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109 苦痛の表情

「すまない」


 自分が光る花を出さなければ敵を引き寄せることなどなかったと不注意な行動を後悔すると同時にシゲルほどの腕がない未熟な自分が許せずに拳を強く握る。

 そんなことを考えているアッシュにヒルデは首を振った。


「謝るより、今はどうするのか考える方が先だよ」


 わかってはいるのだが、自分の不甲斐なさに思わずうつむいてしまうアッシュを見て、彼女は安心させるように微笑む。


「反省は二人で無事にこのダンジョンから出たあと、でしょ?」


 その笑顔にアッシュはハッとした顔をすると彼女に答えるように不敵に口角を上げる。

 彼女の言う通り、反省はいくらでもできる。もちろん、無事に二人でダンジョンを出たあとだ。


「…ああ、そうだな。違いない」


 いつも一人で気負ってしまうアッシュを理解して、危険なときでも明るく何でもないように笑ってくれるヒルデに心の中で感謝し、刀を構えて追ってくる敵に備える。



 すると、まだ生き残っている何十匹ものフロニマ・バレルが体を揺らしながら現れた。アッシュたちの姿を確認すると小さなハサミを上から下に振る。すると、何故か地面に張る水から嫌な気配を感じ、横へ飛ぶとさっきまで彼がいた場所に水柱が上がった。あのままそこにいれば、水柱に当たり、天井に激突していただろう。


 アッシュの方を向いているフロニマ・バレルに近づき、ヒルデは戦斧を振るが、風圧で流される敵に攻撃が当たらない。


「戦斧が当たらないって面倒なエビだね」


 いつもの明るい物言いにわずかの焦りを滲ませて彼女は呟き、すぐに後ろへと飛ぶ。すると、さっきまで彼女がいた場所に水柱が上がった。ずっと同じ所に留まっていては敵の攻撃に当たってしまう。

 アッシュは当たらないように動き回りながら、フロニマ・バレルへと斬り掛かるが、先ほどのヒルデと同じく攻撃が当たらない。

 やはり、倒すための別の方法を考える必要があるとわかっているが何も思い浮かばない。


「アッシュ君、後ろに下がって」


 声がする方を向くと自信ありそうにヒルデが手を振っている。その顔を見る限り何か考えがあるのだろう。彼女を信じて、フロニマ・バレルに背を向けて走った。


「こっちまで来て」


 彼女がいる位置を確認して何をしようとしているのか理解した。言葉に従い、彼女の近くまで来ると前に飛び、水柱を回避した。水柱が上がると同時に水に潜んでいたパープルイールが打ち上げられた。目がつぶれて敵味方の区別が付かないパープルイールは自分を攻撃してきたフロニマ・バレルに向かって粘液を吹きかける。


 それを見てフロニマ・バレルはゆらゆらと動き、避けようとするが、回避出来ずに粘液がわずかに体に付着したいくつかの個体は動きが止まると途端に水の張られた地面に落ちた。味方が倒されたにも関わらずフロニマ・バレルは気にしていないようにアッシュたちを狙って攻撃をする。


 水柱が上がるが彼らには当たることはなく、代わりに打ち上げられたパープルイールが粘液を吐き出す。それをしばらく繰り返すと、パープルイールへと攻撃を変えるものが現れ、アッシュたちを標的とするフロニマ・バレルの数が明らかに減った。



 自分たちを狙う水柱がなくなり安心していると、ヒルデの近くで水しぶきが上がり、パープルイールとは異なる長い管状の物が現れた。それが何なのかと考える彼女に管が向かって来た。

 突然のことに驚きに目を見開いたが、すぐに立ち直り、落ち着いて躱した。

 だが、管は彼女を追いかけるようにして鞭のようにしなることで予想の付かない動きをし、回避してわずかの間、無防備になる彼女に当たり、壁に激突してしまった。

 管は満足したのか、また水の中に潜って姿を消した。


「ヒルデ!!」


 幸い、フロニマ・バレルの注目はまだパープルイールへと向けられているため、こちらに攻撃が向かって来るまで時間がある。水の中に潜む敵だけ注意しながらアッシュは彼女の側に駆け寄る。壁を背にして倒れ込むヒルデは苦痛の表情をしている。


「ごめん。油断した」


「そんなことはどうでもいい。立てるか」


 彼の問いにヒルデは力無く首を横に振った。


「あの管、麻痺持ってるみたいで思ったように動かない」


 ヒルデは麻痺消しのポーションを出そうしているようだが、手はわずかに震えるだけだ。アッシュは急いで自分の分を取り出して彼女に使った。


「ありがとう、アッシュ君」


 お礼を言って彼女は立ち上がるが、まだ麻痺が残っているのか無理をしているのがわかる。

 これではフロニマ・バレルに再び攻撃されれば、先ほどのように避け続けるのは難しいだろう。


「心配しないで。僕、大丈夫だから」


 こんな時でもアッシュを安心させようと微笑む彼女に何か言わなければと口を開こうとしたが、背後から魔物の気配を感じた。振り向くと数匹のフロニマ・バレルがこちらへと近づいて来ている。







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