番外編 ジグムント出奔1 ~俺、テンセイしました~
感想で何人かから続きをという声を頂きました。ありがとうございます。
時系列的には、本編の過去に当たりますが番外編を投稿します。
本編未登場キャラ、ジグムントの視線でお送りします。
なお、番外編はコメディーではありません。
人間ドラマの様相を呈していると思います。ご了承ください。
番外編 ジグムント出奔1
俺の名はジグムント。
マコゴレイ侯爵家次男として生まれたが、今はただのジグムント、修行の身だ。
冒険者として日銭を稼ぎ、日々魔物と戦いながら研鑽を積んでいる。
貴族として何不自由ない生活を捨ててまで、俺が今の道を選択したのは14歳の頃だった。
今日は少し、俺の昔話に付き合ってくれ。
俺には前世の記憶がある。
その記憶を思い出したのは俺が5歳の頃だった。
よく頭を打ったり池に落ちたりして前世の記憶を思い出すパターンが、俺の前世で読んでいた小説にもあったが、俺の場合は少し違う。一度に思い出すのではなく、少しずつ思い出したのだ。今現在も前世の全てを思い出したわけではない。
メイドたちに世話をされながら風呂に入っているとき、一人で出来るのにと漠然と思ったり、シャワーはないのかと不満を感じたり……
食事では、西洋風の貴族の食卓に、こんなに豪華でなくてもご飯が食べたいと思ったり……
そして決定的だったのが、5歳の時、双子の兄であるトルスト・マコゴレイとともに家族で郊外に出かけたときのことだった。
父であるアウグスト・マコゴレイが財務の副大臣に任命されてからなかなか家族での時間が取れずにいたのだが、この日は久しぶりに休暇が取れたと言うことで、母と4人で郊外にピクニックに来たのだ。
草原に簡易の組み立て式テーブルとイスを出し、日よけの下でくつろぐ両親の近くで、俺と兄のトルストは普段見ない自然を満喫していた。
「あっ、キスミレがありますよ、父上」
俺は野に咲く黄色い花を見つけ父上に報告する。
「おお。よく知っていたなジグムント」
「偉いわね」
両親に褒められ頭をなでられる俺は背後に視線を感じ振り返る。そしてそれを見つけた。
振り返った先にあったのは兄トルストの射殺さんばかりの視線だった。
その瞬間、何かが記憶に引っかかる。
乙女ゲーム……
攻略キャラ……
令和日本……
知るはずのない記憶が一部分ではあるが鮮明に脳内再生された。
俺は自分が過去に日本人だったことを悟る。
ここは乙女ゲームの世界。
俺は攻略キャラであるトルスト・マコゴレイのトラウマとなる、ゲーム開始前に惨殺されるモブキャラ……
なんと言うことだ。
幼少期から感じていた違和感の正体もこのときはっきりと認識した。
無意識に日本の生活と比較していたんだと……
次話は13時投稿予定です。番外編は5話で完結する予定です。
作風が本編とはかなり違いますがご容赦ください。
間違いなく同じ作者が書いています。




