124 一攫千金を夢見る者たち
宿に泊まり、十分休むことが出来たアッシュたちはユナの街にあるという冒険者ギルドを訪れていた。スイムイ城跡地はギルドが管理し、冒険者以外立ち入り禁止だとヌシンから聞いたので中に入るために手続きに来たのだ。
「意外と人いるね」
冒険者を見かけないとフシヌは言っていたが、中にはそれなりに賑わっていた。確かに、よく知るギルドより人は少ない。
だが、どこか自分たちが知る冒険者とは違う雰囲気することに首を傾げながら受付へと進んだ。
アッシュたちの番になると受付の女性はニコリと笑って口を開いた。
「ご用件はなんでしょうか」
「スイムイ城跡地に入りたいのですが」
彼の言葉を聞くと女性は小さくため息を漏らした。
「貴方たちもなんですか」
思わず呟いてしまったのだろう。すぐに失言だったと気づいたようで彼女は慌てた様子で謝ってきた。
「あ、申し訳ありません」
「受付の人がそんなこと言っちゃうぐらい多いの? そこに入りたい人って」
恐る恐るヒルデの顔を見て、アッシュたちが怒っていないことがわかった彼女は胸を撫で下ろして答えた。
「はい。スイムイ城には宝が大量に残されていると一部の冒険者たちに人気らしく、このギルドにいるほとんどの人はそれが目的のようです。
なので、受付に来る冒険者はスイムイ城跡地に入りたいか、入ったが霧で前が見えなかったなどの苦情に来るかのどちらかしかいないのが現状です。
貴方たちは他の冒険者と雰囲気が違うので、宝目当てではないと勝手に思っていたので、つい」
それを聞いてアッシュは納得した。冒険者にしては浮ついたような者が多いと思っていたのだが、宝の話を聞きつけて一攫千金を夢見る者ばかりがここに集まっているようだ。
見る限り、実力のない者が多そうだ。大方、魔物を狩るよりも宝を見つけるだけでいいので危険はないし、簡単だと考えているのだろう。
しかし、いざ挑戦してみると霧でどこに行けばいいのかわからないうえに魔物に襲われることから割に合わないとすぐに諦めると言ったところだろうか。
だが、そんな短絡的な考えしか出来ない冒険者が自分の失敗を素直に受け入れるとは思えない。自分たちの浅慮を棚に置き、探索の失敗をギルドの責任だと詰め寄る者も少なくないことは受付の女性の態度からもわかる。
「私、ティーダの出身なのでスイムイ城がそんな人たちに荒らされているのだと思うと何とも言えない気持ちになってしまうんです。スイムイ城は竜宮城ではないのに」
「竜宮城?」
聞いたことのない言葉にアッシュは首を傾げる。その顔を見た女性は慌てたように説明した。
「竜宮城というのは、オノコロノ国の人なら誰もが知っている昔話に出てくる城です。主人公が助けた亀によって招かれた海の中にある場所で、そこでは海に住む生き物が舞い踊り、真珠や珊瑚といった様々な宝が納められた美しい城として描かれています。
スイムイ城を竜宮城と呼んでいる冒険者の方が多く、そこには昔話のように大量の宝があるのだと皆が思い込んでいるようです」
おそらく、昔話を知っている誰かが言ったのが伝わり、それを信じた冒険者がスイムイ城跡地に押し寄せているのだろう。
ティーダの民としては自分たちの誇りであるスイムイ城が、そんな邪な想いを持った者たちに踏み荒らされているというのは気分のいいものではないことは考えなくともわかる。
「あ、今、私が言ったことは他の冒険者さんたちには秘密にしてくださいね」
アッシュたちが他の冒険者と違うと感じたので、つい自分の気持ちを話してしまったのだろう。彼らが頷いたのを見た女性は、安堵のため息を吐くと手続きのための書類を出す。
「ギルドが管理する立ち入り禁止の場所に入る際の注意事項などが書いてあるのでよく目を通してから空欄にご記入してください」
机に置かれている紙に書かれていることを確認しながら名前など必要な項目に記入し、二人のギルドカードと共に彼女に提出した。ギルドカードや書類の不備ないことを確認すると彼女は顔を上げて、笑顔でカードを返却した。
「はい、問題ありませんでしたので、いつ入って頂いて構いません」
「あの、スイムイ城跡地について詳しく教えてくれませんか?」
ただでさえ正体がわからない場所に行くのだ。情報はあった方が良いと思ったアッシュたちはユナの街の人たちに聞いてみたのだが、ヌシンから聞いた以上の情報は得られなかった。ギルドなら知っているのではないかと思って尋ねたのだが、女性は眉を下げて困ったような顔をした。




