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番外編 ジグムント出奔5 ~俺、強くなりたいと思います~

ジグムントの番外編、最終話となります。

番外編 ジグムント出奔5 ~俺、強くなりたいと思います~


 全てをあきらめかけたとき、それは現れた。


「やったー!やっぱり居た!!

 一週間ぶりの歯ごたえがありそうな魔獣!」


 俺より小柄な少女がこちらへかけてくる。

 動きやすそうな布の服に革の胸当て。

 剣を背負ってこちらにかけてくる。


「バカ!

 来るな!

 こいつは普通の魔獣じゃないぞ」


 俺は残っていた力を全て喉に集め警告する。

 が、少女は聞こえなかったのか止まることはない。





「火炎槍!風裂旋!」

 少女は奇しくも俺が放ったのと全く同じ魔法を魔獣にぶつける。

 ダメだ。その魔法は俺が既に試している。魔法はかき消されるんだ。

 少女に教えてやりたいがもはや声も出ない。


「ギュウゥアァン!!」

 獅子の頭が咆哮する。

 ああ、少女の魔法も消される。


 俺は何も出来ない自分に悔し涙を流す。


 ドゴオォーーーン


 少女の魔法が獅子の咆哮とぶつかる。

 結果は同じだろう。

 俺はうつろな視線でことの成り行きを確認する。と……


「なに!!!」

 俺は驚きの声を上げた。


 獅子の頭が焼け焦げているのだ。

 俺の魔法は消されたのに、少女の魔法は獅子頭に効いた。

 獅子頭の咆哮に打ち勝つとは、いったいどれだけの魔力が込められた魔法だったんだ。

 俺だって魔力には自信がある。その俺の魔力でもノーダメージの獅子頭が焼けただれるのだ……。


 獅子がダメージを受けた瞬間、羊が啼いた。

「キュオウゥーー」

 見る見る獅子頭が回復する。

 あの羊、回復魔法も使えたのか。

 俺のときは一度も使わなかった回復魔法……

 それは俺では回復魔法を使わせるほどのダメージを与えることが出来ていないことを物語っている。


「なるほど、羊を先に潰さないとダメなのね」

 自分の攻撃のダメージが無効になったのに、少女には焦りの様子はない。


 少女は背中の両手剣を抜刀すると、信じられないようなスピードでキマイラに斬りかかった。



 ダメだ。羊に斬撃は効かない。

「キュアァァン」

 羊の頭が奇声をを発する。俺のときと同様、羊頭の前に結界が現れる。



 剣がはじかれると思った瞬間、ザッシュッと鋭い音がして、結界が切り裂かれた。

 そしてそのまま、羊の頭が縦に割れ、鮮血がほとばしる。


 少女の一撃は結界を切り裂き羊の頭を両断した。

 いったいどれほどの力が込められた斬撃だったのか。

 領軍の猛者とも切り結べる俺の斬撃を軽くはじいた結界だったのに……

 いや、そもそも少女の一撃は本当に単純な斬撃だったのだろうか……

 結界を切り裂く斬撃……


 俺の驚きはそこにとどまらない。少女は止まることなく次の行動に出ていた。


 そう……、少女はすかさず、左手を剣から放し、その左手から炎の魔法を獅子頭に向けて放ったのだ。

「火炎回槍」

 回転を加え貫通力が増した炎の槍だ。俺には使えない。


 ジュッと音がし、獅子頭の額に大きな丸い穴が空く。



「シャアァーーー」

 尻尾の蛇が威嚇音を発しながら少女の首筋をめがけて鎌首を伸ばす。


「シィ」

 少女はゴミでも払うかのように右手の剣で最後の頭を斬り捨てた。


 俺は呆然としてしまい言葉もない。



「はあ、思ったより弱かったわね。

 でも、一週間ぶりに思いっきり動いたから満足、満足」


 俺が手も足も出なかった魔獣を軽くあしらった少女は満足げに納刀する。


「あなた、大丈夫?

 立てる?」


 片膝をついて立ち上がれない俺に気がついて少女が話しかけてきた。


「ああ、何とかな」

 俺は剣を支えに立ち上がる。

 少しフラつくがなんとか立てた。


「そう、それなら良かった。

 私はジーナっていうの。

 家族で王都に遊びに来て退屈してたのよ。

 今日はいい運動になったわ」


「そうか。

 俺はジグムント。

 ありがとう。君のおかげで助かった」

 キマイラをいい運動扱いにする少女にあきれながらも感動する。

 よく見ると大変かわいらしい顔立ちをしており、とても凄腕の冒険者には見えない。


「それじゃあ私は帰るけど、ジグムントはどうする」

「ああ、俺も帰るとするよ」

「そう、じゃあ森をでるまで一緒に行きましょう」


 こうして俺たちは森をでるまでともに行動した。


 疲れ切っていた俺はほとんどしゃべることも出来ず、途中の魔物は全てジーナがたたき切った。


 森をでたところで別れた俺たちだったが、草原を歩み去るジーナを俺は姿が見えなくなるまで見送った。

 俺は恋に落ちた。



 体力がある程度回復してから、森の外れにつないでいた馬に乗って侯爵邸に戻った俺だったが、この日は疲れているのに眠れなかった。


 キマイラによって、たたき折られた自信……

 当面の死亡フラグであるキマイラの討伐……

 そしてそれをなした冒険者の少女ジーナ……


 俺はこれからどうすべきか……



 西の魔境にはあれ以上に強い魔物がひしめき、ヒロインの選択次第ではドレスデン家でも抑えきれずにこの国を壊滅させる。


 もっと強くならなければ……

 そしていつか、あの少女の隣に立てるような腕前になりたい。






 俺は翌朝早く、手紙を残して侯爵家を出奔した。

 自分を鍛えるには世界を知らねばならない。






 こうして俺は侯爵家を旅立ち、まずは西の地を目指した。

 しかし、西のドレスデン伯爵領の魔物はキマイラ以上の強さで、一緒に回ってくれた領内の冒険者の足を引っ張ることしか出来なかった。

 俺にはまだ早い。


 俺はきびすを返し、ドレスデン領以外の世界を回りまずは自力を上げることにした。


 それは過酷な旅だった。

 あえて小競り合いが絶えない仮想敵国の東の隣国に行ったこともある。


 そして5年……

 俺は強くなった。

 おそらくドレスデン領以外では最強に近いはずだ。

 いよいよ時は満ちたのだ。

 再びドレスデン領の魔物に挑む時が……


 そしてドレスデンの魔物を倒せるようになったら……

 あの少女を探そう。


 彼女のあの腕前だ。きっと有名な冒険者になっていることだろう。

 俺は自分の未来を信じて、ドレスデン領を目指した。






 このときの俺は、

 ヒロインがゲームになかった逆ハーエンドを達成していたこと……

 そのせいで全ての攻略対象が俺の兄・トルストを含めて失脚してしまったこと……

 兄の失脚に伴って、実家が俺を本気で連れ戻そうとしていること……

 そして何より、俺の捜索人に選ばれたのが誰あろう、焦がれてやまないかのジーナ嬢であることを、まだ知らない。







 ここまで、読んでもらってありがとうございます。番外編、いかがだったでしょうか。

 ジグムントの回想を通じて、本編では明らかになっていなかったゲーム世界の設定が明かされる内容にしてみました。

 なんと言っても、本編主人公のジーナ嬢は、自分が転生した世界が乙女ゲームの世界だと知らなかった人なので、本編ではほとんど触れられませんでしたので……

 ここまで、ブックマーク・評価頂いた方、ありがとうございます。励みになりました。

 まだの人はよろしかったら、評価をお願いします。

 それでは、またの機会があれば、そのときはよろしくお願いいたします。感想・レビューもお待ちしています。



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― 新着の感想 ―
[一言] 奥様が今世の初恋か、その奥様が白い結婚とはいえ兄の嫁になっていたと知った彼はどう思ったのかな。
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