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123 夜が明ける

「そういえばさぁ、ダンジョンコアを壊したらどうなるの?」


「聞いた話では、天井や壁が崩れて来て、しばらくすると外に出てるらしい。

 それで、ダンジョンは完全に消滅してあとには何も残らないらしいんだが」


 アッシュは経験したことはないが、S級冒険者パーティーである黄金のゼーレはスタンピードを起こす危険性があるダンジョンの調査とコアの破壊を依頼されて何度が行ったことがあると言っていた。


 そのときに色々言っていたが、今回のようなダンジョンコアの状態は聞いたことがなかった。わからないことが多いので破壊しない方が良かったのかもしれないが、禍々しくこちらを攻撃して来ることからも壊す以外の選択はなかっただろう。


「…扉は変わったけど、他は何も変化ないよ。天井も壊れてくる様子もないし」


 コアを破壊したことであの嫌な魔力はなくなり、辺りは清浄な空気が満ちている。扉は美しい細工がされている木造のものに変わっているが、それ以外に変化はない。

 まるで、異物であるコアが取り除かれたことで元の姿を取り戻したかのようだ。


 首を傾げるアッシュたちの前にまたあの魚が姿を現わした。感謝をするように魚が彼らの周りを優雅に一周するとひとりでに扉が開く。

 扉の奥には鍾乳洞の岩をくり抜いたような部分に小さな社が建てられていた。見たことがないほどの神々しい景色を前に動けなくなったアッシュを魚は入ってこいと言うように中で待っている。


 それがわかっているにも関わらず何故かためらってしまい、一歩も進めないアッシュに気がついたヒルデが笑顔を向け、優しく彼の手を取った。


「行こうよ。待ってるみたいだよ」


 彼女に手を引かれてゆっくりと扉の中に入ると清らかな魔力と肌寒いほどの張り詰めた空気がアッシュを包む。社と鍾乳石以外何もない場所であるにも関わらず、まるで別の世界に来たかのようだ。


「凄いな」


 感嘆の声を上げる彼をヒルデは手を放して満足そうに微笑む。周囲を見ているとあの魚が近づいてきたかと思うとアッシュの手に自分の長く赤いヒレを絡みつかせた。

 振り解けばいいのかもしれないが、それが出来ずに魚を見ていると彼の頭の中に女性の声が聞こえた。


 ――どうか、囚われたままのあの子たちを救ってください。


 その声の主にどういうことかアッシュが問おうとする前に二人は光に包まれた。

 眩しくて目を閉じる彼の耳に波のさざめきがする。不思議に思い、目を開けると暗い海に溶けるような形をした太陽が昇って来ているところだった。しばらくすると太陽は本来の丸い姿を見せ、辺りは明るくなってきた。


「夜が明けるのか」


 神社に入ったときはまだ日は高かったので少なくとも一日近く中にいたらしい。

 辺りを見回すとアッシュたちが立っているのはダンジョンへの転移の魔方陣があった岬だとわかった。


「戻って来られたみたいだね」


「ダンジョン、いや、神社は変わらずあるみたいだな」


 アッシュたちを導いた清らかな魔力は消えることなく辺りに漂っているので存在はなくなってはいないようだが、転移の魔方陣が見当たらない。


「あれ? アッシュ君、何持ってるの?」


「え?」


 ヒルデに指摘されて自分の手を見ると、魚のヒレが絡みついていた方の手にアッシュはいつの間にか何かを握りしめていた。恐る恐る手を開いてみるとクグルが着けていた首飾りと同じ物を持っていた。


「何故、これがここに?」


 首を傾げていると首飾りから一筋の光が放たれた。その方向を見るとスイムイ城跡地を指していた。アッシュたちがそれを見たのを確認したかのように光は次第に弱くなり、ついに光はなくなった。


「次はあそこに行けってこと?」


「そうみたいだな」


 謎の女性は誰かが囚われていると言っていた。光が差したと言うことはそこに、来る者を迷わせるという霧に覆われたスイムイ城にいるのだと言いたいのだろう。


 何か他に手がかりがないかと首飾りを見ていたアッシュの視界が歪む。色々考えることはあるが、体が限界だ。

 彼の様子がいつもと違うことに気がついたヒルデが彼の顔を覗き込みながら問いかける。


「アッシュ君、どうしたの。調子悪そうだけど」


 倒れそうになるのを何とか堪えて、彼は答える。


「メガロオドンシスを倒すときに一瞬だけ極限まで集中してたらしくてな。実は立ってるのも辛い」


「え、ちょ、それ早く言ってよ。大丈夫!?」


 それを聞いたヒルデは慌てて彼の体を支える。少し格好悪い気もするが体が思ったように動かないので礼を言って彼女に甘えることにした。


「つまりさぁ、今度は無防備にならないで、しかも短時間で集中してアッシュ君の先生と同じ域に達することが出来たってこと? 何かきっかけでもあったの」


「…無意識でしたみたいだからな、よく覚えてない」


 覚えていないと言うのは嘘だ。彼女の言葉で前を向くことが出来たからこそ出来たのだろう。


「悪い、今回、ヒルデに迷惑ばかり掛けてるな」


 今だけではなく、いつもヒルデには助けられている。色々思い出すと自分の未熟さを自覚し、落ち込むアッシュに彼女は微笑みながら首を横に振った。


「アッシュ君、助け合うのが仲間だよ。つらいときは我慢しないで言ってね」


「そうだな。ありがとう」


 霧に覆われたスイムイ城に謎の女性の頼みと考えなければいけないことは多いが、今はこのままこうしていたいと思ってしまいそうになる気持ちを見ない振りをして、昇る太陽を背にヒルデの肩を借りてゆっくりと歩き出した。








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