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128 彼女の顔をした何か

「あれ、どうしたの。行かないの?」


 一向に動こうとしない彼に彼女は首を傾げる。


「もしかして、怖くなったの?」


 彼女の問いかけにもアッシュは答えようとせず、うつむく。そんな彼の姿に彼女は優しく微笑みながら甘えるように、そっとアッシュの背に手をまわす。


「ならさ、止めようよ。冒険するなら別の場所でもいいんだから」


 怖がる子供を慰めるように抱きしめると、うつむいたままの彼の頬に振れ、自分の顔を近づけてきた。


「ねぇ、アッシュ君、僕、君のこと」


 もう少しで唇が触れ合おうとしたとき、ようやくアッシュは口を開いた。


「同士討ちで倒れなかった奴はこうして外に出すんだな」


 その言葉に目を見開き、アッシュの顔を改めて見た彼女は息を呑んだ。間近で見る彼の目は自分に告白してきた女性を、ましてや仲間を見るようなものとは到底思えないほど冷たかったからだ。


「ど、どうしたの? 変だよ、アッシュ君」


 まだ白を切るつもりの彼女にアッシュは眉を顰めて睨み付ける。その気迫に彼女は思わず体を震わせると彼の背から手を離して距離を取るように後ずさった。


「お前が偽物なのはわかってる。ヒルデのふりをするのはもう止めろ、不愉快だ」


「何、言ってるの。僕は僕だよ。偽物なんかじゃ」


 ここまで言ってもなお、とぼけようとする姿に苛立ちが抑えられない彼の目はますます鋭くなる。その眼光は近づくだけで切り裂く刃のように見え、彼女は不自然に言葉を詰まらせた。


「本物だっていうなら、何で戦斧を持ってないんだ?」


 問いかけの意図を考えつつ、慎重に彼女は口を開いた。


「何でって。さっきも言ったけど、重いから仕舞ったんだ。

 アッシュ君、忘れてるかもしれないけど、僕はか弱い女の子だよ。あんな重いの、ずっと持ってるなんてできないよ」


 彼女の答えを聞くと彼は失望したような頭を横に振り、大きなため息を吐いた。


「重いんだからいつもは仕舞えばいいんじゃないかって俺が言っても頑なにそうしようとしなかったのに?

 ましてや、ここはいつ襲われるかわからない危険な場所だ。ヒルデのような戦い慣れたヤツがそんなところに来てるっていうのに武器を仕舞うなんてするわけないだろう」


 怯えるような表情でアッシュを見つめていた彼女はうつむいたと思ったら、大きく笑い出した。これ以上は誤魔化しても無駄だと悟り、本性を現わした途端、彼女を中心にあの纏わり付くような嫌な魔力が渦巻いていた。


「重い上に邪魔になるから、なくてもいいと思っていたが失敗したな。あれを持っていたら完璧に欺せていたのにな。」


 彼女の突然の豹変を見ても彼は眉を顰めたまま、表情を変えることはなかった。


「いや、お前がヒルデじゃないなんて最初からわかっていたさ」


 社を前に足が動かなくなったアッシュにヒルデは気遣うように優しく手を引いた。そんな彼女が彼の意思を聞こうとせず、強引に手を掴んで引っ張るなどするはずがない。

 それに言葉の端々からこういえば相手は喜ぶだろうという傲慢な考えが明け透けていた。彼女の姿でそのようなことをすれば違和感しかない。


 アッシュの言葉を聞くと彼女は先ほどよりも大きな声で嗤いだした。ヒルデの顔で嗤う、その声が耳障りで殴りたくなったが、何かわかるかもしれないと苛立つ心を落ち着かせて相手の出方を見ることにした。


「相当信頼しているんだな。だが、こいつが何故お前に近づいたのか、わかるか?

 それを知れば、そんな信頼など」


「それがどうした」


 大人しく聞こうと思ったが、あまりに不愉快なのでアッシュはつい話を遮ってしまった。


「なに?」


 一方、ヒルデが純粋な想いで近づいたのではないことを知れば動揺すると思っていたのに、そんな気配が微塵も感じられないことに疑問を持った彼女は顔を歪めて問いかけた。


「会ったばかりで何も知らない人間を信頼するなんて、普通に考えれば不自然だ。何か目的があって近づいてきたとしか思えないだろう」


 以前何か探しているものがあり、アッシュと一緒なら見つけられるかもしれないと言っていたので彼女が近づいてきた理由というのはそれだろう。

 たとえ、違う目的なのだと聞いたとしても彼は揺らぐことはない。







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