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120 血に染まる水

 ヒルデは彼のように完全には避けきれないが、怯むことなくメガロオドンシスへと向かう。アーキテウティスにアッシュが引きずり込まれたにも関わらず何も出来なかったときのような思いはしたくない、何より彼を失いたくないという一心で斬られた痛みも今は感じず、ただひたすら前へと走った。


 新鮮な血の匂いがしているにも関わらず、こちらに向かって来る気配がなくなることがないことに疑問を感じた敵は、ようやく見えてきた目で何が起きているのかを確認しようとして思わず攻撃の手を緩める。

 その一瞬を狙ってメガロオドンシスの左右に二人はそれぞれ体を滑り込ませ、ほぼ同時に武器を振る。あれほど堅く傷つけることだけしか出来なかったはずの皮膚から血が噴き出し、辺りの水はみるみると赤く染まる。

 敵は何度か痙攣を繰り返すとピクリとも動かなくなった。




「倒せたのか」


「…みたいだね」


 メガロオドンシスを倒せたことを確認すると二人はお互いに顔を見合わせ、そして微笑み合った。


「やったね」


「ああ」


 敵を倒せたことも喜ばしいが、柱を斬るほどの斬撃の中に覚悟を持って飛び込んだ彼女が無事であることにアッシュは胸を撫で下ろした。

 メガロオドンシスに近づいて手を合わせ、ペンダントに収納すると尋ねたいことを思い出した彼はヒルデの方に顔を向けた。


「そういえば、メガロオドンシスは何で海の水を浴びて動けなくなったんだ?」


 こんな場所に出現するということはあの鮫はアーキテウティスなどと同じで海を生きる魔物のはずだ。そんな敵が水を浴びたからといって動けなくなるだろうかとずっと思っていたのだ。


「ああ、それね。

 鮫はロマンっていう僕のお父さんが言うにはメガロオドンシスって速く泳ぐために一部だけ体温が高いんだって。実物見てたら、海に潜るときだけ膜みたいなの張ってたからさ、それって体温を下げないためにしてるのかなって。

 なら、膜を張る前に冷たい水浴びせちゃえば動けなくなるんじゃないかなって思ったんだ」


 確かに潜った直後の敵は滑らかだったが水から出てすぐにザラザラとした皮膚になっていた。この場所にある水も暗い海の中ほどではないが冷たく、ここの温度に耐えきれず体を守る膜を張るのならば、氷のような水を全身に浴びれば動けなくなるだろう。

 アーキテウティスによって海に引きずり込まれ、あまりの寒さに気を失いそうになったアッシュにはそれがよくわかった。


「だが、それにしても壁を壊すだなんてとんでもないことをするとは思わなかったよ」


 時間を稼げというので、腕を切り、血の匂いでメガロオドンシスを引きつけるのが上手くいっていることを確認すると、適当な部屋に入り、アッシュの姿に見えるように近くにあった柱で偽装し、光る花を置いたのだ。


 メガロオドンシスは彼の思惑通り罠にはまり、柱に噛み付いたことで仕掛けていた花がつぶれて光の爆発が起きた。血が流れる腕をポーションで治してから見つからないように隠れていた。

 光の爆発を見て敵が罠にはまったのを確信すると再び腕を切り、わざと血を滴らせながら廊下を走ってヒルデが待つ場所へ戻ると海とダンジョンを隔てる壁を壊そうとしている姿が見えたので驚いた。


 何でもアッシュが海に引きずり込まれたときに透明な床が壊せなかったことで助けに行けなかったことを後悔したヒルデは彼が気を失っているときにどうにか壊せないかと色々試していたらしい。


 そんなに上手くいくものかと見上げると壁にヒビが入った。

 自慢気にしている彼女をしり目に唖然としていると後ろからメガロオドンシスが追ってくる気配がした。アッシュは慌ててまだ治していなかった腕の血を壁に塗りつけると急いで二人の傷をポーションで治して隠れていたのだ。







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