。
味方を倒されたはずなのに、何故安心するのだろうか。その理解できない彼の態度に首を傾げたアッシュが問いかける。
「何故そのような顔をするのですか?」
アッシュの言葉にチルダルは肩をすくめることで返事をして、それ以上会話をするつもりはないとばかりにアッシュへと剣を振り下ろす。彼も刀を振って刃を合わせた。そこにヒルデも戦斧を振るが、先ほどと同じように彼女の刃を受け止めようとせずにチルダルは避けることを選んだ。
他の敵もそうだったが、彼らの武器はろくに手入れがされていないように見える。
おそらく、そのような剣で彼女の攻撃をまともに受ければ壊れるかもしれないと思ったのだろう。
操られるだけのスケルトンでは見られなかった冷静な彼の対応に違和感が増し、アッシュの刃が鈍る。




