夏祭りの花火は夜の灯火
この作品は「なろうラジオ大賞4」の参加作品です。
それは柊にとって偶然であり、必然と思えた。
夏祭りの屋台、通り過ぎる人たち、そして花火。
十年前の八月二十日。それは柊にとって、幼少の頃とても仲の良かった少女と別れた日。それから十年後の全く同じ日の今日、目の前に前触れもなく彼女は姿を現した。
「奏……?」
柊が反射的に呼びかけると、ひまわり柄の浴衣を着た彼女はこちらを振り向いて、そのクリッとした瞳をより大きくして驚いた。
「もしかして、柊君?」
柊は黙って頷くと、
「どうしてここに奏が。引っ越したまま連絡もないから、もう戻って来ないかと」
「ゴメンね。十年前あの事故でお母さんが亡くなって、その、色々あって」
奏は本当に申し訳なさそうに俯いて目を伏せる。しかしすぐに顔を上げて、
「でもどうして私だって柊君わかったの? あの時私たち六歳だったよね」
「それはその、見ればわかるよ。奏だって僕のこと気付いたんだし。それにその浴衣、結さん、お母さんが着ていた浴衣だよね」
そう言われて奏は少し嬉しそうに首を縦に振り、
「うん。同じのを買ったんだよ。それで今日戻って来たばかりで……。不思議と無意識に来ていたの」
「どうして?」
柊が聞き返すと、奏はもじもじと髪の毛を指で弄り、押し黙ってしまった。往来する人々はチラリと、黙って向き合っている二人を見るものの、またすぐ通り過ぎていく。それからしばらくして、
「……もしかしたら、柊君に会えるんじゃないかって、不思議と思ったから、かな」
そういう奏の表情はとても笑顔で、心の底から再会に感動しているとわかる。
けれど柊はその言葉を聞いて別れる直前の、十年前の奏の言葉がずっとこびり付いて離れなかった。そのせいか、背中や額から汗がどっと噴き出る。
――絶対に許さない。
十年前。奏の母である結の死は事故死だった。
原因はとある露店の爆発。
その時偶然一緒にいた結が咄嗟に柊へ覆いかぶさり、爆発から庇ったからだった。そして彼女は全身火傷により命を落とした。
柊からすれば結は命の恩人であるが、奏からすれば母を奪った存在と言える。
「ねぇ柊君。あそこなら花火が良く見えると思うの。一緒に行かない?」
彼女は怖いくらいの笑顔を浮かべながら、人差し指で人気のいない方を示す。
「そうだね。行こうか」
柊はこんな日が来るのではないかと思っていた。だから毎年同じ日に来ていたのだから。
前を歩き出した奏の持つ巾着袋からは、微かに鈍く銀色に光る物の柄が見えたから――。