私立西迷彩高校での出来事 season2
官能的先輩が話しかけてきた。どうやら前回の寄生虫小説の評判がすこぶる悪かったらしい。
まあしょうがない気がする。ネットで調べてみれば、どうやら一部の熱狂的なファン以外は反応が良くなかったらしい。ちなみに数人とんでもないファンを獲得したらしい。
「なあ、そこでギャルゲーをやろうと思うんだが、一緒にどうだ?」
「いいすけどなんでギャルゲーなんすか?」
「今回は純愛にしとけって言われてな」
「ああいうのってとりあえず至ればいいんじゃないすか?」
「ある程度の恋愛要素は必要だからな」
「そんなもんすか」
官能的先輩が電源を入れる。
超ドキドキ高校生活とのことだ。ひねりがない。横綱揚げとまでは言わないが、せめて新体操くらいはひねってほしい。
タイトルコールが終わり、名前を入力する。なぜか俺の名前だった。そう思っていたところ、コントローラーを渡された。
「ん」
「ん。じゃないすよ。官能的先輩がやるんじゃないすか?」
「いや俺がやったら好みがでちゃって同じようなのになるだろ」
「それもそうすね」
とりあえず画面に向き直る。
幼馴染の人が話しかけてきた。カナコというらしい。
カナコ「まさか同じ高校になるなんてね。これからもよろしく」
さあ選択肢だ。やはり例にもれず三択だ。五択くらい用意してるのないのだろうか。
一つ目、ああ、よろしく。
まあ安牌だな。
二つ目、今日も可愛いな。
脈絡がない。多分偏差値低い高校なのだろう。
三つ目、胸触らせてくれ。
ありがちな選択肢だな、どうせ好感度が下がる。
「仲、どうする?」
「どうするもこうするも一つ目以外ゴミですよこれ」
「そうか? どうかんがえても三つ目が最短だと思うが?」
「ある程度の恋愛要素ってそんなもんなんすね」
まあ一つ目を選ぶ。
「面白くねえ男だな」
確かにあんたよりは面白くない。
カナコ「うん、よろしく!」
カナコは元気いっぱい目のキャラのようだ。
ここでネカマ先輩が帰ってきた。
「あ、チョドコだ」
そんな略し方なのかよ。
「ネカマ先輩やったことあるんすか?」
「あるよ」
「へえ、誰選んだんすか?」
「リョーコよ」
そういやゲーム進めてなかったな。
そういうことでなぜかネカマ先輩まで加わった。
次の女の子だ。ネカマ先輩一押しのリョーコである。
リョーコはなかなかだった。
三つ編み、眼鏡、八重歯。
なるほど、エグイ。一点集中しすぎだろこれ。てかネカマ先輩の性癖これかよ。
三人目だ。説明書によると五人いるそうなので折り返し地点である。
フサコという先輩だった。
なんか食堂で話しかけてきた。もっとましな導入なかったのだろうか。
フサコ「君、そこの箸とってくれないか」
選択肢だ。
一つ目、いいですよ。
やはり安牌枠である。
二つ目、なんでそんなことしないといけないんすか?
ただただ人が悪い。
三つ目、胸触らせてくれたらね。
おそらく脳の八割を胸に支配されているのだろう。
「仲君、どうする?」ネカマ先輩が聞いてきた。
「まあ安牌じゃないすかね」
「じゃあ三番か」官能的先輩がそう言った。
やはりこの男、効率しか頭にない。
まあ一つ目を選ぶ。
「やっぱお前つまんねえな」
「そうだよ、ここは二番でしょ?」ネカマ先輩がそういった。
モテる男は反骨心が大切らしい。
四人目、五人目はもう面倒だから飛ばすことにする。正直俺の癖に刺さらなかったのでしょうがない。
ここでなにやらBGMがおどろおどろしくなった。
「あーきたかついに」
既プレイのネカマ先輩がそういった。
「なんすかこれ」
「空襲イベントだよ」
「空襲イベント?」
「そ、これ戦時中の設定だから」
どうりで女子の名前が古すぎる。それになんで学校が木造なのかずっと気になっていたところだ。緑に画面が埋め尽くされていたので、勝手に田舎なのだと思っていた。
「ちなみに最後の方になると、ほぼ毎日爆撃されるよ」
それはドキドキだ。というかバクバクだ。
「ちなみに選択肢ミスると30%の確率で死んで強制的にバットエンドだよ」
どこのパワプロだよそれは。
「それはきついっすね」
なんやかんやで幼馴染のカナコルートになった。周りからつまらない男だと言われたが、幼馴染には夢と希望がつまっているのでしょうがない。
そうしていると、サイクロン先輩が帰ってきた。
「お、チョーコやってんじゃん」
略称二つあんのかよ。
「お、先輩戦争ですね」
派閥争いまであるらしい。引くほどどうでもいい。
「仲、どっちがいいと思う?」サイクロン先輩が俺に聞いてきた。かさねがさねいうが本当にどうでもいい。
「なんかアピールポイントくださいよ」
そういうとネカマ先輩が手を挙げた。挙手制にした覚えはない。
「チョーコ呼びって、全部の要素がはいってないんですよ。それもこのゲームで最も大切なドキドキの部分が」
なるほど、そういわれればそんな気もせんでもないような気がする。
「じゃあサイクロン先輩の意見を聞かせてください」
「チョドコはタゲムチ、チョーコはゲッチ」
「チョーコ派でお願いします」
さて、クライマックスである。運ゲーの空襲の生き延び、時間を巻き戻し、ついに主人公に赤紙が届くところまでたどり着いた。って結局死ぬんかい。
以下、ゲームのテキストである。いまさらだが俺のフルネームは仲硬樹である。
俺の特攻の宴が終わった。外をみればもう真っ暗である。まだ出発まで時間はあったが、カナコにあうのが辛かった。まだカナコには俺の事を言っていない。言わなければ、言わなければと思ううちに、ここまで来てしまった。
もういっそこのまま出発してしまおう。そう考え、荷物をまとめる。
家を出て、道を歩こうとしたとき、人影がいることに気づいた。カナコだった。
硬樹「どうしてここに...」
カナコ「やっぱりわかるよ、幼馴染なんだもん」
硬樹「そうか...」
深夜なのでカナコの顔が見えない。だが声が震えているのが分かった。
カナコ「はいこれ」
そういって手渡されたものを見る。おにぎりだった。
硬樹「もらえないよ、こんなの」
カナコ「いいんだよ」
カナコはそういった譲らなかった。押しが強いのはいつものことだが、今日はいつもよりも言い方がなげやりだった。
結局押しに負けてしまった。いつもの事といえばそうだが、負けるのも今日が最後だと思うと涙が止まらなくなってしまった。
カナコ「もー、なんでないてんのよ」
目が暗闇に慣れてきた。カナコの表情が見える。カナコは泣いていなかった。しかし目は赤らんでいる。その様子を見てまた泣いてしまい、カナコの目をしっかりと見ることができなかった。カナコが泣いているのか俺の涙がそう見させているだけなのか、判断がつかない。
カナコ「その代わりにさ、お願いがあるの」
硬樹「何?」
カナコ「私のことを思いながら死んでほしいなって」
そういったカナコの頬を、涙が一粒零れ落ちていくように見えた。
泣いた。
人の良いサイクロン先輩はバスタオルで涙を拭き、ネカマ先輩は床に水たまりをつくり、官能的先輩はカナコが目を赤らめていることに興奮していた。
結局特攻することはなく、ハッピーエンドで終わった。
後日、官能的先輩が書いた本を読ませてもらった。
内容は特攻中に女性の股に特攻するという内容で、サイクロン先輩に不謹慎だと怒られていた。どうでもいいが、ちょっと泣いた。
さて、今度はクラスでの話だ。
さすがの俺も数人友達ができた。できた日は嬉しさのあまり涙が止まらなかった。嘘である。
そのうちの一人、山村君が弁当を食べ終えたところに話しかけてきた。
「仲氏! 今度の教育実習生をご覧になられましたか!」
初めて話したときは人を氏って呼ぶやつ本当にいるんだ。と思ったが、以外と慣れた。今はそれよりも老いた家臣のような話し方が気になる。
「ああ、なんか結構かわいいんだって?」
「そうで御座います。萌え~」
周りの視線が冷たい。低体温症になりそうだ。山村くんには萌えるよりも燃えてもらって暖を取らせてほしい。
「そこで一緒にご尊顔を拝みに行こうと思うのですが!」
「ああ、いいよ」
正直いって、めちゃくちゃ気になる。
そう思っていたところ、教室の扉が勢いよく開いた。
「おい、仲いるか!」
金田だ。最近坊主が伸びてきて、よくわからない髪型になっている。
「どうしたんだよ」
「お前今度の教育実習生知ってるか?」
またその話かよ。
「なんか可愛いんだろ?」
「俺、一目惚れしちまったよ!」
「無理だ帰れ二度と面見せんな」
そういうと金田が悲しそうな顔をした。
「そんな怒涛の悪口やめてくれよ」
「諦めろよ。俺はその噂の教育実習生を見に行くんだよ」
「そんなこといわずにどうすりゃいいか考えてくれよ」
「それなら神様に聞いて来いよ。それかネカマ先輩」
そんなことを言っているうちに予鈴がなってしまった。
しょうがないので寮で話をきくことにして、金田をクラスに帰した。
「そういえば仲氏、今度私一押しの恋愛アニメ映画があるのですが、さすがに一人では恥ずかしいので一緒にどうです?」
「いややめとくよ」
「超ドキドキ高校生活 for the movieというのですが」
「よし行こういつがいいてかいつやるんだその映画」
「来月ですぞ」
「わかった」
映画に行った話は、金田の話が終わった後にしよう。
寮で金田が話しかけてきた。面倒だが相手をしてやろうとしたところ、最も避けるべき男がやってきた。
「おう仲、金田なにしてんだ?」
官能的先輩である。
さすがの俺も官能的先輩は避けるべきだと判断し、冷静に対処する。
「テストの話ですよ」俺がそう言うと、
「あーテストな。あれエロいよな」
もう訳が分からない。この人にとって世界が真っピンクなのだろうか。
「官能的先輩の世界って桃色なんすか?」
金田と奇跡的に思考が被る。
「いや、違うんだよ。よく俺の目が黒いうちは...とかいうだろ? それみたいな感じで俺の目がピンクなんだよ」
もう怖い。性犯罪に走る前に刑務所に入れた方がいいんじゃないだろうか。
ていうか目がピンクだったら世界がピンクであってるじゃねえかよ。
「もういいよ、男らしく特攻する!」
特攻というワードで涙が出そうになった。
次の日、寮に戻ると金田が話しかけてきた。見るからにしょんぼりしている。確実に玉砕したのだろう。
「なんか教育実習昨日までだったらしい...」
「そうか...」
なにか励ます言葉を考えているうちに、あることに気づいた。
「あ!」
「どうしたんだよ、仲」
「顔見てねえ!」
さて、映画である。
やはりポップコーンを買う。塩を買ってみたいのだが、結局キャラメル味を買ってしまう。よし、この現象を塩キャラメル現象と名付けよう。
「おまたせした」そういって山村君が走ってきた。
「俺も今来たとこだしいいよ」
「かたじけない」
山村君がいい席を予約してくれていたため、ど真ん中に座ることができた。
映画が始まる。内容を知っているとはいえ、キャラが動きまくっている様は少し感動した。
ここで問題が発生した。なんと左後ろの男が実況し始めたのである。
今時こんなやついるんだな、そう思いながら、イラついていた。山村君なんて真後ろなのだから相当だろう。
ここで山村君が男を見せた。
「で、やはりフサコたんのスマイルが最高なのであって~」
「あの、ちょっといいですか」
周りの客もよくやった! という顔をしている。
「なんでカナコなんですか、普通リョーコたんでしょうが!」
「は?」
思わず声が出てしまった。周りを見渡せば、全員頷いている。
え? みんなリョーコなのか? もうそこにしか興味がないのか?
「あの八重歯、三つ編み、眼鏡、あの磨けばいくらでも光り輝きそうな佇まいが素晴らしいんでしょうが!」
「そうだそうだ!」
国会中継のようになっている。
「は? フサコたんでしょうが! 君たちセンスないよ。アメリカでは歯並び悪いとメタメタにいわれるんだよ?」
「ぐぬぬ~やりますな」
どこがだよ。
「仲氏! 私は仲氏の意見を聞きたいです!」
俺かよ。てかなんかビックリマークが多い気がする。
「いや...好きな人のこと押せばいいと思うけど...」
俺の意見に映画館がどよめいた。
「そんな着眼点が!」
「争っていたのがバカみたいだ!」
「あのお方をチョーコ界隈のトップオタとしよう!」
そうして俺はなぜか神になった。もしかしたら俺はブッタやイエスにならぶ逸材なのかもしれない。そうおもっていたところ、
「よし、みんな思い思いのキャラを実況しよう!」
誰がいったか分からないが、その言葉で映画館はよくわからないオタクたちの声で満たされた。てか声が聞こえない。
実況するだけなのになぜか怒号が飛び交う中で、俺は一人つぶやいた。
「よし、ネカマ先輩と二人で見に行こう」
二学期はこれでおしまいである。
二学期のことをseason2と呼ぶ暴挙。
官能的先輩が非常に気に入っています。