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100 緋寒桜が見せる幻想

 父親から聞いたというサメの話をヒルデがするのをゆっくりと聞きながら歩くと、別の建物に続く扉が見えた。開けると、同じように階段と扉以外何もない空間だった。


「あれ開けると、また過去の光景を見せられるのかな」


「今度こそ、何かわかればいいがな」


 アッシュが扉に手を触れると眩しい光が二人を包んだ。しばらくして、恐る恐る目を開けると、神社の外にいた。

 近くにある木には最初に来たときのように花が満開に咲いている。


「え? 外に出ちゃったの」


「いや、違う。やはり、ここは過去の光景なんだ」


 アッシュの言葉に首を傾げるヒルデに彼は上を指差す。見上げると、そこには海ではなく、雲一つない青空が広がっていた。周りを見渡すと建物は海に囲まれている高いところにあるようだ。よく見ると、ここはダンジョンの入り口である転移の魔方陣があった岬に建っている。


「もしかして、ここってヌシンさんが言ってた、ユナの街にあったティーダの神を祀った建物なのかな。でも、なくなったって言ってなかったっけ?」


「地上にあった神社が、何かのきっかけでダンジョンになって海の中に場所を移したってことなのか?」


 アッシュは専門家ではないのでわからないが、そうとしか考えられない。


「でも、こっちもいいね。海の中の神社も綺麗だったけど」


 海の中の神社というのは非日常的で目を奪われたが、こうして地上にあってもその魅力は失われることはなかった。あの桜のような花が咲いていることもあり、まるで幻想の風景のようで、今、自分がいるのは現実なのか、または夢の中なのかわからなくなる。


 美しさに感動していると何かを掃くような音が聞こえた。そちらを向くとクグルが箒を使って掃除をしていた。彼女の首には変わらず、あの貝のペンダントが掛かっている。


 下を向いていた彼女はハッとした顔をして、こちらに歩いてくる。アッシュたちに気がついているのかと思い、構えたが、彼らの横を通り抜けて鳥居の近くで止まった。

 誰かが階段から来るのを感じて覗き込むとハリユンが登ってくるのが見える。クグルが出迎えてくれたのがわかった彼は嬉しそうに微笑む。


「また、護衛を撒いてここにきたのですか?」


「あとで謝るから大丈夫だよ」


 そう言って悪びれもなく笑うハリユンにクグルは呆れたようにため息を吐く。


「チルダル様、怒るでしょうね」


「なに、ヤツならわかってくれるさ」


「そう甘えてばかりだと、いつか見放されてしまいますよ。もう貴方は子供ではなく、この国の王なのですから、もっと自覚を持ってください」


 クグルの言葉に彼は肩をすくめた。


「わかっているよ。だが、今日だけは許してくれないか」


 よく見るとハリユンは疲れたような顔をしている。そのことに気がついたクグルは木を見て、彼に提案した。


「なら、私と一緒に少しの間、お花見しませんか。ちょうど、緋寒桜も見頃ですし」


「あぁ、もうそんな時期だったんだね。忙しくて、そんなことも忘れていたよ」


 クグルは神社の方に向かうと、敷物を持って帰ってきた。それを桜の木の下に広げ、ハリユンを手招きする。


「クグル、君の膝も貸してくれるかい」


 ハリユンの言葉に彼女は目を瞬かせると、顔を赤らめて頷いた。


「…もう。今日だけですよ」


 クグルの膝を枕にして、彼は寝転がって桜を見た。


「今年も綺麗に咲いたね」


 しみじみと言う彼の頭に手を置き、クグルは優しく撫でる。ハリユンは心地よさそうに目を細めた。


「何かありましたか?」


 心配そうに覗き込む彼女に力無く笑う。


「わかるかい」


「そのような顔をすれば誰でもわかるかと。私には話せないことでしょうか」


 ハリユンは考えるようにして口を閉じ、彼女をじっと見つめる。クグルは大人しいように見えて少々頑固なところがある。話すことが出来ないのだと感じれば引き下がるのだが、今日は無理のようだ。やがて、観念したように彼は話し始めた。








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