132 どうか安らかに
アッシュたちが悩んでいることなど、お構いなしにスケルトンは剣を向けてくる。避けるのは難しくないのだが、躱す先を予想してその地点に他の敵が待ち構えているのが厄介だ。
そういう連携を見ていると生前は訓練された兵士だったのだと改めて感じさせた。
「――植物よ」
攻撃することができないので一人一人魔法を使い、動きを封じるがいつまで保つかわからない。
「アッシュ君、一旦逃げた方がいいんじゃない?」
彼の考えを尊重して回避することに専念しているヒルデが提案する。
しかし、アッシュの顔は苦しそうに眉間にシワを寄せたままだ。
「そう、だな」
ここから逃げたとしても他のスケルトンが現れるだろうが、倒せずに彼らの相手をしている今の状況が続けばアッシュたちも無事では済まなくなるだろう。
自分のわがままにこれ以上ヒルデを付き合わせて怪我をして欲しくないと考え直し、逃げようとしたときに、あの光が辺りを包んだ。
またどこかへ飛ばされたのだろうかと思ったが、閉じていた目を開けても景色は変わっていないので転移されたわけではないようだ。
何だったのかと周囲を見るとスケルトンたちの動きが止まっていた。そして、そのまま崩れ落ちるようにして、ただの骸へと戻った。
また動くのではないかと警戒するがいつまで経ってもスケルトンとなって襲って来ることはなかった。
「もう大丈夫みたいだね」
「ああ」
先ほどの光は神社で貰ったあの首飾りから出たものだったようだ。ポケットから取り出して改めて見るが特に変化はない。
「なんか彼らとダンジョンの関係を断ち切って浄化したように見えるね」
「俺たちにこれを託したのはこれが目的だったのかもな」
彼らを傷つけることなく、元に戻せたことに安堵し、アッシュは骸の側まで行くとしゃがんで手を合わせた。
どうか彼らの心がこれ以上脅かされることなく、安らかな場所に行けるようにと想いを込めて。
「この人たち、このままここに置いてくしかないね」
「ああ、そうだな」
アッシュとしては彼らを持っていき、遺族に引き渡して丁重に弔って欲しいと思っている。そのためにはペンダントに収納しなければいけないのだが、それでは彼らを物として扱うようでどうも気が引ける。
それにこの先にも彼らと同じようにスケルトンとなっている者がいるはずで、それら全ての骸を回収するというのは不可能だろう。
ここでアッシュたちが中途半端なことをするよりも後に調査に来るであろう人たちに任せた方がいい。そう考えるともう一度手を合わせ、必ず迎えに来るので少しだけ待っていてくださいと語りかけ、アッシュは彼らに背を向けて歩き出した。
どこに行けばいいのか検討もつかないので一つ一つ部屋を確認しながら歩くのだが出会うのはスケルトンのみだ。その都度首飾りの光で浄化しながら進むのだが、キリがない。
「目的地がわからないとキツいな」
「アッシュ君、魔力を探ってみれば? 何かわかるかもよ」
言われてみれば、以前入ったことのある場所だからと思って探ることをしていなかった。ヒルデに見張りを頼むとアッシュは魔力を探った。一階だけしかないが広いので大変だと思っていると、ある一箇所から強い魔力を感じた。
「ここから近い場所に何かあるな」
「じゃあ、とりあえず行ってみようか」
ヒルデの言葉に頷くとアッシュは魔力を感じた場所へと歩き始めた。
目的地に近づくにつれてダンジョン特有の魔力は強くなり、何か嫌な予感がする。
何故かスケルトンに遭遇せずに進んでいると大きな扉が見えてきた。
「ここ、見たことある気がする」
「玉座の間だな」
過去でスイムイ城に来たときに入ったことがある。神女と呼ばれた女性たちが跪き、奧に王であるハリユンが座っていたあの部屋だ。
慎重に重い扉を開けると、あのときに見たままの部屋だった。
「誰もいないね」
「確かに感じたんだけどな」
周囲を警戒しながら奧へと歩くが、入る前に感じた魔力の正体は見当たらない。諦めて背を向けて扉へ戻っていると急に玉座から纏わり付くような気配を感じた。思わず振り返るとアッシュは目を見開いた。誰もいなかったはずなのに、いつの間にか椅子に男が座っていたからだ。
男は椅子からゆっくりと立ち上がり、こちらに歩いてきた。最初はわからなかったが近づくにつれてハッキリと顔が見えてくると二人は息を呑んだ。
「…ハリユン」




