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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真守 葉摘が微笑む時

ジュオンジーは晴らします

作者: モモル24号

 

 日本で有数の巨大企業に成長した、真守グループの総帥真守葉摘。彼女は大企業の総帥であり重度のオカルト愛好家だった。自身が超能力を扱うサイキッカーでもあり、超常の力に関して、研究者や専門家よりも理解が深かった。


 その彼女は今、国内へ密かに侵攻を企てる侵略者達に頭を悩ませていた。表向きは友好国、同盟関係を維持しながらも、狡猾な彼らは様々な形で難癖をつけて国力を弱め、侵攻の足がかりを築いてきた。


 真守グループの総帥として、真守葉摘自身も侵略者に対して様々な対抗手段を検討して採用して来た。だが敵の数の多さとしつこさに、参っていた。攻撃の対象は日本‥‥というよりも彼女の保護する対象に向けられていたからだ。


 日本有数の大企業にも関わらず、あまりその名をメディアでは聞かないのには理由がある。真守家は真神の昔から続く名家である。老舗の商家でもあり、地味に商いを続けて来た。急成長を遂げたものの、あまりメディア媒体のスポンサーについていないのが、世に知られていない一番の理由だろう。


 それに原因は他にもある。それは彼女の下には、金星を故郷にする金魚人が大勢保護されていたせいだ。列強は好戦的な火星人の傘下に与している。金星人は彼らと敵対関係にあった。


 彼らの敵である金星人をはじめ、全ての異星人は排除すべし‥‥そう大国の集まりの中で決まっていた。例外は認めない、それが彼らの意思である。


 先の大戦に敗れた日本は、戦力を瓦解されて、歴史を改竄されても大人しく従うほかなかった。そんな中、真守グループが不文律を破り、金星人を保護したのだ。やむを得ない形であったため国内の有力者からは同情的な意見は多かった。


 しかし諸外国にそんな言い訳は通じないのがわかっているため、真守グループは国内外から孤立する事になった。あくまで表向きは友好を保つ姿勢を保ちながら。こうして列強との、水面下での交渉という名の戦闘が始まることになった。


 圧倒的不利な中、頭をよぎるのは過去の大戦。物資の不足、物量への不備をつかれ今度こそ、国土が奪われる。そうならないために先延ばしにしてきた事案もあった。


 対抗手段は特殊で強力なサイキッカーの真守葉摘のみ。大和人と呼ばれる古来の日本人の覚醒者が増えれば話は別だが、彼女一人の才覚では数多の戦場をコントロール出来なかった。


 様々な新兵器の開発される中で、真守葉摘は一人の少女との出会いから、新たな兵器の着想を得る。人手が足りないのならば、御先祖様方に頑張ってもらえばいい────そうして開発された霊体兵器、それが「ジュオンジー」だ。


 精巧なる造形師の造り出した物言わぬ石像たち。人と同じサイズの身体とタングステンなどの金属を用いた核熱にも耐える耐熱性を持つ。機器で動かすものではない。怨念が動かす呪いの人形。


 そんな怨霊兵器とも呼べる開発のために、選ばれたのが千三百年もの間怨霊として京の町付近に存在し続けていた天之破武照比売神アメノハブテルヒメノカミだった。


「協力は約束した。だが、彼女を戦わせる話は聞いていない」


 怨霊神と化した天之破武照比売神アメノハブテルヒメノカミを見出し、その名を名付けた浦守武という男が、テルヒメと呼ぶ少女の前に庇うように立ち塞がった。


「破武照姫を戦わせようと言うわけではないから、安心したまえ」


「そう言って、この前も地方の町へ駆り出したじゃないか」


「ならば君がついて来たまえ。破武照姫が危険と判断したのなら、いつでも止めて構わない」


 怨霊神と怖れられた少女に好意を持ち、結婚まで至った浦守武という男はネガティブ思考の持ち主で、不満を溜めやすい性質だ。怨霊に好かれる特異体質と言ってもいい。


 真守葉摘が本当に力を借りたいのは、破武照姫ではな浦守武のその吸霊力だ。人の悪い葉摘は、素直に頼んでも浦守武が言う事を聞かない事を理解している。


 破武照姫はむしろ、浦守武が取り憑かれ殺されない為の防壁だ。怨霊としての格が段違いの彼女がいる限り、集めたい怨霊が生者を襲うのを防ぐ事が可能だった。この特異な力を持つ二人の生体データを下に完成したのが、怨霊兵器「ジュオンジー」なわけだ。


「霊体のメカニズムはまだよくわかっていないのだがね」


 開発に携わった研究者達は、出来上がった「ジュオンジー」 を見てため息をついた。


 一言で言えば「禍々しい」 のだ。人型サイズの金属像の流線形美は良い。しかし表情が皆一様に猫目を輝かせたような金色の瞳。金星人のマヤと同じ瞳なのに、血の固まった黒血色の輝きと、不気味に笑う口の避け具合に、兵器よりも妖かしな怖さを感じることだろう。


「みたまえ。破武照姫ほどではないが、集落の血統百人以上呪い殺した『ミツケタ』 の数値は凄まじいよ」


 人柱にされて千年近く、祟り神として祀られた主の恨みのパワーは凄まじかった。オカルト愛好家の真守葉摘が狂喜したのは言うまでもない。


 モデルのデザインは金城マヤ、そして破武照姫の古風な着物に近い衣装が採用された。この服装も日本の幽霊話を想起させて、恐怖を掻き立てるのだ。


 この怨霊たちによる恨みの力は、全て襲いかかる多国籍軍に向けられた。「ジュオンジー」 の持つ呪いはどんな強固な金属も、プロテクトされた端末機器も呪いで穢す。


 電子機器に頼り、最新のAIにより統制された新型極小化飛翔兵器ミニマム・ドローン・ウェポンさえも「ジュオンジー」の呪いを防ぐことは出来なかった。


悪魔祓い(エクソシスト)どもは、怨霊の呪殺対象の根源みたいなものだからか、役に立たないだろうね」


 魔女や悪魔だと、言いがかりに近い形で殺されたものは数多くいる。「ジュオンジー」 を動かす怨霊の多くは、いわれなく罪を被され殺されたものも多い。


 原因不明の故障や取り憑きによる乗っ取りが「ジュオンジー」 の呪いの力なのだと各国が気づいたとしても、拝金主義に陥った諸国は、その穢す能力を鎮める手段をとうに失っていた。


「『ジュオンジー』の迎撃能力は凄まじいね。大国主神や道真公や将門公が都を守る強力な最終防御兵器に利用されたのも頷ける話だよ」


 凄まじい恨みと呪いの力か働くからこそ、外敵を阻む力になる。「ジュオンジー」 の迎撃能力もまさにそれだ。理不尽な要求や差別的な殺意に対して、怨霊としての力を最大限に発揮する。


 親切丁寧で物わかりのよい侵略者などいない。現場で実際戦う兵士も、初めは自国の繁栄のために申し訳なく戦う者が一人や二人はいるだろう。


 しかしそれは最初だけだ。金塊の山を前にした時‥‥彼らは皆、自分たちの勝手な理屈を持ち出して、奪いに来るのだ。


 霊体兵器「ジュオンジー」は、金星人を保護し守るために造り出されたが、その有用性が認めらた。なんでもかんでもキャラクター化してしまう国民性の寛容度の恩恵も大きい。


 真守葉摘は浦上武と破武照姫を連れて、全国の主要都市を巡った。「ジュオンジー」 の動力源となる地縛霊や怨霊の確保と、その土地で愛される彫像を密かに「ジュオンジー」 と入れ替えたのだ。


 その数百八体。離島や無人島など、守りの薄い地に配置するとなると全然足りないのが現状だ。かなりの数の島に異国の基地が密かに築かれているのが現状だ。


「そもそも『ジュオンジー』を動かすことの出来るくらいの強い恨みの持ち主が一万以上いるような国‥‥守るのもどうかと俺は思うぞ」


 自分が恨みがちな性格の浦上武。彼の発言はもっともなことだと真守葉摘も思う。長い歴史の中とはいえ、救いようのない輩はどの時代にもいる。


 葉摘は、ふと破武照姫を見た。強烈な恨みの陰には悲しみもある。天智の隠し子たる彼女のように。


「お前‥‥その悲しみの根源はさすがに他国の侵略者へは向かないと思うぞ」


 「ジュオンジー」 は理不尽な行為への怒りによって動くようなものである。悲嘆は恨みに変わる燃料にはなるが「ジュオンジー」 を動かすには至らないと思われた。


「いいのさ、単独で動かなくて。そもそも『ジュオンジー』自体が諸刃の刃のような存在だからね」


 怨念も悲嘆も、もとはといえば、この国の権力者たちの横暴さに端を発する。「ジュオンジー」 の怨念の刃が自国の権力者の首を刈らない保証はないと、真守葉摘は堂々とほざいた。


「‥‥なるほど、ただで退治をするはずがないと思ったが、諸刃の刃を承知で結果を先に見せつけたんだな」


 有用性がわかった所で、国から支援のための予算がつき、百八体の「ジュオンジー」 が悲嘆する哀しみの霊体を含めて、千体まで揃った。


 猛威を振るう日本の新兵器に対抗するには、同様のシステムを用いて投入すべきだろう。しかし彼らには敗者を祀る文化はないに等しく、恐怖の概念も物理的な恐怖ばかり。神の名のもとに偽りに作り上げられた、悪魔のような存在しかなかった。


 ソンビやグールを始め、亡骸を動かす術は世界にもある。封印する呪いや、魔法陣や結界や鎮魂の札など、抑えつけるための手段には事欠かない。しかし「ジュオンジー」 は悪霊でも死体でもないため強行手段は効かなかった。


 しかし常に勝者であるために、正義の刃を誤用してきたツケを、彼らは自らの生命を持って払う事になった。敗者を崇め認めるなど、彼らの文化には理解不能だった。


 徹底的に叩こうと躍起になった国に対し、真守葉摘は「ジュオンジー」 を送り込むことにした。────反撃開始の時間だ。


 千体の「ジュオンジー」 のうちの半分の五百体が選出された。各国の旅客機や船体に紛れ込み、戦闘を続ける国々を中心に、猛襲を開始した。黒血色のボディは、耐塩コーティングを施され赤黒光りするようになった。


 「ジュオンジー」 が最悪の兵器なのは、本体が壊れ活動停止さしても、動力源となっている怨霊が解放されるだけという点だ。悲嘆の「ジュオンジー」 がブースターとしてセットされたために、解き放てば都市一つ滅ぼしかねない災厄が襲うことになる。


 祓うには「ジュオンジー」 を封印する祠を築き、鎮魂を願い拝み奉るしかない。怨霊は祀り崇めることで、その呪力を恵みへと変えてくれる。平穏と平和を願う心に「ジュオンジー」 は応えてくれる。かつて世界中に放たれたように。



 侵略を提唱した発案者をはじめ、賛同者は軒並み粛清の対象となった。これは火星人による一時しのぎの命令だと推測された。「ジュオンジー」 達の狙いが作戦本部にあるのならば、根本を絶ってしまえば良いと「ジュオンジー」 達と戦うものが判断した結果だ。


 しかし、これは悪手だった。臭いものには蓋をするようなやり口こそ、怨霊達は嫌う。悲嘆の主達もなかったことにはさせないと、より怨念と悲観が増すからだ。


 各国に根を張る火星人達は作戦の失敗を悟り、一時地球より撤退した。彼らは長い星間戦争の歴史の中で「ジュオンジー」 のような霊体、怨念体の厄介さを身に沁みて知っていた。


 完全に消滅させるためには、幸福に満ちた監獄を築き、怨霊を放り込むしかない。そのためには素材となる莫大な黄金が必要になる。


 金星人の創り出す膨大な黄金を欲して戦いを繰り広げて来たのに、戦いに勝つためには莫大な黄金が必要になるという。まさに不毛な戦い。


「葉摘‥‥本当の狙いは、この世界に入り込んだ異星人だったわけか」


「害虫駆除ならぬ、害宙駆除というわけさ。各国の首脳がまともな機能を取り戻した所で、我々の苦境は免れないだろうね」


 多国籍軍は日本から完全に撤退し、影の戦いは終了した。「ジュオンジー」 は各国の彫像に擬態して成り代わり、災厄と幸福をもたらす存在として鎮座し続けている。


 一部の「ジュオンジー」 は、火星人のいくつかの本拠にまで到達し、彼らを震え上がらせていた。このようなものを本星に持ち込むわけにはいかない。しかし取り憑かれてしまった事に気づかずに、火星へと逃げ出した者たちにより「ジュオンジー」 はついに火星人の故郷へと到着した。


 戦うこと、奪うことに重きを置く火星人と「ジュオンジー」 の相性は最悪だ。また地下空間という閉ざされた空域の中で、入り込んだ怨念を追い祓うのは、汚染された惑星一つの大気を丸ごと清浄な大気に入れ替えるようなものだ。



 火星の地表を調査すると、時折巨大な人の顔のようなものが見られるという。いわゆる「シミュラクラ現象」 という心理現象や、こじつけな面は否めない。


 しかし小さな祠と黒血色に光る人の顔を見つけたのならば、それは火星人により祀られる事になった「ジュオンジー」 なのかもしれない。


 多くの怨霊の去った日本は街に漂う瘴気も薄まり、いくぶん人々の表情が穏やかな顔つきに変わった。


 時折天が荒ぶるものの、この国においては正常運転というものだ。暗闘は制したものの、黄金の魔力に魅せられ、すぐにまた懲りない連中が仕掛けてくるだろう。


 人の業もなくなることはない。再び身に覚えのない罪に問われて生命を失い、数多の怨念に世の中が溢れかえる日はやってくる。


「つくづく人というものは欲望に忠実だな」


 フッと、皮肉な気持ちに微笑む葉摘。人の世の業の深さと欲深さに彼女は何を思うのか。


 脅威を封じられた「ジュオンジー」 かの兵器に替わる防衛手段の構築の為に、真守葉摘は再び頭を悩ませるのだった────。



  お読みいただきありがとうございます。


 この作品は拙作「真守葉摘が微笑む時」 をベースに、バンダナコミック01用に新作短編として投稿したものとなります。


 

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