第43話 FILM-0、未知の新技と対峙する
※補足です。
BASTARD Qの会話はFILM-0の2人には聞こえていません。
『エミリア、と申します』
エミリアの凛とした声が配信に乗る。
『いやぁエミリアさん、ありがとうございます! 前回アジア2位の方に今年の特別解説を引き受けてくださり嬉しい限りです!』
『ふふ、恐縮です。とはいえ、私も呼んでいただき嬉しいです。FILM-0の戦い、ずっと気になってたのでね』
エミリアはくすくすと笑う。
『そっか。だってエミリアさんの─』
『あ! AXやられたか!?』
実況が形式的なものも超えた紹介を始めてしまうが、解説の大声がそれを遮った。
実況とエミリアも観戦画面に注目すると、そこにはAXの2人が物資となった姿が映っていた──。
◇ ◆ ◇ ※elle視点
「……銃声止んだか」
俺たちが名の無い街に入るとほぼ同時に銃声が聞こえなくなった。
それに合わせるようにキルログも流れる。
「戦闘終わったか」
「もうちょい近づきたかったけど、やっぱ相手、かなり対面強そうだな」
とはいえ、戦闘中にあと数十メートルという距離までは近づけた。
ここまで来れば、銃声での場所の特定は俺でなくとも可能だ。
「モールの1階か」
セントラルとヴォーリアの間の、名の無い街。
物資量がヴォーリアよりも多いワケは、中央に位置する3階建ての大型ショッピングモールが原因だった。
その周りには、コンビニや一軒家がポツポツとあるだけなのだが、このモールだけ嘘のように広く、それに比例して物質も多い。
このモールは縦長で、その中央に大きなメインストリートが1つ。
その周りに店が立ち並んでいる。
また、2階と3階にはメインストリートは無く、吹き抜けとなっている。
店の前に通路とが敷かれていて、落下防止の柵は現実世界にしか通用しない高さである。
FLOWには落下ダメージが無いので、1階にいる敵を3階から飛び降りて奇襲するなんてこともできる。
まぁつまり1階での戦闘が基本となるということ。
縦長のメインストリートには、観葉植物やベンチ、エスカレーターや期間限定展示などの遮蔽も多くある。
かなり戦いやすい立地だ。
「3階って外からいけたっけ」
「屋上駐車場のための坂使えば行けるけど、ここからだと反対側だし、戦闘終わってるから奇襲は多分刺さらんな」
「1階から最速で行くべきか」
「そゆこと。急ぐぞ」
「おう」
幸いにも1階への入り口であればここから近い。
結構ダメージ食らっててくれれば──
『「──回復が終わらないだろう」と、FILM-0は考えていそうですが……』
『BASTARD Q、強すぎますね……』
『私も去年戦いましたが、彼ら被弾を抑えた戦い方が上手いんですよね』
『しかし……IGLのミュンヘンはノーダメ、カナルも約50ダメだけですか……』
:うっっっま
:へへ、笑いしか出ねーよ……はぁ
:↑よかったため息も出てた
:BASTARD Qの回復もそんな減らんし、優劣ほぼなしのガチバトルか
:俺たちからしたらめちゃくちゃおもろいけど、本人たちは嫌だろうなぁ……
モールまではあと5秒ほど。
【──ミュンヘン、そろそろだ。スモーク焚かれそうだけど入ってきたら撃っていいか?】
安全にモールへ入るため、俺ははやめにスモークを中に投げ入れ焚いておく。
「回復キャンセルさせたいしグレネードも投げとくわ。エルは音の警戒怠るなよ」
「おけ」
FLOWでは回復してる最中も動けるが、その速度は亀より遅い。
それはさすがに言い過ぎたが、回復しながらだとグレネードの回避が間に合わないのは確かだ。
銃声の大きさからしても俺たち側の入り口付近で戦っていたのは明らかなので、グレネードは刺さる。
確かに回復キャンセルできそうだな。
俺だけじゃ思いつかない作戦。いい奇襲ができそうだ。
【──いや、aMaならおそらく回復キャンセルを狙ってくるだろう。だから──】
スモークが完全に蔓延し視界が悪くなったところにアミアがグレネードを投げる。
FLOWのグレネードは敵にしかダメージが入らない。つまり俺たちはどこにいてもその爆発ダメージを受けることはない。
俺も合わせて中に突撃した。
ジジジジジジジジッ!
グレネードの音が段々と大きくなり、そろそろ爆発を迎えそうだ…………ッ!?!?
「アミア止まれッッッ!!!!!!」
「え」
「音が二重に聞こえ──」
ドオオォォォォオンッッッ!!!!!!!
俺の声を遮るように、2つのグレネードが同時に爆発した。
「──ッ!そういう──エル一旦下がれ!!」
遅れてアミアも気づき、俺たちは慌ててモールの外に出た。
「……70ダメか!」
「直撃は避けたが……回復は出来ねえな」
クソ、こいつら──!!
アミアの回復キャンセル用のグレネードに、完璧にタイミングを合わせてグレネードを投げやがった!
俺が焚いたスモークで見えない状態で、音も被せて巧妙に隠された──。
避けられない……あれは……!
『すごい!! アミアのグレネードとカナルが投げたグレネードのタイミングが完璧だ……!』
『グレネードも弱点である音を隠すとは……避けようがありませんね……』
:つんよ!!!!!
:BASTARD Qはなんで気づいたんだ???
:そういえばアミアって回復キャンセルよくやってるっけ
:あ、クセ…………
:aMaを研究しまくったBASTARD Qだからできたとでも言うんですか……!!
:となると、FILM-0キラーってこと……?
【カナル、外出るなよ?】
【おう、分かってるよ。俺の憧れたelleなら中に帰ってくるからな】
回復ができないとなると、外で戦うのはさすがに不利。
まだスモークの中で戦うほうが勝率は高いはず。
「行っていいか?」
「あぁ。俺がスモーク追加しとく」
「さんきゅ!」
俺はアビリティを発動して、超高速で中に突撃した。
入ってすぐの地形なら俺も覚えている。
買い物カートが2、3台散乱していて、ベンチと観葉植物の花壇がある。
1人の敵の足音はそのベンチ付近から聞こえる。
もう1人は少し離れているので、その敵に一直線で向かった。
【そりゃelleなら来てくれるよな! だって──】
ベンチならelle式が使える!!
「elle式、段差跳びッ!!」
ベンチに向かって走り、ぶつかるとともに後退とジャンプを1フレームもズラさずに行う!
『通常の3倍のジャンプ力が出るelle式、段差跳びだ!! だが────』
:しかもelleも研究してたからelle式も通用しないのか……!
:あれ、しかもここって──
強制的に上を取り、頭を重点的に狙いながらSMGを────って、え……?
「いな、い……?」
敵の姿を見失っていると────
ダンッッッ!!!!!!
ショットガンの重厚音が、俺の上から聞こえた。
────は……?
俺の残り体力は130。ショットガンのヘッドダメージは────150。
elle……ダウン
「エル!!!!!!」
──なんでだ?
──俺は段差跳びを使ってるんだぞ?
──失敗もしていない。
──手もelle式を使ったなら分かる。
──でも、俺の上?
──……なんでだ!?
『──買い物カートというのは、複雑な構造をしています。それ故に、上手くキャラコンすればその段差に上手くかかり、ある技が発動する。その名は──』
【エミリア式、スカイジャンパー。elle式を殺すために編み出された、現代の技だ!!】
近距離戦における1対2、それすなわち、死の宣告と同等である。
ダダダダダダダダダッッッ!!!
ダンッッッ!!!!
【【しゃあああああ!!!】】
『やはり前回大会王者なのか!?!?』
『つ、強すぎますね……!』
『私のエミリア式を、完璧に使いこなしている……!』
第5回FLOW世界大会・DAY1 第一試合
第5リング収縮中 残り人数18人 9チーム
FILM-0……脱落
順位…………………………10位
倒した人数…………………4人
大会ポイント………………16
◇ ◆ ◇
「……………」
外は闇に包まれている。
月明かりが椅子に座り沈黙を貫く俺を妖しく照らす。
FLOW世界大会DAY1は、あの後何事もなく終了した。
『何事もなく』、である。
……俺はあの"謎の技"を攻略出来なかった。
いや、それだけでもない。
あの技を攻略出来なかったあとから、異様に調子が崩れた。
事実、第2試合は2キル23位。
第3試合は1キル17位だった。
普通の対面にも全力を出せず、無駄な被弾、無駄な死、そして無駄な脱落をしてしまった。
アミアの指示にも上手く応えられなかった。
これではほんとに『狂犬』のようではないか。
「……………」
もはや、ため息も出ない。
初代世界王者としてのナニカを、ズタボロにされた気分だ。
こういうときこそ明日の作戦会議をするべきなのに、今は誰とも会いたくない。
──所詮、俺は第1回と第2回の世界王者。
今に至るまでに技が出ていてもなんら不思議は無い。
いや、あの場で開発された、という可能性も捨てきれない。
……いや、いいか。
アミアにはすまないが、また1年しっかりと練習して第6回に────
ガチャ
「よお」
「…………アミア」




