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139 見届ける義務

 しかし、彼は首を横に振って拒否した。


「私も行く。これは私が原因で起きたことだ。

 君たちだけに任せたまま、自分は安全な場所に待っていることなどできない」


「いえ、しかし」


 アッシュが何とか説得をしようとするのだが、彼は一向に首を縦に振ろうとはしない。そのやり取りを見ていたヒルデが明るい声でハリユンに同調した。


「いいんじゃない。一緒に行けば」


「だが」


 この場にそぐわないほどの穏やかな笑顔でアッシュを真っ直ぐに見つめて彼女は口を開いた。


「王様は全てを見届ける義務があるんじゃない?」


 彼女の言葉にハッとしたアッシュはハリユンの方を向いた。それに気がついた彼は深く頷く。ハリユンは何があっても見届けると覚悟しているのだ。

 たとえ、それが友の最後だとしても。


 その強い決意の表情に自分の考えがいかに浅はかだったのかアッシュは思い知らされた。


「それに王様は自分の言いたいこと言った方がいいと思うよ。中にいる彼にさ」


 今度はハリユンが目を丸くしてヒルデを見た。彼女は小首を傾げて優しく問いかける。


「あるんでしょ? 言ってやりたいこと」


「…ああ」


 彼は目を瞬かせると泣きそうな顔をして笑って答えた。


「だって。アッシュ君」


 自慢気にこちらを見るヒルデにため息を吐く。そこまで言われては連れて行かないわけにはいかないだろう。


「俺が浅慮でした。行きましょう、一緒に」


 二人が頷いたのを確認するとアッシュは扉に手を触れ、中に入った。




 中は縦に長く、壁に木製の剣などが飾られており、大きな窓からは御庭(うなー)がよく見える。

 周囲を見回すと奧に人影が見えたので警戒しながら進む。近づくにつれて纏わり付くような嫌な魔力が強くなり、その主の顔が見えてきた。


 影の正体は男であり、服の上からも鍛え上げた筋肉がわかる。ハリユンが手にしているのと同じ特徴的な形の剣を持ち、こちらを見る視線だけでも男が只者ではないと感じられる。

 右手には大きな赤い石がはめ込まれており、おそらく、それがダンジョンコアの本体だ。


「…チルダル」


 ハリユンが男の名を呟くと目の前の男がニヤリと笑った。


「久しぶり、いえ、貴方にとっては先ほどぶりなのですかね、ハリユン様」


 チルダルが右手をかざすとそこに埋め込まれている赤い石が禍々しく光る。

 すると、数体のスケルトンが現れた。目の前のスケルトンたちは空洞である胸の辺りに小さな赤い石があり、こちらへと剣を構えた。


 ハリユンに跪く所か、チルダルと同じく、強者の雰囲気を纏って刃を構えていることからも先ほどのスケルトンたちとは様子が異なるようだ。ハリユンは焦ることなく落ち着いて尋ねた。


「お前の部下だった者たちか」


 ハリユンの問いにチルダルは嗤ったまま答える。


「ええ、父の信念の感銘を受け、共感した俺の部下たちです。折角父のように勇ましく死ねると思っていたのに争いを避けたいなどという貴方の甘い決定に随分失望したようです。他の者たちと違って貴方に忠誠心はないそうですよ」


 かつて主と認めた者に躊躇いなく刃を向けるのだ。自ら浄化を選ぶということは決してない。他のスケルトンたちと同じように拘束して首飾りの光で浄化するなども上手くいかないだろう。


「やれ」


 チルダルが命令するとスケルトンたちはハリユンを避け、アッシュたちに襲いかかった。

 アッシュたちの方を振り向くハリユンの前にチルダルが立ちはだかる。


「貴方の相手は俺ですよ。ハリユン様」


「っく」







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