12 嘲笑う声
「あの、ギルドマスターに呼ばれているんですよね。早く行かなくていいんですか」
もともとギルドマスターに呼ばれてギルドに来たはずなのに一向に進む気配がないのにアッシュは心配になり尋ねる。
彼の姿を見たダンは小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「あ、いたんだな、お前」
ダンがそういうとギルドにいた冒険者たちは大声で笑い出した。
「おい、ダン、可哀想だろ、そういうこと言っちゃ」
「え、なに『四本の白きバラ』なのに余計な五人目がまだいんの」
「じゃ、『五本の白きバラ』じゃねぇの。五人なんだし」
「だから余計なって言ってんだろう」
次々にアッシュをからかう声が飛び交う。そのたびにギルド中に笑いが起こる。
彼は唯々うつむいて耐えていた。
そんなアッシュを見て気の毒そうな顔をするが、アメリアたちは前のようにかばうことはなかった。
「待ってくれ。ギルドマスターに呼ばれているのになかなか行かなかったのは僕のせいだ。
アッシュ君は声を掛けてくれただけだ」
たまらず、キースはアッシュを自分の背にかばった。キースよりも大きいはずのアッシュがなぜか小さく見えた。
キースの言葉にまた、ギルドでは再び笑いが起こった。
「さっすがキース様。虫けらにもお優しいなんて涙がでるねぇ」
「お前、虫けらなんて言ったらまたキース君に怒られるぞ」
「かー、イケメンでB級の実力者でおまけに人格者なんて、かなわねぇな」
「おいおい、そんなの当たり前だろう。アメリアちゃんたちが好きになるの無理ねぇわ」
「男の俺たちも惚れちまいそうだもんな」
ほかの冒険者と一緒に笑っていたダンが、この状況にどうしていいかわからず戸惑っているギルド職員の女性に気づいた。彼女はおそらくギルドマスターから部屋への案内を頼まれたのだろう。
しかし、この騒ぎにどう声を掛けていいのかわからないようでおろおろしていた。
「忙しいところからかって悪かったな、キース。ギルドマスターに呼ばれてたんだったな。おう、嬢ちゃん、こいつらの案内頼むわ」
声を掛けられた職員はダンとキースの顔を交互に見てキースが頷いたのを確認すると彼らを案内するために歩を進めた。
ギルドマスターの部屋に近づくにつれ、大きな声が聞こえてきた。最初は何を言っているのかよくわからなかった。
しかし、ギルドマスターの部屋の前まで来るとギルドマスターが怒鳴っているのだとわかった。
「ブランクが誰だかわからないとはどういうことだね。ちゃんとギルドの幹部である父君にも聞いたんだろうね、ミミー君」
「父も調べていますが、誰だかわからないと聞いています」
「本当かね」
「他の幹部が関わっているとしかわからないそうです」
ドア越しでもマテオの大きなため息が聞こえた。
「こんな頼みもまともに出来ないとは」
「な、ひどい。調べたのにわからないのはしょうがないじゃないですか」
「なんのために、冒険者の意見も聞かずにパーティーを解散させたり、メンバーを勝手に追加したりする君の勝手を許していたと思っているのだね。
君がギルドの幹部を父に持つからに決まっているだろう。こんなときに役に立たないでいつ役に立つんだね」
「それは私の勘がそうした方がいいと感じたからそうしただけで、結果その方がよかったんですから、何も悪いことはしてないじゃないですか」
「もういい。下がりたまえ」
「――はい。失礼します」
重いドアが開くとミミーが出てきた。その目には涙がたまっており、今にもこぼれ落ちそうだ。アメリアたちがいるのに気づいたミミーは会釈をしてそのまま立ち去った。
彼女たちは呆然とミミーが去った後を見ていた。
部屋ではまだ怒りが収まっていないマテオの声が聞こえた。その声に自分がすることを思い出したのか案内していた職員がドアをノックした。
エピソードタイトルを変更しました。内容には変更ないのでご安心ください。
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