135 懇願
あまりの衝撃に二人は目を丸くして言葉を失った。
アッシュたちが何も答えないことに焦れたハリユンは上半身を起こし、辺りを見回した。
そこは彼がよく知っている玉座の間だったと理解すると、急にモヤが掛かっていたような頭がハッキリしてきた。
何かに気づいたような顔をしたハリユンはアッシュたちから素早く距離を取ると落ちていた剣を拾い、刃を彼らに向けた。
「答えろ、お前たちは何者だ。
誰の許可を得て、このスイムイ城に進入した。言え!!」
先ほどまでのダンジョンの命令だけを聞いていた人形のようだったときと違って、その目には生気が宿っている。
よくわからないが操られているわけではなく、自らの意思で動いているようだ。
「アッシュ君、これどうする?」
隣にいるヒルデがアッシュだけしか聞こえないぐらいの声で尋ねる。
「どうするって」
正気に戻ったのは良かったが警戒されるとは思っていなかった。
いや、そもそも彼が生前のように話すうえに動くなど予想もしていなかったのだ。
「答えないのならば、斬るだけだ」
二人で相談しているとハリユンがアッシュに向かって剣を振った。軽々と避けると何とか会話をして誤解を解かなければと思い、口を開く。
「待ってください。俺たちの話を聞いてください」
彼の声が聞こえているはずだがハリユンは、なおも攻撃をしようと仕掛けてきた。
「話ならば、お前たちを捕まえたあとにじっくりと聞いてやる」
「いえ、そうではなく」
「問答無用」
ハリユンがアッシュの方へ走り、剣を振ろうとしたとき首飾りが眩しいほどの光を纏って彼らの前に現れた。それを見てハリユンは目を見開き、動きを止めた。
その光を見て、ようやくここで何があったのか、何か起きたのかをハリユンは思い出した。
彼の様子を見て満足するようにゆっくり首飾りの光が収まるとアッシュの手に戻った。
「そうだ、私はあのとき死んだはず」
そういって彼は自分の首に触れるのだが、自ら刃で斬ったはずの首が綺麗にくっついていることに困惑した。ふと顔を上げると心配そうに彼を見ているアッシュたちの姿が映った。彼らなら何か知っているかもしれないと思ったハリユンは剣を手放し、懇願する。
「何か知っているのなら教えてくれ、頼む」
今度は話を聞いてくれそうだと安堵し、アッシュはヌシンから聞いたハリユンが亡くなったあとのティーダのこと、自分が手にしている首飾りを入手したときのことなどを話した。
アッシュが話を終えるとハリユンは顔を手で覆い、うつむいた。手の隙間から嗚咽のような声が漏れる。
「そうか、あのあとそんなことが」
何も掛ける言葉が見つからないアッシュたちは暫し、無言で彼が落ち着くのを待った。
しばらくすると、腕で目元を拭ってハリユンは顔を上げた。
「誤解とはいえ、助けてくれた恩人に刃を向けたなど謝って済むことではないのは重々承知だが、謝罪させてくれ」
アッシュたちを真っ直ぐに見るとハリユンは深々と頭を下げる。その姿にアッシュは慌てた。自分たちに怪我はなく、謝られることなどないにも関わらず、王であるハリユンが頭を下げるなどさせてはいけないと思ったのだ。
「頭を上げてください! 俺たちは何も気にしていませんので」
焦るアッシュと対照的に場にそぐわないほどの明るい声でヒルデは尋ねた。
「それよりさぁ、王様はダンジョンコアがどこにあるかとか、何か心当たりない?」
「ちょ、ヒルデ!?」
ヒルデの朗らかなところは好ましく思うが、彼女のことをよく知らないハリユンに話しかけるには不適切かもしれない。恐る恐る顔を見るが、彼は気分を害したようでもなく、考え込むような仕草をしている。
「心当たり、か」
「何か思い当たることが?」
その表情からハリユンは何か知っているようだ。他に手がかりがない今、何でもいいから情報が欲しい。
「…ダンジョンコアなるものは人の強い感情に引き寄せられると言っていたな」
「ハリユン様の体に埋め込まれたことからも間違いないかと」
あくまでもそういう説があると聞いたことがあっただけなのだが、今回のことで真実ではないのかとアッシュは思い始めた。
「ならば、コアを持っているのはチルダルだろう」
プロローグでチルダルの名前が間違っている所があったので直しました。
直す前に見ていただいた方々、混乱を招き、申し訳ありませんでした。




