第4話 元プロさん、現役プロ相手に圧倒する
同時刻。
1年前のアジア本戦で優勝を果たしたプロゲーマー、nameko&し〜たけチームが配信を付けて今大会にも参加していた。
FLOWはゴースティング等の対策が他ゲームと比べられないほど万全のため、世界大会本戦以外では大会中に配信することが認められている。
彼らは1試合目、17キルチャンピオンを取り、好調な滑り出しだった。
好調すぎる滑り出し、そのはずであったのだ。
本人たちも視聴者たちも、2試合目は最上位マッチに入れることはもちろんのこと、現状1位ということにも確信に近い感覚を覚えていた。
そして、リアルタイムで更新されているランキングを覗きに行って──戦慄した。
彼らは2位だった。それだけならまだいい。
いや、よくはないが、そんなことを忘れるほどの異常事態が発生していたのだ。
──1位に君臨する無名のチームが、彼らと3倍近い差を付けているということである。
前回大会で全く名前が出ていなかったチームが、過去最高どころではないポイントを叩き出していたのだ。
視聴者はチーターだと決めつけて、散々に叩いていた。コメント欄が無名のチームへの罵詈雑言で埋め尽くされる。
既に通報した人もいるみたいだ。
そうなってしまうのも無理の無い話なので、彼らは強く止めることもできない。
しかし、彼らは疑問に思っていた。
──仮にチーターだとして、言ってしまえばたかがアジア大会の予選で、こんなに「私チート使ってますよ」と言わんばかりの結果を残すだろうか?
◇ ◆ ◇
セントラルから出発し、辺りを警戒しながらリングの中心に向かう。
「アミア、カードルでいいか?」
俺はマップを開き、次のリングの予測などを加味しながら、次の目的地を提案する。
『そうだな。このリングだと、カードルに一番人が集まりそうだ』
「よし、それじゃ──」
俺は言葉を区切った。
奥にある家に敵影が見えたからだ。
『敵か?』
「奥の2階建ての家。スキャン頼めるか?」
FLOWでは使うキャラによって一つ特殊能力がある。
今回アミアが使用しているキャラは、辺り一帯を索敵できる能力を持っている。
アミアがスキャンをかけると、案の定2人見つかった。
『エルはなんで気づくんだよ……』
「窓から一瞬見えた気がしてな」
『これだからソロ世界王者は……』
アミアが呆れながらも、俺たちは敵のいる家に向かって走った。
──その時、その家から銃声が聞こえてきた。スナイパーの音だった。
そして──アミアが被弾した。
「『な……っ!?』」
俺たちはすぐに岩の裏に身を潜めた。
『おいおいエッグいなぁ……っ! まだ200mはあるぞ……』
「あの敵、絶対プロだな。それも結構成績も残してる」
『強引には攻めれねえな。スモーク焚きながら行くか?』
「俺は持ってないぞ?」
『マジか、俺もあと一つしかねぇ。こうなりゃ撃ち合いながらの強行突破か』
「だな」
逃げるという選択肢は俺たちには無い。
すぐに決断した俺たちは、アミアの体力が全回復するとすぐに駆け出した。
そしてすぐに銃声が聞こえてきた。見張っていたか。
しかし、その可能性もしっかりと考慮していた。俺たちは予測不能なキャラコンをして、その弾を避ける。
あいつほどの腕なら弾除けしていても当ててくるだろうが、この距離ならさすがに無理だろうという判断だ。
そして、俺の近くからも銃声が鳴り響いた。
『おっけヒット』
「ナイス」
最強のエイム力を持つアミアのスナイパーが炸裂した。
ダメージを負った相手は窓から離れた。回復するのだろう。
「一気に詰めるぞ」
『あぁ。援護はまかせろ』
俺はアビリティを使用した。
俺が持ってきたキャラは、このゲーム最速の移動速度となれるアビリティを持っている。
シンプルな強さ故に、プレイヤー本人の強さが試されるため、使用者が少ないキャラだ。
敵が再び銃を構える前に、俺は建物に接近することに成功した。
「2人とも2階にいるようだ」
『マジで? 全然隙見せねえな。ずっとスコープで覗いてるけど、窓から一切見えないぞ』
「ちゃんと意識も欠かさないタイプか。やりにくいな」
俺はどうやって攻めるか、少し考えることになるのだった──。
「し〜たけ、敵は?」
『ちょっと待ち〜、今スキャンすんでー……って、1人もう下まで来てるで』
「クッソ、詰めるまで早いな」
俺──namekoは舌打ちをしながらSMGを構える。
:相手上手いな
:誰なんやろ
:エミリアじゃねこれ
コメント欄には、前回アジア大会で2位だったエミリアではないか、という予測があった。
「いやエミリアはこんな強引な攻めをするタイプじゃないはず……」
『そもそも、こんな攻めをするのは3年前に滅びたはずやのになぁー』
第1回世界大会優勝のelle。
第2回世界大会優勝のelle&aMaチーム。
彼らの突撃に心を打たれたプレイヤーたちにより、当時強引な攻めが流行していた。
しかし、彼らの実質的な引退から今ではもう無くなったプレイング。
それこそが、今俺たちを襲ってきている敵だった。
「さて、どうするか……」
この家の2階に攻めるには、1階から階段で上がるか2階のベランダと扉から入るかの2択である。
「どうする?」
『せやなー、ベランダ側にはシールド張っとくか』
「了解」
俺はベランダの外にトラップを仕掛け、扉にシールドをつけた。
これで侵入経路は階段だけ。
いくら強そうとは言え、どこから攻めるか分かっていれば負けることはないだろう。
「俺は階段の前で待ち構えるぞ」
『あ、待ち!』
し〜たけが静止の声を上げるが、その言葉が俺の耳に入る前にキャラを移動させていた。
ドン、と少し遠くから銃声が聞こえた。
──次の瞬間、俺の体力は0になっていた。
「……は? スナイパーの頭?」
:は?
:え?
:待て待て待て!!
:どこから?
:これ例のチーターじゃね?
「言わんこっちゃない!! 敵の相方、エッグいエイム力してるから、一瞬でも射線通したら撃ち抜かれんで……!」
『1人頭!!』
「アミアうますぎだろ! 一気に攻める!」
均衡状態を打破するその一撃に、思わず興奮してしまう。
そう、そうだ! この俺たちの力でこじ開けたときの高揚感!! やっぱFLOWは最高のゲームだぜ……!
俺は階段を一気に駆け上がる。するとすぐに連射音とともに弾幕が飛んでくる。
俺はキャラコンで弾除けをしつつ、打ち返そうとする──が、相手は自分の身を隠しながら銃を撃つライトハンドピークが上手く、いったん身を隠した。
『俺も近くまで来たぞ!』
「グレネード投げられるか?」
『おけ!』
「多分アミアから見て奥の方。階段にはダメージが来ないように頼む!」
アミアに素早く指示し、窓から爆弾が投下される。かなり無茶な指示だが、それもそれもアミアなら完璧に遂行してくれる。
敵は逃げることを選ぶしかなく、この敵ほどの強さなら、階段以外はダメージを食らうことなど想像できるはずだ。
敵はスモークを焚きながら移動してきた。
俺のエイムを合わせずに、上手く逃げようという作戦だろう。
さっき一瞬だけ見えた敵のスキンも、逃げや奇襲に特化したものだった。
一度逃げられさせすれば、アビリティの差で俺たちから逃げられる。
────だが、俺のこの目をナメられては困る!!
スモークとは、真っ白の煙で視界を極限まで悪くするアイテム。
つまり、完全には隠せない。
俺の読み通り、逃げるような動きで階段に来た敵に向かってきた。
ダダダダダダダダダダ──!
俺はSMGを乱射する。
──全弾ヒット。
敵はアイテムを撒き散らしながら消えていった。
第5回FLOWアジア大会予選、開始から45分
最上位マッチ開始から15分
第2リング収縮中 残り人数26人 13チーム
前回アジア大会優勝nameko&し〜たけチーム、14位でまさかの脱落