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10 高鳴る鼓動と笑み

 しかし、覚悟していた痛みがいつまでたってもない。不思議に思い、目を開けるとそこにはキースの背中と血を出して倒れているマッドボアがいた。


「ケガはないかい。アメリア君」


 キースは振り返り、アメリアに微笑んだ。その顔を見てアメリアの心臓はうるさいぐらい高まった。


「だ、大丈夫よ。油断したわ」


 顔をそらしながらアメリアは答えた。不躾な態度になってしまったが、何故か、キースの顔をまともに見られそうにない。


 アメリアたちの周りにはマッドボアが倒れており、彼女を襲ってきた個体が最後の一匹だったようだ。

 アメリアは自分を襲ってきた個体をまじまじ見た。

 マッドボアは泥をかぶっていないところだけ正確に斬られていた。泥をかぶっていないところを正確に判断し、素早く倒したのだ。キースの剣の腕の高さがうかがえる。


「アメリアさん、お怪我は?」


 マリーナがアメリアに駆け寄って、怪我がないかを確認した。


「大丈夫。キースのおかげでケガはないわ」


 その言葉にマリーナは胸を撫でおろした。見たところケガはないようなのでアメリアの強がりではないことが分かった。


「キースさん、ありがとうございました。アメリアさんも私にとって大切な人なので何かあったらと思うと」


 マリーナの目には涙が溢れていた。アメリアが無事であることがわかると気が緩んでしまったのだ。


「マリーナ君、それは当然だよ。だって、僕たちは仲間だからね。

 一人じゃないから助け合うのは当然じゃないか」


 その言葉にアメリアも涙腺が緩む。自分はひとりではないが、戦っているとき前衛は一人だ。ずっと一人で頑張っていた。

 しかし、誰かに仲間だから、一人じゃないといってもらいたかったのかもしれない。


「そうね。前衛が二人のほうが楽だったわね」


 泣いている姿を見られたくないあまり、自分でも可愛げのない態度だと思ったが、強がっていないと涙がこぼれてしまいそうになる。


 もし、一人だったら、泥で鎧のように堅くなったマッドボアに突撃されていただろう。

 そうなっていたら自分は無事ではなかった。

 攻撃を回避していたとしてもその後、冷静に対処できず、大怪我を追っていたに違いない。そんな体では何も出来なかっただろう。

 初めて斬ることの出来ない魔物に出会い、冷静さを欠いていたと自分でも感じた。驕っている気は無かったが、今までうまくいっていたので油断があったのだろう。

 今回のことで自分はまだまだ未熟だと気がついた。そんな自分が他のみんなを守るなどおこがましかったのかもしれない。

 こんなことが師匠である剣聖に知られたら怒られるに違いない。


「今回のことでキースの腕はわかったわ。しばらくはパーティーに加入しててもいいんじゃないかしら」


 キースがいなければマッドボアの討伐はかなわなかっただろう。

 悔しいがこれからもっと強い魔物を相手にするのにアメリア一人ではかなわないとわかった。一緒に戦っても相性は悪くないと感じたし、剣の腕も悪くない。

 本加入はまだ抵抗があるが、キースなら一緒に戦ってもいいと思った。


 右手をキースに取られた。そこで初めて自分が震えていることに気がついた。


「今までつらかったね、アメリア君。でも大丈夫、次から君の隣に僕がいるから」


 顔が赤くなるのをアメリアは自分でも感じた。経験したことのない感情に彼女は戸惑う。

 最初から、アメリアは強かった。心配することはあっても心配されたことはあまりなかった。

 他人に同じことをされると余計なお世話と言って手を撥ねのけてしまっていたかもしれないが、不思議とキースならそれもいいと思ってしまった。


 自分の気持ちに戸惑うアメリアの目に、アッシュが心配そうに駆け寄ってくるのが見えた。長い髪から見える表情は暗く、背を丸め、常にしているペンダントを揺らして、こちらに来る姿を見ても、アメリアは何も感じなかった。

 今まで彼の姿を見るだけで心が満たされていたのに、何も感じない。むしろ、今まで自分は何故、彼に尽くしていたのだろうと思った。


「ありがとう、キース」


 手を握り返しながらアメリアは微笑む。


 アッシュのことはもう何も思っていないこと。自分がキースをどう思っているか。

 近いうちにミントとマリーナに話さなければならない時が来るだろうと思い、アメリアは一歩踏み出した。



 それからしばらくの後、キースは『四本の白きバラ』に正式に加入することになる。

 キースの近くにはアメリア、ミント、マリーナが寄り添っている。三人のキースを見る目にはかつてアッシュに向けていた以上の好意が向けられていた。

 その後をアッシュは変わらずうつむいてついて行く。


 そんなアッシュを見てかつてヤジを飛ばしていた冒険者たちは嘲笑った。

 彼は何も言い返さずにただうつむいていた。その様子を見て冒険者たちの笑いはより大きくなる。


 だからだろうか。アッシュがうつむきながら、笑っていたなど誰ひとりとして気がつかなかった。







キリがいいので明日から1日1回投稿を予定しています。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

よければ評価のほうもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
長い間一緒にやってたのにも関わらず 辞めることに全く引け目がなさそうなあたり、 女性3人も結構酷いと見た。
アッシュ「(計画通りッ!)」・・・ってコトッ!? 女性陣が成長しなそうに見えるアッシュより頼りになるキースの方にいくのは自然ではあるが・・・どうなっちゃうの!?
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