(2)
「――っるせぇな! 俺の勝手だろ!」
それだけ吐き捨てるように言うと、俺は家を飛び出した。
母親と揉めた。原因は、俺がまだ進路を決めていないこと。――母親は、俺を大学に行かせたくないらしい。金がねぇからな。
ガキみたいだって思う。一人で被害者ぶって、って。でも、あれはダメ、これはダメって……だったら一体、どこに行けばいいんだよ。
イライラする。――何もかも破壊して、消えたくなるのはこんな時。逃げているんだってわかるけど、逃げなければやってられない。俺はそんなに、強くない。
そんなことを考えながら歩いていると、自分のすぐ前まで人が迫っていたことに気づかなかった。
「駿河? 何やってんの、お前」
――雪代だった。
俺の地元だ。どこにいたって関係ねぇだろ。
自分の頭の少し上で、溜め息が洩れた。
こいつ、俺より背が高いんだ。俺が一七八だから、一八〇を超えてるんじゃねぇか?――むかつく。
「何かあったのか? 人でも殺しそうな顔してるぞ」
俺はお前にかまっていられるほど、今は穏やかな気分じゃない。
そう思って顔を上げると、そこには教師の顔をしていない、雪代がいた。
「愚痴くらい聞くけど? ウチ来るか?」
そう言われて頷いてしまったのは、その時の俺がどうかしていたからかもしれない。