のたくり白ワイン色ロング髪人外耳娘天パー全裸
「人の成長とは、好意から始まる」
星の胎内、静謐の海。
人間の少女のような姿で、幼な顔の女が目を閉じたまま、ぶくぶく沈む。
「好ましいものを望み、望んだものを模倣する」
のたくった白ワイン色の長い髪は、水の重みに晒され、揺らめき。
両耳代わりに生やした透明なビラビラが、時おり海の紫色を映し込む。
「試行錯誤を繰り返し、いつか見た理想へと近付いていく」
一糸まとわぬ裸体のまま、彼女は暗く重たい海へと沈む。
色暗く、眩く変わる海の底。思考の海は深く、探求に終わりが来ることはない。
「理想とは常に、世界の外にある。ゆえに世界に迎合しないことこそが、人の歩みの最初の一歩」
唐突に海が泡立ち、殺到するバブルが娘の肢体を覆い飲む。
そして水しぶきが弾け、ワイン色の髪を振り乱し、晴れ渡った空に、裸の娘が飛び出した。
「我は妖精、我は猫。我は狩人を狩るサソリ。ああ、ああ! 我が本懐の、いと遠きこと!」
彼女は揺りかご、ドルメーザ。または生体兵器ブレードル。
攻撃力4560以上、最高SSSランクの星4水属性キャラクターだ。
雲の王国を抜けた、遠い空。
巨大ペリカン……クチバシ怪鳥アルガドラーザが、灼熱60000度の岩石の体をブッ飛ばす。
彼の怒りを込めた眼差しは、その先で得意げ顔をしている全裸の天パー女に向けられていた。
女は円らな灰色の瞳をキラつかせて、腰に手を当ててフフンと笑う。ガドラーザは完全にキレた。
「ふふーん。どうです、ガドラーザ! 今日こそは、あたしが勝ち──わあっ!?」
「うわぁあアア~ッ! 殺す殺すコロスころすぅ──!」
間一髪、全裸女は白ワインの髪をなびかせて、ガドラーザの灼熱の体当たりをかわす。
空気の壁に穴が開き、空洞のフチに焦げあとが赤熱する。全裸はビビり上がって、遥か上空で旋回してくる殺人ペリカンの方を見た。
「何するの!? 危うく死ぬところだったじゃない!」
「そうだ、死ね~! この世にィ……オレ様より素早く移動する生き物が、あっていいハズがないのだ~!」
「ちょっと、ガドラ──ヒッ!」
髪が風に吹かれ、全裸が避けた位置を、超高速で通過するアルガドラーザ。
彼の体は岩とマグマで出来ている。その上、飛行速度は空中新幹線よりも速い。激突すれば、体が木っ端微塵となり、吐血さえ灰と化すだろう。
「1度ならず2度までも。本気ですか、ガドラーザ……」
「本気だし、正気だとも! 我が翼より速い存在など、星の瞬きさえ許せん!」
「いいでしょう! 頭を冷やしなさい、ガドラーザ!」
ガドラーザが旋回し、全裸が剥き出しの両手を横に揃える。全裸の手の間に雷の玉が形成された。
闘牛のような緊張感。先に仕掛けたのは牛の方だった。
「雷玉など撃たせるか! それっ、3度目の灼熱クチバシ!」
「あっ、速──」
ドスン! 燃え盛るクチバシが全裸娘の姿をとらえ、四肢を焦がし砕いて、吹き散らす。
ガドラーザは、その勢いで遥か上空へと、きりもみ飛行。マグマの涙を流して喜んだ。
「やったァ、殺した! 宇宙最速はオレだあっ。ザマァ見やがれえ~っ!」
しかし、その横に無傷の全裸が雷の速度で、シュンと現れ、ガドラーザは驚愕に目を見開いた。
雷玉は消し飛ばず、チャージ体勢を保ったまま。なぜ? ガドラーザは最期であろう疑問を持った。
「さっきのはあたしの分身です!」
「そうだったのか!」
「消し飛びなさい! ガドラーザ!」
全裸が両手を振り上げ、雷の玉が頭上に掲げられる。そこから熱線が放たれて、ガドラーザは回避も間に合わず貫かれた。
「充撃雷玉!」
「グワァアア~! バ、バカな! 全宇宙ティア最速最強の、このオレ様が──雷なんかにィ~ッ!」
マグマ羽根の断末魔が吹き上がり、怪鳥が空を落ちていく。体温60000度を誇る彼も、さすがに広い海に落ちたら、一瞬で鎮火する。勝負ありだ。
「──うお~! 死ね、エモノ~!」
「疾風怒涛! ついばみクチバシ!」
「あまい! 何のっ! 遅いっ」
さて、こちらは平原。獰猛な肉食カカポの群れに、全裸は襲われていた。
肉食カカポの攻撃力は、普通のカカポより何倍も強い。四方八方から来るクチバシは、一度でも当たれば粉砕骨折は免れないだろう。
しかし、彼女は人間ではない。後ろからの攻撃すらも、長い髪を翻してかわし、美しい両手を閃かせた。
「巻かれて溺れる水の渦っ。"絶命"ロール!」
「ガッ!? ぶくぶくぶく……」
「どうした兄弟!? グッ! ゴボゴボゴボ……」
全裸が腕を振るう度に、一人また一人と肉食カカポが渦に巻かれて殺される。
横目で睨む天パー娘に、生き残りがヨダレを飛ばして吠えた。
「うわ~! 怯むな、野郎どもっ。行けぇ、いっけえ!」
場面変わって、ここは街中。都会ビル街、ベイクレイドシティ。
幼い肉食トリケラトプスが、コンタクトレンズを探していた。そこへ近付く全裸女。
「あのう、お困りでしょうか?」
「踏まないで! 今、コンタクト探してんの!」
「大丈夫、踏んでませんよ。それより、必要なのは本当にコンタクトですか?」
「は? どういう意味ィ?」
全裸は周囲に無害なビームのソナーを放ち、慎重に幼ケラトプスに寄り添った。もしも彼がコンタクトを必要としていたら、踏み潰す音はパニックを引き起こすだろうから。
「そもそもですが、視力が良くなれば良いのでは?」
「う……まあ、それはそうだけど」
「では、視力が良くなればコンタクトは要らなくなりますね?」
「それが叶ったら苦労しないよ! 手伝わないなら離れてよっ。コンタクト探すんだから!」
確認でもするような回りくどい会話。幼ケラトプスはキレて吠えるが、全裸はまるで堪えない。
それどころかフリルに手を添え、遠くのビルを見るよう促した。
「あちらのビルをご覧ください。看板には何て書いてありますか?」
「読めないってば! 何なんだよ、ヘンジン女!」
「怒らないで、じっと見て……水が癒しを与えます」
「何だよ、もう。えーっと、何々……」
逃がしてくれそうな気配がないので、仕方なくトリケラの坊やは目をこらした。看板を見るのに夢中になると、坊やは女の目が怖くなって、しかも自分の体に水の渦が巻きつき始めたのに気づきもしない。
「……あれ。見える、見えるぞ!」
やがて坊やは歓喜の声をあげた。その視界が見る見るクリアになりだしたのだ。
具体的には144だったのに360ぐらいまで改善され、更に480の域にまで視力が向上してきている。
「"視力めっちゃ上がる"ロール。サービスで脳まで強化してあげます」
「スゴいスゴい! 読めるよ、あれは……ハンバーグだ! ぼくハンバーグだぁい好き!」
「もう充分なようですね。あなたの視界は永遠にクリアさを保てます。具体的には720くらいの」
坊やからそっと離れて、全裸は笑顔で手を振った。トリケラトプスの坊やは振り向き、ぱっと顔を明るくする。
「ありがとう! 待ってよ、お姉ちゃん!」
「あなたの日頃の賜物ですよ。では」
「ううん、違うの! お姉ちゃん、よく見たら人間なんだね!」
「え──きゃあっ!?」
声色に何かを察した全裸は、慌てて横へ飛び転がる。すると、そこへガチンとクチバシを鳴らして、坊やが食いつかんと躍りかかった。
「あっ。外しちゃった……ねえ、お姉ちゃん! ぼく、お姉ちゃんを食べたいな!」
「ええっと、僕には愛しい妻が……」
「? 何言ってるの、お姉ちゃん。ぼく、お腹すいちゃった! 人肉ハンバーグが食べたいなあ。あー、ぐっ!」
「ヒイッ! いやあ!」
へたり込んだ全裸天パに、坊やは容赦なくクチバシを鳴らす。どうにか転がり攻撃を避け、全裸は念力で渦を出す。
「"戦意喪失"ロール!」
「いただきま~す!」
「クッ!? ……ダメですか。そりゃそうか、戦意じゃなくて食欲だもんね」
3度目のアタックをかわし、再び手をかざして渦を坊やの体に巻く。
今度は対象を間違えないように。
「"食欲減退"ロール!」
「う……何だろう。急に……オナカいっぱいに……」
「終わりです。眠りなさい、坊や。目を覚ましたら、わたしのことは忘れるように」
全裸が両手をかざすと、次第に水の力が高まり、背後に渦のエンブレムが形成される。
やがて3つの渦が完成すると、全裸の両手から素早いビームが放たれた。
「"おやすみ眠々"ビーム」
「うっ!? ドシーン……すぅ、すぅ」
「ふう……腕白な子も、眠っている間は静かなものです。さて、」
坊やから目を離し、くるりと振り向く全裸天パ。
彼女が地響きに気づくより早く、
「うお~! 人間め、よくも坊やをォ! 喰らえ、殺人タックル!」
「ゲボォ~っ!? は、速──」
駆け寄ってきたオトナのトリケラトプスが、彼女の体をブッ飛ばした。
全裸の体は宙を横切り、噴水広場の銅像へ激突。像は砕け散り、落ちてきた娘に、巨大カブトムシのカップルが悲鳴をあげて逃げ出した。
「がはっ!」と、全裸が吐血する。近づく地響きと、凄まじい轟音。山のような巨体を揺らして、父ケラトプスがやって来る。
全裸は顔中に水エネルギーのしずくを垂らし、歯を食い縛って見開いた目で睨みつけ、痛む全身で武者震いをした。
「ヒィイイイイ~! ま、待ってくださいお父さん! あたしは何もしてません!」
「誰がパパだ! いいか、小娘。テメエが何をしたかって、そんなものは重要じゃねえ……」
トリケラも小さな目を見開く。その眼差しは、全裸のグルグル目とは違う、捕食者の色を孕んでいる。
「重要なのは! ……テメエが人間のメスであり、皮を剥いて丸焼きにしたら美味しいだろうなってとこよ!」
「イッ……"異世界渡り"ワームホール!」
「まずは皮剥きだっ。3本刃ギロチン! どりゃ~!」
天パの体が渦に包まれ、3本の斬首刀が広場のタイルを抉る。
顔を上げたトリケラトプスは、怒りに吠え立て、足を踏み鳴らした。
「おのれ、どこへ行った!? 憎い、肉~! ギャォオオオ~ッ!」
消えた渦の行き先は、赤茶けた台地グランドキャニオン。
唐突に現れた少女の姿に、アメリカ人たちが口々にオーマイとかブラボーと囃したてる。その天然パーマ髪の白ワインが隠すのは、完全な裸体だと彼らは、まだ気づいていない。
「咄嗟だったとはいえ……ここは地球ですか。急いで帰らないと、SNSとかに晒されますね」
別に裸を見られるのは構わないが、警察が来たら面倒だ。全裸の体は渦に巻かれて、アメリカ人たちのたくフラッシュの前で姿を消した。
戻ってくると、そこは濡れた広場の跡地。完全にキレた父ケラトプスが、街を荒野に変えていた。
「うお~! 戻ってきたか! いい度胸だっ」
「不意打ちのダメージは癒えました。降参してください……とんでもない事になりますよ!」
「とんでもない事! それはキサマの体が砕け散り、血肉が辺りに飛び散ることだあ、ぎゃはははは!」
せっかくの忠告も聞かず、トリケラは爆笑して走り出す。突進してくる3本角の崖に向かって、全裸は両手を振り上げた。
「死ねえ~! トライデント殺人タックル!」
「降りしきる水の柱っ。逆さ海スコール!」
「うわ~! 何だ!? まるで引っくり返った海を、背中から被ったみてぇだ!」
たちまち、全裸を中心にして放たれる、水エネルギーの範囲攻撃。それに伴う無数の水柱、まともに喰らったトリケラトプスは怒りに吠えて後退した。
すかさず全裸は両手を揃え、父ケラトプスへ渦を向ける。
「グアッ……ふざけるな~! 人間が恐竜に勝てるかァ~ッ!」
「終わりです。子供のもとへ帰りなさい! 極太"絶命"ビーム!」
「わぁあああ~! トリケラ死せども、恐竜死せず~!」
渦巻く水のビームに飲み込まれ、断末魔を叫ぶ父ケラトプス。
ビームが撃ち終わらぬうちに、強靭な恐竜の体は塵となって、崩れて消えた。
即座に全裸はビームを中断し、片手を振って荒野に結界をはる。そして、辺りをクソデカい渦が包み込むと、すぐに街が元通りになった。
「はあ……さて、逃げましょうか。どうも恐竜の肉食社会は居心地が悪い……」
「うーん……あ、お早うママ~……」
「おはよう、可愛い坊や! さ、帰りましょ。パパは……死んでるみたいね。またケンカかしら。しょうがないパパね」
ティラノサウルス母の声を背後に、全裸は空へ飛び立った。
彼女が裸で出歩いても捕まらないのは、ただ彼女の足が速く、こうやって空も飛べるからだ。決して真似しないように。
のたくった白ワイン色の髪をなびかせ、裸の娘がマジックアワーの空を飛ぶ。
耳代わりに生やした透明なビラビラが、夕焼けを受けてキラめいた。