番外編 ジグムント出奔2 ~俺、睨(にら)まれました~
番外編 ジグムント出奔2
ゲームの設定では、ジグムントとトルストは髪の色が違うだけでそっくりな双子だ。
二人ともとても優秀で、特に知性と魔力、そして容姿はゲーム中でも最強に近い設定だった。
そして、兄トルストは、侯爵家の後継者を争うことになる俺を幼少期から意識し、ライバル視していた。
弟ジグムントはそんな兄の心の内を知ることもなく、その能力をよく発揮した。
実際はゲーム上の設定で二人の能力に甲乙は着けがたいと言うことになっていたのだが、他人は自分より良く見えるというのが人間の本能だ。
兄トルストはジグムントにコンプレクスを感じ、無意識のうちに何とか排除できないかと感じていた。
そして事件が起こる。
15歳から全員が学園に通うという設定のこのゲームで、学園入学の1年前に当たる14歳の時、オープンスクールの見学と言うことでトルストとジグムントは二人で学園を散策する。
そして、ちょっとした冒険心から人があまり行くことのない旧校舎の裏に立ち入ったときそいつは現れた。
一週間前に王都近郊の森で自然発生した災害級の魔獣キマイラ。
通り道にある集落を壊滅させ、国軍や騎士団まで派遣されて必死に捜索していた魔獣があろうことか、二人の前に現れたのだ。
そしてこのとき、恐怖の中でトルストの心に悪魔がささやく。
弟を排除するチャンスだと。
「ジグ、二人で魔法を使って攻撃するんだ」とトルスト……
「分かった、トル、僕は火炎系の魔法を使うから、旋風系の魔法で威力を高めてくれ。
タイミングはトルに任せる」とジグムント……
トルストは心得たとばかりに大きな声を出す。
「よし行くぞ。3・2・1、今だ!」
そして14歳の少年が使うにしては高威力の火炎魔法が放たれ、狙いを過たずキマイラの3つある顔のうち羊の顔を直撃する。
しかし、そこに風魔法の援護はない。
トルストは一目散に逃げ出していた。
攻撃されたキマイラはジグムントをロックオンする。
学園内と言うことで帯剣していなかったジグムントは必死に魔法で迎撃するが、最初に直撃させた炎の魔法を警戒していたキマイラにことごとく躱される。
「助けてくれ、トル」
トルストの耳にジグムントの叫びが届いても、トルストの足が止まることはなかった。
こうしてゲームでのジグムントは殺され、トルストのトラウマとなる。
そのトラウマを癒やすのがヒロインのロザリー・ハルノー男爵令嬢ということなのだ。
その逃げ去るときに浮かべたトルストの表情、というか眼差し……
転生前に画面越しに見たそのいやらしい視線……
それこそが今、5歳のジグムントに向けられているトルストの視線と同一のものだった。
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次話は14時に投稿予定です。




