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番外編 ジグムント出奔4 ~俺、運命の年を迎えました~

番外編 ジグムント出奔4


 日々侯爵軍の練兵に参加し、体力と剣技に磨きをかけ、魔法の腕も上げる。

 前世の知識も駆使して、能力向上に役立ちそうなことは片っ端からやった。

 それもこれも、全ては死なないため、生き延びるためだ。

 貴族としての学習は最低限にし、鍛え続けた俺は12歳の頃には本気でやれば侯爵軍の将軍ともやり合えるほどになったと自負していた。

 そんな俺を見て、父アウグストは将来兄トルストを軍事面で補佐するのだろうと考えていたようだ。兄トルストの警戒も幾分緩んでいたように感じる。





 そして俺は運命の14歳を迎えた。

 俺は自分が予想していた以上に強くなった自分自身にうぬぼれていた。

 当初はキマイラに抵抗して救援を待つ作戦だったのだが、考えてみれば、ゲーム内でも俺がやられた後も多大な被害が出ている。

 結局移動したキマイラがそこでたまたま遭遇したドメルノ・ドレスデン伯爵に斬り殺されるまで、ダメージらしいダメージを与えることは出来ていないのだ。

 森の魔獣や周辺の村を襲って成長したキマイラに救援が来るまで抵抗することはとても難しそうだ。かといって、トルストが逃げるタイミングで、俺も逃げても、二人してキマイラにやられるだけだろう。

 そして、天狗になっていた俺は考えた。

 そうだ。魔獣キマイラが発生するのは王都近郊の森……

 発生直後の成長していないキマイラなら倒せるのではないだろうか……

 いや、俺ならやれる。




 根拠のない自信を持った俺は、ゲームの設定通りなら魔獣が現れるというその日に、王都近郊へ狩りに出かけると家族に告げて、キマイラが発生するはずの森に赴いた。




 郊外の森は草原よりも生き物の気配が濃く、ホーンラビットやスライムなどの弱い魔物に交じって、時折ボアなどのやや強めの魔物も見受けられたが、剣と魔法を鍛えた俺の敵ではなかった。

 やれる。

 俺の根拠がなかった自信は、自分の中で確信へと変わる。


 それほど大きな森ではなく、森の入り口から小一時間も歩くと森の中心付近に到達した。

 事前に調べていたとおりの規模だ。

 俺の予想が正しければ、このあたりでキマイラが発生する。


 警戒しながらゆっくりと森の下草を踏みしめて探索すると、それは以外とあっさり見つかった。


 大きな魔力だまりである。


 真っ黒く球状に集まった魔力だまりが、何かの形を形成しているところだった。

 将に魔獣誕生の瞬間だ。


 既に尻尾の蛇部分と足の先は具現化している。


 もちろん魔獣が完成するのを待ついわれはない。


 俺は早速、持てる魔法の中でも効果がありそうなものを完成間近の魔獣に向けて放つ。


「火炎槍!風裂旋!」


 右手から火炎系の魔法、左手から風系統の魔法を放ち、風の力で炎を強化して魔獣にぶつける。


 ドゴンと大きな音を立てて、魔法は黒い魔力だまりにぶつかった。


「ギャオオォーーーーン」

 完成間近の魔獣が咆哮をあげる。


 いける。

 効いている。


 俺がもう一度同じ魔法を放とうと両手に魔力を集めると、それが完成する直前に魔獣が誕生した。


「ギュオォ、ウルルウゥィ」

 魔獣は威嚇のうなりを上げながらこちらに突進してくる。

「火炎槍!風裂旋!」

 俺は完成間近の魔法を未完のまま魔獣にぶつける。


「ギュウゥアァン!!」

 獅子の頭が咆哮すると俺の魔法はかき消された。


 なんだ、この力は!?

 これが誕生直後の魔獣の力だというのか?


 俺は混乱しながらも剣を構える。

 魔法が効かないなら物理で叩くしかない。


 14歳とはいえ、この日のために鍛錬してきたのだ。

 俺なら勝てる。


 来る途中でボアを一刀両断にした袈裟切りをキマイラに放つ。


「キュアァァン」

 羊の頭が奇声をを発すると、俺の斬撃はキマイラに当たる直前ではじかれた。


「物理結界だと!

 なぜ生まれたばかりの魔獣がこんな高度な魔法を使える!?」

 俺はますます混乱するが、日頃の鍛錬が身に付いていたのか、キマイラの突進を直前で躱すことに成功した。


 俺を通り過ぎた魔獣は直ちに向きを変え、再び俺に対峙する。

「グルルウウゥ」

 武器を持ち魔法を操る俺に多少の警戒はしているのか威嚇の唸りを上げるが、そのまなこは追い詰められた動物のものではなく、明らかに獲物を狩ろうとする捕食者の目だった。


 俺は確信する。

 こいつは強い。

 少なくとも、今の俺ではかなわない。


 しかし、ここであきらめるわけには行かない。

 今までの鍛錬は何のためだったのか。

 生き延びるために、全てを出し尽くせ。



 死力を尽くして剣撃、魔法を叩き込むが、状況は好転しない。じり貧である。

 こうなったら刺し違える覚悟でやるしかない。


 追い詰められた俺は疲れ切った体に活を入れ、最後の攻撃に出る。




 が、無情にも俺の剣は羊頭の結界に阻まれ、魔法は獅子頭の咆哮にかき消された。



 体力も、魔力ももはや残っていない。

 がくりと膝をつく俺を見て、キマイラの獅子、羊、蛇の頭は舌なめずりをする。

 俺を食べる気満々のようだ。


 もはやここまでなのか。

 俺はゲーム同様ここで果てるのか?







次話は今日の夜には投稿したいと思います。

次回が番外編ジグムント出奔編の最終話となります。

完成し次第、投稿します。

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