108 光に集まる魔物
階段を降りるとアッシュは光る花を取り出し、辺りを見る。
先ほど建物の中にいたのと違い、木造の柱などはなくなり、綺麗に積まれた石の壁があるだけだ。変わらないのは、ダンジョンの暗さと水の張られた地面だけだ。
「ここって迷路みたいになってる? もしかして」
「かもな」
花を持ってもらい、魔力を探ると彼女の言う通り迷路のように入り組んでいるようだが、やはり、ハッキリとはわからない。
「じゃあさぁ、開いてる穴一つ一つ確認してくしかないのかな?」
石の壁は不自然に大きな穴がいくつか開いており、それを全部確認するには時間が掛かるだろう。どうしたものかと悩んでいると急に魔物の気配がした。
気配がする方を向くとフロニマ・バレルがゆらゆらと揺れながら空中を浮いていた。透明な樽のようなものに入った、同じく透明なエビのような姿をした魔物で、ヒルデが持っている花の光を見ている。花の光に惹かれて集まってきたのかもしれない。
降りているときに魔物の気配がなかったので階段のすぐ近くには出ないだろうと思い込んでいた。
戦うにしても数が多い上にストロング・ジョー・フィッシュと同じぐらい小さく、しかも揺れているということは攻撃しても武器の風圧で敵が流されて当たらない可能性がある。
アッシュの脳裏に風で舞い散り、不規則に落ちる木の葉を見事に斬るシゲルの姿が蘇り、思わず唇を噛む。彼ならば敵が風で流されて不規則な動きをするとしても難なく斬れるだろう。
だが、今の自分の腕は、まだその域まで達していない。なので、ここは逃げるしかない。
しかし、迷路のようなダンジョンなので迷ったり、行き止まりならば、逃げることも出来なくなるだろう。ならば、どうするかと考えているとフロニマ・バレルが透明な樽の中から出てきていた。
「うわ、何あれ」
敵の見た目に驚いているヒルデの手から花を抜き取り、敵の方へと投げる。大半は光に誘われてそちらへと行くが、他のフロニマ・バレルはアッシュたちから目を逸らすことなく、こちらに向かって来た。
「とにかく逃げるぞ」
「う、うん」
魔物の気配が比較的に少ない穴へとアッシュが走ると、彼女にそれに続く。中は通路のようになっていて、武器を振るには十分な広さがあるが、今は行き止まりに入らないように魔力を探ることで道を確認する。ハッキリと全貌はわからないが、行き止まりだけは魔力の流れが違うので避けられることに安堵し、逃げることに集中する。
「――植物よ」
走りながら、ばらまいていた種の上をヒルデが通り過ぎたのを確認すると彼は魔法を使い、ゼンゴ・ソウ・フィッシュのときにも使用した上まで伸びる草の壁を作った。それに触れると何匹かのフロニマ・バレルは引っ付いたが、まだ大量に残っている。何度か草の壁を作ることを繰り返すことで数を減らすことが出来たが、敵は執拗に追いかけてきている。
幸い、行き止まりにも入らず、他の魔物に出くわすことはないがそれも長くは続かないだろう。あれだけ減らすことが出来れば戦えるだろうかと走りながら考えていると、何か柔らかいものを踏んだ感覚がした。何かと下を見るとアッシュに向かって粘液が吹き付けられた。急なことに避けることが出来ずに粘液をまともに浴びて足を取られた。
粘液が放たれた方を見ると水の中からパープルイールが顔を出し、目がつぶれているにも関わらず、ぬめりを纏った太いヒモのような体をくねらせて鋭い歯をむき出しにして襲いかかってきた。
噛まれる前に後ろから来たヒルデが戦斧を振る。すると、パープルイールの体は斬られたことで二つに分かれて水の中に落ちた。
「大丈夫、アッシュ君」
「粘液を掛けられただけで怪我はないが、厄介なことになった」
逃げつつ、道を探ることに必死で十分に確認出来なかったが、この先にパープルイールの気配がいくつもある。これを全て避けてフロニマ・バレルから逃げるのは無理だ。
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