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96 違和感のある街

 魚の導きに従い、扉を開けると海を裂くような長い渡り廊下になっていた。床は木造で、窓はおろか壁さえもなく、代わりには同じく木で出来た柵が付いている。

 その先は別の建物に繋がっているようで、左の方を向くとオノコロノ国風の庭園を色々な魚が優雅に泳いでおり、平べったい口で背中に白い斑点模様がある大きな生き物とそれに従うように小さな魚が並んで泳いでいるのが特に目を引いた。


「何で一緒に泳いでるんだ。あの大きな生き物に食べられるだろうに」


「大丈夫だよ。あの大きい子、あんな見た目で魚食べないから」


「え? そうなのか?」


 アッシュがヒルデの方を振り返って聞くと、彼女は答えた。


「うん。サメの一種だけど周りで一緒に泳いでる魚より小さい生き物を食べるんだって。お父さんがサメはロマンだって言ってたときに聞いたことある。」


「あんな大きいのに?」


 首を縦に振る彼女の目は冗談を言っているようには見えず、まだまだ世界には自分の知らないことがあるのだと、こんなダンジョンかも判断できない場所で元のところに帰れるかもわからない状況なのにどうしようもなく心が躍る。




 廊下を渡り、拝殿とは別の建物への扉を開けると数段ある階段と扉がある以外何もなかった。ヒルデの方を向くと真剣な顔で頷いている。彼女に頷き返すことで返事をし、慎重に扉に手を掛けた。

 すると、転移のときのような大きな光が二人を包んだ。




 次に目を開けると、街にアッシュたちは立っていた。人々は明るい顔で行き交い、店の客を呼び込む大きな声が辺りに響く。


「ここはユナの街なのか?」


 見覚えがある景色にそうだとしか思えないが、どこか違和感がある。


「あ、アッシュ君、危ない」


 気がつくと小さな子供がこちらに向かって走って来た。今から避けたのでは間に合わないと思い、受け止めることにして構えるが子供はアッシュの体をすり抜けた。


「え?」


 何が起こったのかわからず、呆然としていると子供を追いかける母親と思われる女性も彼の体をすり抜け、向こうに行ってしまった。

 よく見ると道の真ん中に立っているのにも関わらず誰も気にする素振りもない。まるでアッシュたちの姿が見えていないかのようだ。


「いや、本当に見えていないのか」


「なら、試してみようか。お~い、僕たちのこと見えてる?」


 話をしている人の目の前でヒルデが手を振るが、気づいた様子もなく会話を続けている。

 ヒルデがお手上げのポーズをアッシュに向ける。


「あの」


 止まって話を聞いてもらおうと歩く人の手を掴もうとするが、先ほどの子供のようにすり抜けるだけだった。

 人に話を聞けなくとも何か手がかりがないかとアッシュが辺りを見回しているとヒルデに袖を引っ張られた。


「何だ?」


「アッシュ君、あれ見て、あれ!!」


 声を上げるヒルデの指差す方を向くと、アッシュの目が驚愕で見開かれる。そこにあったのは、赤い大きな城だった。エジルバ王国で見るような石造りの城ではなく、二階までしかない木造のもので、門はヌシンの案内で見たのと全く同じものだった。


「あれは、スイムイ城なのか」


「霧もないし、何より焼け落ちたはず、だよね」


 注意して周囲を見るとスイムイ城だけではなく、延焼して今は空き地だとヌシンが言っていた場所に立派な家が並んで建っている。


 考えれば考えるほどにわけがわからなくなる。ただ一つ言えることは、ここはアッシュたちの知るユナの街ではないと言うことだけだ。








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