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116 夢の中の老人

 髪の毛が真っ白になった老人がベッドに横になり、誰かに話しかけている。


『体が動かなくなってから、冒険者が話してくれた景色というのはどんなものだったのだろう、私が赴くことが出来なかった場所はではどんな文化が築かれているのだろうかと後悔ばかりだ』


 力が入らないだろう手を強く握り、悔しそうに眉にシワを寄せる。


『私に勇気があれば、力があればと考えない日はない。

 もし少しでもあれば、私はもっと自由に世界を見ることが出来たのではないかと』


 話しかけられている人物はそっと老人の手を握る。しかし、その顔は逆光でよく見えない。

 老人はその人の方に顔を向け、静かに微笑む。


『だが、最後に君という友人を得ることができた。君の冒険話を聞けて楽しかったよ、ありがとう』




 アッシュが目を開けると見知らぬ場所で横になっていた。何か夢を見ていたような気がするがもう思い出せない。ぼんやりする頭を振り、上半身を起こすと自分の右手が握られているのに気がついた。


「…ヒルデ?」


 彼の手を握っていたのはヒルデだった。どこか大人びた笑みで彼女は尋ねた。


「おはよ、アッシュ君。よく眠れた?」


「ここは?」


 辺りを見回すと机などがあり、自分が横になっているベッドも質の良い物のようでかなり高い宿の部屋ようだ。

 だが、アッシュがいたのはダンジョンの中だったはずだ。それから出た覚えも、ましてや宿に泊まった記憶もない。


「ここ? 僕の野営テントの中の部屋の一つ」


「はぁ!?」


 何度か外から見たヒルデの野営テントはアッシュがギリギリ横になれるほどの広さしかなかったはずだ。ましてや、机やベッドなどが入るはずがない。


「僕のお母さんって魔法が得意でね。空間魔法を応用して作ってくれたんだ。

 ビックリした?」


 イタズラに成功した子供のような顔で彼女は笑いかける。


 そもそも空間魔法自体、使用できる者などあまり聞かないのに、それを応用した物など想像できるはずもない。それを知っているからこそ、ヒルデは聞いているのだ。


「それで、俺はどうなったんだ」


 アッシュの最後の記憶は彼女がアーキテウティスを倒したあと途切れている。おそらく、倒せたことに安堵して緊張の糸が切れてしまったのだろう。


「もう大変だったんだよ。アッシュ君が海に引きずり込まれたあと、なんとか透明な板みたいなの破壊できないか試してたんだ。そしたら、大きな音がして何かって見たらアッシュ君もあのイカが出てきてるし。

 で、倒したって思って、アッシュ君の方見ると倒れてるしで」


 その後、意識がないアッシュを担いで近くにあった安全地帯まで行き、野営テントを設置して今に至るらしい。

 そのときのことを思い出したのか、ヒルデは握っている手に力を入れ、悔しそうに眉間にしわを寄せる。


「ごめん。僕、何も出来なかった」


 よく見ると彼女の手の側面が赤く腫れている。透明な板を破壊するために戦斧だけではなく、素手でも試みたのかもしれない。そうだとすれば、申し訳ないと思うと同時に自分を心配してくれる人がいてくれるということに自然と心が暖かくなる。


「いや、ヒルデに助けられたよ」


 そう言うと、彼女は頬を膨らませてむくれる。


「嘘だ」


「嘘じゃないさ。ヒルデから貰った魚の餌がなかったら、どうなってたか」


 訳がわからないというように首を傾げる彼女にアッシュはアーキテウティスによって海に引きずり込まれたあとのことを説明した。

 それを聞いてもヒルデは納得いかないような顔をしている。


「僕が助けたって言えるのかな、それ」


 彼女の疑問にアッシュは力強く答える。


「少なくとも、俺一人だったら何も出来なかった。ありがとう、ヒルデ」


 真っ直ぐなその目を見てヒルデは大きなため息を吐き、返事の代わりに困ったように微笑んだ。まだ自分の中では納得していないのだろうが、感謝の言葉を受けて素直に受け取ることにしたようだ。








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