115 希望の灯り
拘束されている上に海の中なので息が続かない。
また、暗い海は凍えるように寒く、意識を失いそうになるが、なんとかに堪えて前を向くとアーキテウティスの全体像が見えてきた。水の中から出てきた部分だけでも大きかったが、全体はその大きさに圧倒されるほどで倒せるのかと一瞬思ってしまった。
そんな弱気なことを考えていたことを振り払うかのように頭を振り、拘束を外すのは諦めて刀に手を伸ばそうとするが、届かない。
アーキテウティスは拘束を緩めず、他の触手を揺らめかせ、額の赤く石が不気味に光る。
どうにか手はないのかと意識が遠のきかける彼の目の端に淡く光る星が映った。幻まで見えてきたのかと思ったが、よく見るとそれは最初にダンジョンに入ったときに渡り廊下で見たあの発光する魚の群れだった。
何故かと思っているとヒルデが彼のズボンのポケットに入れた餌が海の中を漂ってるのが見えた。海に引きずり込まれたときにポケットの外に出てしまい、それに集まってきたようだ。
こんなときなのにやはり綺麗だと目を奪われていると、アーキテウティスも魚の方に注目し、拘束が緩んでいることに気がついた。
敵に気づかれないように慎重に手を伸ばすと刀の柄を掴むことが出来た。これならば、と思ったアッシュは刀を振って、自分を拘束していた触手を斬り落とし、本体に繋がっている触手を足場にして近づいた。
攻撃されたことでようやく拘束が解かれたとこに気がついたアーキテウティスは触手を動かすが、その前に迫ってきたアッシュに額にある石を刀で突かれ、壊された。
石を壊された敵は痛みで転げまわるかのように触手が暴れる。海の中では避けることはもちろん、ろくに受け身を取ることも出来ず、まともにアッシュに当たった。
その衝撃で空へと打ち上げられ、地面に叩きつけられた。
ぼやける視界に映るのは見覚えがある崩れ落ちそうなほどボロボロの階段だった。
海の中から戻ってくることが出来たのだと安堵し、飲み込んだ水を吐いたあとに大きく息を吸い込む。
ただ呼吸が出来るという当たり前なことに、これほど感謝することはきっとこの先ないだろう。
アッシュが荒い呼吸を繰り返していると前方から大きな水しぶきが上がった。顔を向けると、アーキテウティスが海の中から大きな体全身を出したところだった。その姿を見て、刀の柄を握ろうとするのだが、連戦の疲労に加え、水で濡れて冷えた体はもう限界のようで上手く手が動かない。
しかし、様子が可笑しいのは彼だけではなく、アーキテウティスもだ。
水から出てきたはいいのだが、何故かその場に寝転び、藻掻くようにして触手を動かしている。
「まさか、体が支えられないのか」
あんな巨体なのだ。水の中ならいざ知らず、よく考えれば、地上では重くてまともに動くことも本来出来ないだろう。
もしかしたら、アッシュが壊したあの赤い石の能力によりバランスを保ち、動き回ることが可能になっていたのかも知れない。
今がアーキテウティスを倒せる絶好の機会だというのに彼の体は一行に動かない。
不甲斐なさで唇を噛む彼の耳に上の方から音が聞こえた。
音は二階にいたヒルデが、敵に向かって飛び降りたものだった。彼女に気がついたアーキテウティスは触手を動かし、抵抗しようとする。
だが、彼女の戦斧は向かって来る触手を斬り落とし、そのまま本体へと振り下ろした。
暴れているようだった触手は急に動きを止め、アーキテウティスは後ろに倒れ込んで動かなくなった。ヒルデが敵を倒したのだと理解し、安堵した途端、アッシュの意識が途切れた。
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