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番外編 ジーナの王都観光2 ~観光そっちのけで王都郊外を散策するジーナさん~

番外編完結です。時系列の関係で以前の話を少し修正するかも知れませんので、設定は完結にしていませんが、作者としては最終話のつもりです。よろしくお願いします。

番外編 ジーナの王都観光2

~観光そっちのけで王都郊外を散策するジーナさん~


 昨日はピーちゃんと出会えたが、残念ながら血湧き肉躍る戦闘には遭遇できなかった私は、少し情報を集めてから散歩に出ることにした。

 王都で雇用した使用人の話によると、昨日私が散歩した王都の南側は比較的平和な地域だったようで、反対に北側は魔獣や盗賊も出るらしい。東と西は魔獣こそ少ないが盗賊はそこそこ多いと聞いた。特に北側近郊の森は魔獣が多く、ここを隠れ家にしている盗賊もいるという。


「お父様、対人戦の経験を積むのに盗賊を討伐したいのですが、手加減し損なってやってしまった場合は過剰防衛で罪に問われたりしますか?」

 出発前に最後の確認である。

「ジーナ、相手が襲いかかってきた場合や、明らかに盗賊であった場合はたとえやってしまっても問題ないが、出来れば生け捕りが望ましい。仲間や背後関係を調べるには生きたまま捉えることが重要だ」

 父のありがたい言葉を頂いて、この日はピーちゃんと一緒に北の森を目指した。


 目当ての森はちょっと全力疾走するとすぐに見つかった。

 探知魔法を使うと、あまり強そうではないが魔獣の反応と人間の反応がそこそこ感じ取れる。

 ピーちゃんは初めて見る森の景観に興奮気味で、ポケットから這い出すと人間大のサイズに膨らみ、森へ駆け込もうとしている。

「待ちなさい、ピーちゃん!人間を見つけたら襲っちゃダメよ。盗賊ならいいけど冒険者の人とかいるんだからね」

「ピー!」

 分かったのか分かっていないのか、元気な返事をして森へ駆け込むピーちゃんを見て、私は不安になる。

 これはしばらくピーちゃんの後をつける必要がありそうだ。


 生まれて一日しか経っていない割に、ピーちゃんは早かった。私が身体強化をしていない状態でほぼ全力疾走である。

 やがて一番近かった人間の反応があったところに近づく。


「ピーちゃん、ステイ、ステイよ」

 回り込んでピーちゃんの前に出てなんとかピーちゃんを停止させる。


「なんだてめえは」

「駆け出しの冒険者か。変なトカゲを連れているところ見るとテイマーだな」

「へっ、よく見れば結構かわいいじゃねえか。身ぐるみ剥いで楽しんだ後は奴隷として売り飛ばしてやる」


 どうやら当たりのようだ。

 私は抜刀すると、盗賊達に向かって構えを取る。

「いい、ピーちゃん。相手は盗賊だから殺してしまっても問題ないけど、出来れば生け捕りにするべきなのよ。

 私がやるから見ていなさい」

 私はピーちゃんに見本を見せるべく、盗賊へ向けてゆっくりと近づく。


「へっ、こいつ俺たち相手にやる気だぜ」

「俺たちをスカル団と知らねえみたいだな」

「おい、野郎ども、実力のほどを思い知らせてやるぞ」

 そう言うとおよそ三十人はいようかという男達は各の獲物を構え、私を取り囲むように移動しようとする。


「ふっ、やらせるわけ無いでしょう」

 包囲しようとする男達の右端へ、高速移動した私は、端から順に男達に斬りかかる。

 最初の十人は構えすら取ることなく私の一撃を浴びる。次の十人は武器を構えこそしたがその武器ごと私に切られる。最後の十人は何とか武器を私に振り下ろそうとしたが、全てかわした私にすれ違いざまに切られた。


「どう、ざっとこんな感じよ。十分手加減したからまだ息はあるはずよ」

 そうピーちゃんに話しかける私の後ろでは、真っ二つになった盗賊達がバタバタと倒れているところだった。

 悪しき魂が30霊ほど天に召された瞬間だった。


「ピッ?」ピーちゃんが、これで手加減なのと聞いているようだ。

「ふっ、これは悪い例よ。ドレスデン領の人たちよりかなり弱いみたいだから、かなり手加減してもやっちゃうことがあるのよ。わかったかしら」

「ピュィー」

「よろしい。では次は冒険者の人と盗賊の見分け方を学びましょう」

 私は盗賊達の遺体を亜空間へ収納すると次の獲物を探して移動を始めた。


 それから私たちは魔獣を見つけるとピーちゃんと私が交互に戦い、人と遭遇すると冒険者なら挨拶を交わし、盗賊なら私が戦い、悪しき御霊を次々と天へ送った。未だに生け捕りに成功していない。

「結論から言うと、手加減は難しいということね。

 ピーちゃんは冒険者と盗賊の見分けも難しいと思うから、人間に遭遇したら逃げて魔獣だけ討伐しなさい」

 自由に動きたそうなピーちゃんと昼頃に解散し、夕方までそれぞれで好きに動くことにする。

 ピーちゃんの魔力の波動は覚えたので帰りに合流することは簡単にできそうだ。


 私はそれから一人で森の中をさまよいながら強そうな敵を探した。


 しばらく散策したが、残念ながら、ドレスデン領のような歯ごたえのある魔獣は遭遇できていない。もう、あきらめて帰ろうかと思ったとき、かなり遠いにもかかわらず結構大きめの魔獣の魔力を検知した。これは行くしかないだろう。


 私は全力で駆けた。






 私が駆けつけたとき、そこにはボロボロになって戦う美少年と、見るからに強そうなキマイラがいた。


「やったー!やっぱり居た!!

 久しぶりの歯ごたえがありそうな魔獣!」


 私は歓喜の声を上げ少年と魔獣の間に滑り込む。


「バカ!

 来るな!

 こいつは普通の魔獣じゃないぞ」


 少年がかすれた声で私に警告する。

 が、私が止まることはない。


「火炎槍!風裂旋!」

 久しぶりに全力で魔力を込め、二属性の魔法を同時に放ち魔獣にぶつける。


「ギュウゥアァン!!」

 獅子の頭が咆哮する。

 どうやら対魔法結界を張ったようだ。面白い。力比べだ。


 ドゴオォーーーン


 私の魔法が獅子の咆哮とぶつかる。

 ふっ、やった。どうやら私の魔法が競り勝ったようだ。


「なに!!!」

 少年が驚きの声を上る。


 獅子の頭は焼け焦げていた。


 獅子がダメージを受けた瞬間、羊が啼いた。

「キュオウゥーー」

 見る見る獅子頭が回復する。

 あの羊、どうやら回復魔法が使えるようだ。


「なるほど、羊を先につぶさないとダメなのね」

 私はターゲットを羊に切り替える。


 両手剣を抜刀すると、最速でキマイラに斬りかかった。


「キュアァァン」

 羊の頭が奇声をを発する。どうやら物理結界も使えるようだ。ますます面白い。私は空間魔法を剣に纏わせ結界にぶつける。


 ザッシュッと鋭い音がして、結界もろとも羊の頭が縦に割れ、鮮血がほとばしる。

 次は回復したばかりの獅子頭だ。

 私は左手を剣から放し、その左手から炎の魔法を獅子頭に向けて放つ。

「火炎回槍」

 回転を加え貫通力が増した炎の槍だ。

 ジュッと音がし、獅子頭の額に大きな丸い穴が空く。


「シャアァーーー」

 尻尾の蛇頭が威嚇音を発しながら首筋をめがけて鎌首を伸ばす。


「シィ」

 私は軽く剣を振り最後の頭を斬り捨てた。


「はあ、思ったより弱かったわね。

 でも、久しぶりに思いっきり動いたから満足、満足」

 私はそれなりの攻防に満足感を得て納刀する。

 少年は呆然として言葉もない様子だ。ちょっとかわいい。


「あなた,大丈夫?

 立てる」


「ああ、何とかな」

 少年は剣を支えに立ち上がる。

 少しフラフラしている。


「そう、それなら良かった。

 私はジーナっていうの。

 家族で王都に遊びに来て退屈してたのよ。

 今日はいい運動になったわ」


「そうか。

 俺はジグムント。

 ありがとう。君のおかげで今日は本当に助かった」


「それじゃあ私は帰るけど、ジグムントはどうする。

 よかったら森の外までエスコートするわよ」

 ちょっとフラついている少年が心配になり護衛を兼ねて同行を提案する。


「ああ、助かる。正直体力を消耗しすぎた。俺も一緒に帰るよ」


 こうして私たちは森をでるまでともに行動した。


 森をでたところで別れた私たちだったが、草原を歩き始めてしばらくして、ピーちゃんのお迎えを忘れていたことに気がついた。

 早速ピーちゃんの魔力を探ると、まだ森の中を駆け回っているようだ。

 私は慌てて森へ引き返しピーちゃんと合流した。


 ピーちゃんはまだ遊び足りないようだったが、日も傾き掛けているので無理やり回収し、今度こそ本当に帰路についた。






 このときの私は、ちょっと気になる助けた少年が、将来の夫のトラウマとなるべく死ぬ運命だった乙女ゲームの登場人物であること、そして、彼が助かったことで狂い出す物語の展開、それが自分の運命に大きくかかわってくることをまだ知らない。


《第一話へ続く》


【完】


 以上で番外編「王都観光シリーズ」は完結です。結局ほとんど王都観光シーンはありませんでしたが、いかがでしたでしょうか。ちなみにペットのピーちゃんの活躍を描く番外編を、他作品のペットとのコラボで企画中です。完成に至ればどちかの作品の番外編として掲載しますのでよろしくお願いします。



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