第3話 元プロさん、実力を見せつける
aMaはかつて、不正行為であるチートの使用者──チーターと呼ばれていた。
容疑は、壁越しに敵の位置が見える『ウォールハック』と敵に自動でエイムが合う『オートエイム』。
しかし、それも無理はない。
elleとaMaがチームとなって初めて出た、とある大会の予選。
そこでaMaはスナイパーの引き金を8回引き、全弾ヒット。
そしてさらに、その内の7発が頭を完璧に貫くヘッドショット──つまりワンパン。
常軌を逸したそのエイムと敵の行動予測は、aMaが1人でプレイしていた時とは天と地の差だった。
そして、誰もが『人間の為したプレイング』だと認めなかった。
その結果として、FLOW運営元に大量の通報が届いたのは、もはや仕方がないことだと言える。
しかし、運営の判定は白──不正は無いというものだった。その結果は、その後いくら通報の量が増えようとも、覆ることはなかった。
aMaの元には、大量のアンチコメントが毎日毎日届いた。
『本当は不正をしているんだろ』という文言だったが、そこに"自分たちとこんなにもかけ離れた存在がいるはずが無い"という強い嫉妬が入っていることは一目瞭然であったが。
しかし、どれだけ叩かれようとも、aMaは引退することはなかった。
【最強】の道を突き進むと決意していたからだ。
ある日、aMaは配信を始めた。
それは無実の証明が目的ではなく、ただ配信を楽しみたいというものだったが。
そしてその結果──aMaの世界一のエイムが映し出され、世界を震撼させた。
◇ ◆ ◇
「さて、どこに降りる?」
『エルに合わせるぜ』
「んじゃ、セントラル」
『ははっ、最上位マッチでも激戦区に降りるのはさすがだな。いーぜ』
数年プレイしていないブランクなど知ったものか。
俺たちは、この広大なフィールドのちょうど中央にある最も大きな街、セントラルに向かって飛び降りた。
セントラルは、第1リングと第2リングには必ず入るため、序盤は移動の心配が要らない。
『開幕事故の可能性が減る』という最高の特性だが、その代償としてどの試合でも大量の人が降下する。
この街さえ取れれば、立地の特性と圧倒的な物資量で終盤までは余裕になるからな。
そしてそれは、最上位マッチでも同じだった。
「だいたい……6パーティーくらいか?」
『ひえー、1つの街に15人くらいいるってマジー?』
「棒読みで草」
俺たちはまるで数年前からセントラルへの降下を練習していたかのように、武器や弾薬が入っている戦利品の目の前に着地した。
もちろん、大会の出場は4年前が最後だし、セントラルへの降下の練習なんてしていない。
過去の練習を応用した、即興である。
その数秒後、敵が俺の近くに着地した。おそらくここの降下を練習していたであろう。
降下負けすると思わず逃げ遅れた敵を俺は倒す。
『──おっけ、1チーム壊滅』
そんな一瞬の最中に、アミアは2人の敵を倒したらしい。
ブランクを感じさせない、さすがの対面能力だ。
「ナイス、なら俺は──」
戦利品を漁りつつ敵影を探していると、近くから銃声が聞こえてきた。
「俺銃声のとこ漁夫るわ」
『了解。一応俺も向かうわ』
戦闘を漁夫に行くとき、上位マッチでは足音を立てないのが原則。
このレベル帯のプレイヤーだと、わずかな音すら聞き逃さないからだ。
しかし、自身が戦闘中の場合は銃声等により、別敵の足音が聞こえづらくなる。
そのため、しゃがんで音を立てずに近づくハイドがめちゃくちゃ刺さる。
そうすることで、戦闘が終わって疲弊したところを簡単に奇襲できるのだ。
しかし、確かにしゃがんで移動すると足音はほぼ0になるが、代わりにスピードは格段に落ちる。
もちろん、『疲弊したところを奇襲する』というのがハイドの目的なので、遅くなることはあまり弱点ではない。
──が、俺は全員分のキルポイントが欲しい。
つまり、俺が狙うのは『疲弊したところ』ではなく、『戦闘が始まってなるべくすぐ』ということである。
俺は足音なんて気にせず、全力ダッシュで銃声のもとに行く。
「1、2、3……うん、4人いるなまだ」
『おけ。ビルの中?』
「あぁ。スナある?」
『ある。窓から狙うわ』
俺はアミアと軽く作戦を練りながら、敵のいるビルの1階に侵入した。
「この足音と銃声の反響──5階に1人、6階に2人だな。あと1人は全く聞こえねーから、窓から飛び降りたりして逃げたかも」
『ははっ! 相変わらずエグい耳してんな。俺はどっちから狙う? 』
「1人から頼む」
『了解』
俺は高速で階段を駆け上がる。1キルでも失うわけにはいかない。
『陽動頼む』
「了解」
俺は適当にショットガンを撃ち、銃声を鳴らす。敵が俺の足音に気づいていなくとも、この銃声で無理やり気づかせる。
これで俺から逃げるために移動してくれればいいが。
すると、目論見通り足音が聞こえてきた。
現在の俺の位置は3階。つまり、1階にいたときよりも敵の位置が詳しく聞こえてくるということ。
「アミアから見て右側。中央へ移動中。その先なら……ハイドスポットは階段裏。スナイパーチャンスは2回──いや、6階の敵の足音も聞こえてきたな。動かれる前に、最初の窓で撃ち抜いてくれ」
俺は耳で聞こえた情報と、これまでの経験から1秒で考えたことを早口でアミアに伝える。
『おけ、構えたぞ。カウント頼む』
「了解。──……3、2、1、ファイア」
ドンッッッ!!!!
腹の底に響くような音とともに放たれたスナイパーの弾は、完璧なタイミングで窓に姿を現した敵の頭を撃ち抜いた。
キルログが流れてくる。
『抜いた』
────この感覚、懐かしい。
俺が戦場に突撃し、最速で限界まで状況を把握する。
それを、俺の地力でゴリ押しながらアミアに伝え、敵の行動を完璧に把握した情報をもとに、アミアがスナイパーを放つ。
最強の状況把握力と、異次元のエイム力が織り成す攻撃。
これがかつて、アミアを『チーター』と呼ばせたからくりであった。
「ナイス。6階の敵の様子は見えるか?」
『1人警戒しながら物資回収に来たな。すまん、リロードが間に合わないから俺は撃てねぇ』
「大丈夫だ。これでもう、ただの2対1だからな」
俺はちょうど5階にたどり着く。
物資を回収し終え、階段を駆け上がろうとする敵にリボルバーを3発撃ち込む。
胴体、胴体、ヘッド。
火力が高いかわりに命中が難しい武器だが、俺は全弾命中させ、ダウンさせる。
「ワンノック」
『ナイス。弾あるか?』
「ない」
『スモーク焚く』
ビルのすぐ近くまで来ていたらしいアミアは、あの頃さながらの連携で、視界を急激に悪くさせる煙幕を張ってくれる。
俺は倒した敵の物資を高速で漁り、リロードしつつスモークを駆け抜け、6階に上がった。
ダダダダダダダダダダダダダダダッッッ!!!
6階に辿り着いた瞬間、敵はすぐに俺の姿を見つけSMGを乱射してくる。
それを俺は、完璧な弾避けキャラコンでなるべく回避しつつ、ショットガンを放つ。
唯一無二の弾除け技術と、最高峰のエイム力。初代世界大会で優勝した実力は一切衰えた様子を見せずに、難なく倒しきった。
「終わりだな」
『ナイス。あ、こっちも2人抜いておいたぞ』
「うますぎ。残りもさっさと終わらせるか」
『了解』
そしてそのままの勢いで、俺たちはこの街に降りていた18人のうち12人を倒し切り、セントラルを制覇した──。
第5回FLOWアジア大会予選、開始から40分
最上位マッチ開始から10分
第2リング収縮開始 残り人数42人