表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

(3)

 雪代の住んでいるマンションは、まぁまぁのところだった。友達の家と似たようなものだ。

「先生って独身?」

 俺にソファを勧めてからキッチンに立っていた雪代は、振り返りながら答えた。

「そうだけど?――コーヒーでいいか?」

 後半の問いに対して頷くと、俺は部屋を見まわした。

 3LDKのこの部屋は、独り身には広すぎるんじゃないのか?

 俺の行動がおかしかったのか、雪代は笑いながらコーヒーを持って来た。

「何だよ」

「……別に俺、一人暮らしってわけでもないけど?」

 見透かされたような気がして、腹が立った。

「誰と住んでんの? 彼女?」

 雪代はまた笑う。つくづくカンに障るヤツだ。

「……黒猫――いや、黒豹かな」

 何をわけのわからないことを、と言い返そうとした時、ふいにリビングの扉が開いた。

「恭ちゃんっ! また私の部屋に入ったでしょう」

 人がいたのに気づかなかった。……なんて言ってる場合じゃない。入って来たのは、平野瑞希だった。

「……瑞希。来客中なんだが……」

 そこでようやく気づいたかのように、平野がこちらを向いた。

 一瞬、俺は息を飲んだ。

 彼女の視線が怖かったわけではない。ただ……底が見えなかった。

「勝手に入らないでって言ってるでしょう」

 平野は俺の動揺など構わずに、俺に一瞥しただけですぐに話を戻していた。

「そんなこと言ったって、掃除しないわけにはいかないだろう」

 雪代の、のんびりした声。

「頼んでない」

「……瑞希」

 きっぱりとした平野の声と、溜め息交じりの雪代の声。

 ――我慢の限界だ。

「いいかげんにしろよ! 俺は痴話喧嘩を聞きに来たわけじゃない。――帰る」

 雪代は驚いてこっちを見た。

「ちょっと待てよ、駿河」

「……何を勘違いしてんの」

 落ち着いた声が響いた。俺はイラだったまま、半ば八つ当たりのように答えていた。

「何が勘違いだって言うんだ」

「恭ちゃんと私のこと。誤解しているんでしょう」

「別に関係ないから。先生が何してても、関係ねぇよ」

 二人のやり取りについていけていなかった雪代は、自分の名前が出てきたことに驚いているようだった。

「は? 俺?」

 平野は無表情のまま、雪代に説明するように言った。

「恭ちゃんと私が、特別な関係だと思っている。――そうでしょ?」

「違うって言うのか?」

 そこでようやく事態を飲み込んだ雪代が、会話に入ってきた。それも、溜め息交じりで。

「……駿河。瑞希は俺の姪だ」

 は? 姪?……嘘だろ。

 ――俺はようやくすべてが俺の思い込みだったことに気づいた。情けないことに。

「マジかよ……」

 すると、雪代が先程言っていた黒豹というのが彼女なのだろう。しかし、なぜ――?

 その時の俺はまだ、黒豹と呼ばれる彼女のことを、何も知らなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ