14 残虐なる魔物の挑発
マテオの言葉にアメリアは息をのんだ。
以前より活躍しているとはいえ、男であるキースが加入した後のことなのでやはり実力が無かったのだという噂が新たに出ていた。
たしかにキースが加入してやりやすくなったのは事実とはいえ、アメリアたちの実力は変わっていない。
いや、以前よりも強くなっていると実感があるのに評価されるのはキースのみだ。彼女たちの不満は募っていた。
そんな時に自分たちの気持ちを代弁するかのようなマテオの言葉にアメリアたちは揺れた。たとえ、彼女たちに発破を掛けるための言葉だとわかっていてもだ。
そんなアメリアたちを見てマテオは満足そうに笑うと椅子に座り直し、職員に彼女たちに依頼書を見せるように指示した。
「それでだ。君たちの真の実力を認めさせるためにこの依頼を受けて欲しい」
そこにはブラックウルフの群れの討伐とあった。
しかし、気になるのはそこではない。本来なら被害に遭った場所やどんな被害があったのかなど、詳しいことが書いてあるものだ。
だが、書いてあるのは討伐とだけで詳しいことが書いていないことに違和感を覚え、戸惑っているとマテオが口を開いた。
「最初はここから遠い街のE級冒険者パーティーがブラックウルフの集団に襲われた。
幸い怪我は軽く、命に別状はなかった。
次は近くの街のD級冒険者パーティーが襲われた。これも同じく怪我は軽かった。
そして、一昨日のことだ。ウチのC級冒険者パーティーが襲われた」
「その人たちは大丈夫だったんですか」
ティオルの街の冒険者はアメリアたちを快く受け入れてくれて居心地がよく、家族のように思っている。
アメリアがパーティーを組んでからティオルの街を拠点としていている理由のひとつでもある。その家族が怪我を負ったと聞いたのだ。彼女は心配になり尋ねた。
「重傷だったがなんとか助かった。しかし、重要なのはそこではないのだよ」
手を組み、眉間にシワをよせ、自分を落ち着かせるためか深呼吸をしてマテオは再び口を開いた。
「職員が冒険者たちに状況を聞いたところ、彼らが言うには奴らは殺さないように痛めつけていたようで、こちらが痛みでのたうち回る姿を見て、嗤っているようだったと」
こちらを挑発しているとしか思えない行動をとり、獲物を痛めつけることを楽しんでいるような残虐性に思わず息をのむ。
ブラックウルフは賢い魔物として知られているが、それほどの残虐生を持っているなど聞いたことがない。
たまたまかもしれないが、そうではなければどういう目的でこちらを挑発するのか、意図がわからないのも不気味だ。
「冒険者を挑発し、遊ぶようにいたぶる残虐生の高い魔物に冒険者が次々敗れているなど公表すれば混乱が生じるとギルド本部は判断して、情報の開示は一部のギルド関係者と関係者が許可した人間に限られている。
私は、君たちなら、奴らを討伐し、人々に平穏な暮らしを取り戻せると信じてこうして話しているのだよ。どうだろ、依頼を受けてくれないか」
ブラックウルフは強く、群れで行動する魔物だ。群れの中で最も強いものがリーダーとなり、そのリーダーが他のブラックウルフを統率して攻撃してくるやっかいな魔物だ。
A級冒険者であろうとも単独での討伐は難しいと言われている。そんなブラックウルフをアメリアたちパーティーが討伐したとなればキースのみを評価し、馬鹿にしていた人々も彼女たちの実力を認めるしかないだろう。
しかし、普通のブラックウルフとは違い、弱者をいたぶるような残虐性をもつ群れだ。
もし、負けてしまったらと思ったら、言葉にはならない恐怖をアメリアは感じた。
「アメリア、この依頼、受けよう」
知らずにうつむいてしまった顔を上げるとキースが力強く頷く。
「この依頼を成功させてアメリアたちの実力をみんなに認めさせよう」
「…キース」
「それに、僕だってアメリアたちを馬鹿にする奴らに腹が立っていたんだ。
成功させて僕の愛する人たちはこんなにも素晴らしい人たちなんだって多くの人たちに知ってもらいたいんだ」
アメリアが顔を上げると他の仲間も頷いている。
その顔はアメリアのように恐怖ではなく、自分たちならばやれるという自信に溢れたものだった。仲間たちの顔を見て彼女は先ほどまで感じていた恐怖が消えた。
「その依頼『四本の白きバラ』が成功させます。私たちに任せてください」
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