表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/144

94 竜宮の使い

 眩しい光に包まれ、目を開ける。すると目の前に小さな門が建っていた。門の端は石垣がどこまでも続いており、先が見えない。周りを見渡してもそれ以外何もない場所だ。


「え? これだけ?」


「乗ってきたはずの魔方陣もなくなってるな」


 一般的なダンジョンだと入り口に戻れば帰れるのだが、ここにはそんなものもない。魔方陣も消えてしまったため完全に閉じ込められてしまったようだ。


「あと、何かさぁ、ここ、ちょっと寒くない?」


「確かにな」


 先ほどまでじっとしているだけで汗ばむような陽気だったのに、今は一変して肌寒く感じる。この門以外何もない空間にいるからだろうか。


「とりあえず、行くにしても帰るにしても、この門を通るしかないな」


「じゃ、僕、一番乗り。って、痛!!」


 そう言ってヒルデが通ろうとしたが、何か見えないものに邪魔され、尻餅を打ってしまった。

 アッシュは駆け寄り、彼女に手を伸ばす。


「大丈夫か、ヒルデ?」


 彼の手を取りながらヒルデは頬を膨らます。


「大丈夫だけど、何で通れないのぉ?」


「…門なのか。本当に」


 ヒルデが起き上がったのを確認するとアッシュは門に近づき、何か糸口がないかと観察する。

 注意深く見ているとスイムイ城跡地で見た門とは少し形状が違うことに気がついた。それよりもシンプルで上の方に縄を結っている。


 そのとき、いつかオノコロノ国に行っても無礼がないようにとアッシュにシゲル先生が、作法など色々と教えてくれたことを思い出した。

 確か、神社の入り口にある鳥居という門は、神の領域と人が暮らす場所との境界にあり、悪しきものを入れないための結界の役目もあると聞いた。

 鳥居の中央は神が通る道だ。人が通らせてもらうときは鳥居に一礼し、端を通るのが礼儀だと言っていた。


 先ほどヒルデは中央を通ろうとして弾かれていたので、もしかしたら、そうなのかも知れない。


「ヒルデ。今から俺のすることをまねしてくれ」


「お、何かわかったの? わかった、やってみる」


 アッシュは一歩下がり、鳥居に向かって一礼すると端の方を歩く。すると結界のような膜を通るような感覚がし、思わず目を閉じた。


「うわぁ、何これ」


 後ろからヒルデの声が聞こえ、目を開けるとアッシュの目に満開の花を咲かせる木とその奧にある朱色に近い赤瓦の大きな建物が映った。

 木には本来あるはずの葉がなく、代わりに紫に近い、濃紅色の花が咲いている。花の形は他とは違い、釣り鐘のように下に向かって咲いている。アッシュは思わず木に近づいた。


「これは、桜? いや、シゲル先生から聞いた桜は白に近い桃色の花だったはず」


「アッシュ君、アッシュ君。花も綺麗だけど、上も見て」


 興奮している様子のヒルデに従い、上を見るとアッシュは息を呑んだ。

 上には本来あるはずの空がなく、代わりに海が広がっていた。彼らの頭上にある海では、ユナの街で見たあの鮮やかな魚たちが生き生きと泳いでおり、太陽の光が水に反射されて揺らめいている。


「ここは海の中、なのか?」


「でも、息できるよ」


 こんな常識では考えられないことはダンジョンの中でしかあり得ない。

 しかし、中に入ってもあの纏わり付くような嫌な魔力はない。あるのは、来るときにも感じた清らかなものだけだ。


 ここがダンジョンであることなど忘れ、見ることがない海の中からの景色に圧倒されるアッシュたちの目の前にリボン状に細長い白銀の胴体に長い赤いヒレが付いた美しい魚が現れた。


 武器に手を伸ばし、警戒するが、魚は何故かこの辺りに満ちるのと同じ清らかな魔力を纏っている。

 思わぬことに困惑している間に、魚は襲ってくることはなく、彼らの周りを優雅に泳ぐと建物の中へと消えて行った。








楽しんで頂けたなら幸いです。

よろしければブックマーク、評価の方もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ