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九州大学文藝部・2021年度・学祭号

花束の裏側

作者: 亜鈴柚咲

 僕は花束をあげた。

 花束とはよく言ったもので、花の長さも色も種類もバラバラの、包装もされてないただの花の束。

 それでも貴方は、ありがとう。と言って笑った。

 そして、一週間後、安らかに貴方は逝った。花束を抱えて。



 少し狭いソファーに寝そべったまま、天井を見つめている。寝ているのか起きているのか自分でも分からないが、刻々と時間だけが過ぎていく。こういう時間がとても僕は好きだ。でも同じくらい、何も成せない自分が嫌いだ。この世は結果が全てで、プロセスなんて関係ない。報われたものだけが努力として認められて、結果を残したものだけが正義だ。だから、何も成せない自分はただの塵だと思う。仕事を辞めてもう一ヶ月になる。今日も一日予定はない。貯金を食い潰す生活のままでは、通帳のお金はいつか尽きるのだろう。人生の時もいつか尽きるのだろうか。

 ソファーから手を伸ばして机からスマホを取る。通知はメッセージが一件、二日前のものだった。



「もう、私、長くないみたいなの」



 既読をつけて、スマホを机に戻す。何も感じられなかった。否、何も感じなかった。ああ、自分はなんて薄情な奴だろうと思いながら、目を閉じるとすぐに眠れた。

 目を覚ますと、夜だった。戸棚にあった最後のカップラーメンをすする。貴方が病に伏しているのは知っていた。それでも、貴方が居なくなるなんて、考えたこともなかった。窓に映る自分の顔は、変に真面目な顔で、まともじゃない。そう思うと、酷く醜く見えた。

 僕は貴方に花をあげようと思い立った。家を出たはいいが、お金がない。それでも、貴方に花をあげようと思った。角を曲がって信号を渡ると花屋がある。今日は定休日だった。店先には、色とりどりの花が並んでいて、盗めばいいと僕は思った。

 手に花束がある。それだけで、貴方のいる場所に向かう足どりは軽かった。花が好きな貴方はきっと喜んでくれるに違いない。病室の扉を開けて花束を渡す。貴方の喜ぶ顔が嬉しかった。

 花束はきっと花束だ。

 何かの違いがあるのですか。

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