番外編 乙女ゲームの世界をRPG世界と勘違いしている少女の成長記3 ~魔獣討伐大会で優勝したい~
番外編 乙女ゲームの世界をRPG世界と勘違いしている少女の成長記3
~魔獣討伐大会で優勝したい~
「お兄様、今日こそ勝たせてもらいますわよ」
「はは、まだまだジーナには負けられないな」
今日は週に一度の一斉魔獣狩りの日だ。
私はここのところ最高討伐数でも最大大物賞でも優勝を逃していた。
そんな中、次兄のボルスは現在最高討伐数でお父様と領軍将軍のバンダルを押さえて二連勝中だ。
ちなみに最大大物賞は極大魔法で三つ首の竜を消し炭に変えたお母様がかっさらった。悔しい……
私の前に現れてくれてさえいれば、先月やっと習得した魔法剣でぶった切ってやれたのに……
「まあまあ、そんなに熱くなるなよジーナ。
勝負は時の運。安全第一だ……」
お父様がよく分からない励まし方をしてくる。これもいつものことだ。
「そんな気構えだから、お兄様に優勝をさらわれるんですわよ、準優勝のお父様」
私はほっぺを膨らませてお父様に嫌みを言う。
「はは、そうかもな。
まあそれでも危ないことに変わりは無いんだ。ここの魔獣は国内最強の魔獣と言われているんだから気をつけるんだよ」
「分かっていますわ、お父様」
そうこうするうちに討伐開始の時間が迫る。
「それでは、私は始まりの挨拶をしてくる。みんな本当に安全第一で頼むぞ」
そう言うとお父様は魔獣の森前に設置された一段高い演台へと去って行った。
いよいよ一斉討伐が始まった。
討伐は基本的に三人から五人のパーティーで行うことが多い。
さすがにソロだと危なすぎるし、ペアでも一方が怪我でもしたらもう一方が知らせに走っている間、残された怪我人が無防備になる。
この日私は、お兄様とお母様と一緒に行動していた。
湧いてくる赤い目をして頭も赤いゴブリンを私とお兄様が接近戦で討伐し、後ろからお母様が魔法で攻撃する。
今のところ討伐数は互角だ。
私たちはそれぞれがIDカードを持っており、これに本日の討伐数や倒した大物の記録が自動で残るのだ。さすがRPG世界である。
ちなみに冒険者が持っている冒険者証もこのIDカードと同じ仕組みだそうだ。
そうこうしているうちに少し開けた場所に、虎柄の一角ウサギの大群がたむろしていた。
肉もおいしいし毛皮も売れる残すところがないおいしい連中だ。
「お母様、お兄様!毛皮に傷をつけないでお願いします」
「もちろんそのつもりよ、任せなさい」
「了解した。一撃で首をはねる」
私も剣に風魔法を纏わせて切れ味を上げ一気に群れへ突入する。
IDカードの討伐数がドンドン伸びる。
いける。100匹のうち半分は私が倒している。
風魔法纏の剣の切れ味は予想以上だ。
「ジーナ、そんなに飛ばして息切れしないか」
「大丈夫です、兄様」
会話する余裕すらある状況でウサギの群れを殲滅したときにそいつは現れた。
「大物が来ます。二人とも下がって警戒!」
お母様が叫ぶ。
ほぼ同時に上空から大きな物体が落下してきた。
ズシンという大きな音を立てて、巨大な人型が舞い降りた。
ゴーレムだ。
それも金属光沢を持った硬そうな個体……
表面は美しい色調で、青にも黄色にも赤にも見える。まるでシャボン玉のような変幻自在の色合いをしており、磨き上げられたようにピカピカだ。
平らな胸の部分に私たち三人が映っている。
「なっ、まさか……」
私はつい最近見た伯爵邸の蔵書の魔物図鑑を思い出す。
「ジーナ、知っているのか?」
兄様がきいてくる。
「はい、一昨日見た討伐困難な魔物図鑑に載っていたゴーレムだと思います。
たしか、アルティメットミラーゴーレム……」
私の返答にお母様が青ざめる。
「不味いわね……
ミラー系のゴーレムは魔法を反射する。私の魔法は効かないかも知れないわ」
と、お母様。
「ああ、アルティメット系の魔物はやたらと硬いんだ。俺の剣でも切れるかどうか……」
と、お兄様。
「悩んでいても仕方ありません。まず、攻撃してみましょう」
私は言うやいなや、剣に風魔法を弱く纏わせ斬りかかる。
纏わせた魔法が万一反射されたときに備えて、魔法の出力を抑えたのだ。
ガキンッ!
斬りかかった剣が刃こぼれするのではないかというような音を立ててはじき返された。
風魔法はゴーレムのボディーに当たった瞬間、霧散されている。いや、こちらに風が返ってきたように感じるので、反射されたのだろう。
「光の矢」
お母様が光属性の矢を放つ。
ピカッと光って細い光線が飛び出し、ゴーレムに命中するとこれも反射された。
「やはり魔法は不味いわね」
「私が切ったところも跡が付いたくらいですぐに再生されています」
私も状況を二人につたえる
「これは物理攻撃の手数で削りきるか、防御力を上回る物理攻撃力で破壊するしかないわね。
ボルス、あなたがこの中で一番足が速いわ。
急いでドメルノを呼んできて。
できればバンダルたちもよ」
「分かりました。お母様」
返答するやいなや、ボルス兄様は身体強化を使って全力でお父様たちを呼びに走る。
「ジーナ、二人で足止めするわよ」
「お母様、私が剣で叩いてもたいした足止めにはならないし、魔法は反射されるからお母様も攻撃できないのでは?」
私の疑問にお母様はニコリと微笑み、口角を上げて答えた。
「直接効かないなら間接で叩く。
ジーナ、あなたも魔法使いなら覚えておきなさい」
そう言うや、お母様は右手から水の魔法を、左手から土の魔法を発動させる。
「合成魔法の泥土液状化よ。喰らいなさい」
お母様が放った魔法はゴーレムの足下の地面を液状化させ底なし沼のように変えた。
グラリ……
自身のに重みで大きく液状化した地面に沈み込みながら、ゴーレムが傾く。
「凄いわ」
「どう、こうすればミラー系のゴーレムにも魔法は効くのよ。
でも、トドメにはならない。
だからドメルノたちの物理攻撃が必要なの」
お母様の説明になるほどと納得していると、ゴーレムの両腕があやしく光った。
「これは……
ジーナ、ゴーレムが何か魔法を使おうとしているわ。
警戒しなさい」
「はい」
お母様は攻撃魔法を心配しているようだが、ゴーレムの両手の周りの空間に揺らぎが見える。
あれは属性の系統魔法ではない。空間魔法の類いだ。
亜空間収納を使うときに現れる『空間のひずみ』に似ている。
亜空間収納をしょっちゅう使っている私にはなんとなく分かるのだ。
警戒しながら観察していると、ゴーレムは光る両腕を静かに液状化した地面に接地させる。
「何?、いったい何をしようとしているの」
攻撃魔法では無かったことに見込みが外れてお母様が焦る。
そこでゴーレムの目的が判明した。
液状化した地面についたゴーレムの両手が沈まないのだ。
あれは液状化した地面の直上の空間に働きかけて、地面の上に硬い空間結界を出現させ足場にしているんだ。
そうこうしているうちにゴーレムは沈んでいた足も引き上げ、液状化した地面の上に空間結界を足場にして立ち上がる。
「不味い、回避よジーナ」
お母様はそう言い後ろに飛び退くが、さすがはアルティメットを名乗るゴーレム。速い。
「お母様、このままでは捕まるのは時間の問題です。
ここは、私が接近戦で時間を稼ぎますから離れてください」
「ジーナ、ムリは禁物よ。危なくなったらあなたも逃げなさい」
「分かっています」
言うやいなや私は剣に風を纏わせて再び接近戦を挑む。
結果は先ほどと同じ……
風魔法はゴーレムに当たる瞬間に反射され、物理ダメージは表面に少し傷が付くだけ。
手数で傷を深めようにも、ゴーレムがおとなしくそれをさせるはずもない。
それに何より、私の体力は有限だが、ゴーレムは疲れない。長期戦がどちらに有利かは火を見るよりも明らかだ。
どうする。せっかく転生した剣と魔法の世界なのに、魔物の森の討伐どころかこんな雑魚魔物一匹に手こずるなんて……
ゴーレムの攻撃を躱し、隙を見つけては切りつけながら打開策を探す。
そのときひらめいた。表面は鏡でも内部はどうなのだろう。
物理攻撃で傷ついた部分は光沢が弱まっているように見える。
もしかしていけるのではないか……
いや、どうせこのままではじり貧だ。賭けるしかない。
私は思いつきを実践することにする。
身体強化を最大にしてゴーレムの背後に回り、持てる最大の物理力で一撃を叩き込む。
それでも、巨大なゴーレムの背中に一センチほどの深さの傷を作るのがやっとだ。
だがそれでいい。狙い通りだ。
私はたった今、切りつけたところに全身の力を込めて突きを放つ。
一センチ傷に更に一センチ、刃が突き刺さる。
今だ。
「紫電の灼熱」
剣先まで魔力を通し、先端から火魔法と雷魔法の融合魔法を放つ。
その瞬間、ゴーレムが動きを止めた。
成功だ、効いている。
ウヲオォォーン
ゴーレムから叫びとも機械音ともつかない音があふれる。
そして、ゴーレムの目、耳、口、鼻の穴から紫電を纏った炎が吹き出した。
私の魔法が内部からゴーレムを焼き尽くしたのだ。
ガラガラと音を立てて、ゴーレムが崩れた。
後に残ったのは七色に変色する不思議な鉱石だ。
私は倒したゴーレムの前で本当にこれで終わったのか心配になり、魔力感知の魔法を展開してあたりを探る。
目の前のゴーレムの残骸に魔物の反応はない。どうやら本当にただの素材になったようだ。
周囲にも私の感知魔法が届く範囲に敵性の反応はない。
するとこちらに近づいてくる大きな生命反応を一つ捉えた。
警戒する私。
「ジーナ、マリアナ。無事かーー」
叫びながら走ってきたのはお父様だった。
「お父様、こっちです」
私は声の限り叫ぶ。
すぐに父が駆けつけた。
「これは、アルティメットミラーゴーレムの残骸……
これはジーナが一人でやったのか?
マリアナはどこだ。無事か?」
「はいお父様。
お母様には余波が及ばないよう離れてもらいました」
「そうか……
ジーナ、それにしてもどうやってこの討伐困難なゴーレムをここまで破壊できたんだ。しかも一人で」
「それはですね……、
実は新しい戦法を思いついてしまいまして……
試してみたら思いのほか上手く決まってしまったと言うところです」
「分かった。後で詳しく聞かせてくれ。
取り合えずこの残骸は高値で売れそうだからみんなで回収しよう。
ジーナの亜空間収納に入れてもらえるか」
「分かりました」
こうしてゴーレムのかけらは私の亜空間収納で回収した。
ちなみに、家族で亜空間収納が使えるのは私とお母様だけである。
「やったー!大物賞と最多賞両方取った!」
結局この日は、アルティメットミラーゴーレムの出現で早めに討伐を打ち切ったため、その時点で一番たくさん虎柄の一角ウサギを倒していた私が二つの賞を両取りした。
もちろん大物賞はアルティメットミラーゴーレムの討伐者である私のものだ。
自分史上最高の快挙である。
かくしてその夜、家族会議でアルティメットミラーゴーレムの討伐方法を紹介したのだが、家族の誰も魔法剣を使える者がいないため、この方法は私しか使えないと言うことになった。
最も、魔法剣という考え方そのものが前世知識から私が編み出した技術であり、家族以外にも領内で使える者はいないそうなのだ。
もしかしたら国内でも私だけかも知れないと聞いたときは、これは間違いなく私が主人公のRPGだと確信したものである。
それがあんなことになろうとは……
この時点の私は全く予想していなかった。
以上でジーナの成長番外編完結です。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
評価や感想お待ちしています。
それでは、またどこかでお会いしましょう。




