魔女の世界
赤いインコがラルーの肩に止まり、ほほに顔をすり寄せる。
「あら?」
ラルーにしては珍しく苦笑いをした。インコが首を傾げる。
「ありがとう。少し予想がはずれてしまって、……」
おそらく、ここに連れてきたかったのだとは思う。しかし、ワカバの不器用さを考えれば、ここは無理かもしれないとまでは思っていた。それでも、せいぜいトーラとつながりを持つ教会内。だから、ルディにも教会内の見回りは欠かさないでと伝えていたのだ。しかし、まさか庭に落とされるなんて……。少しだけ、その不運なトーラに同情してしまう。
「インコちゃんはワカバのことをよく知っているのね」
ラルーに褒められ、インコは僅かに胸を張り「くぉこぅ」と鳴いた。
ワカバの選ぶ世界は分かっているつもりだった。きっと、全てをやり直すつもりで、大きな賭けとも言える未来を選ぶのだろう。しかし、ワカバもバカではない。みすみすこの世界の記憶を消し去ろうとは思っていないはずだ。だから、あちらの世界を覆う不穏を完全に消し去るために、こちらにワカバを知るあちらのトーラを一時避難させてくるはずだとラルーは睨んでいた。
いや、そうでなくても、力なきトーラがその時の衝撃に耐えられるとは思えない。あちらの世界を修復するには彼女が必要なのだ。
あの不穏と立ち向かうにあたれば、あちらのトーラの身の安全が第一になるだのだ。だから、今から20年ほど前にラルーに謝まりにきたワカバはその客人について何も言わなかった。ラルーが反対すると思ったのだろう。
まずまずの……そこで、ラルーは言葉を変えた。
まぁ、ワカバにとっては上出来でしょう。
世界を覆うトーラを紡ぎながら、こちらに客人を飛ばすのだから。そして、やはりワカバはワカバでしかないという答えに行き着いた。
ラルーの知る限り、トーラに次いで不器用な生き方しかしない『ワカバ』という最強のトーラ。彼女を思うラルーの微笑みは優しいもので、そのままワカバを思い目を伏せた。
ワカバはああ見えてとても繊細で強硬なのだ。ラルーにとってそれは意外であり、納得出来るものであり、母であるトーラの選択を認めざるを得ない事項でもあるのだが。
だから、ワカバを選んだのだ。そう思わずにはいられない。たくさんのことを考えて、感じ取って、自分と向き合える。最大の強さは他者を受け入れることが出来るということ。
そして、自身よりも他人の願いを優先するということ。それなのに、過去に現れるどんなトーラにも一度も負けたことがない最強の魔女。
そして、思った通りの行動をワカバは取った。ラルーは自分に起きた変化を見つめながら、手に流れる髪色に思い耽った。
決心したのだろう。
視線をあげ、ラルーは空を見上げた。
大きな溜息を零したはずのラルーの表情は自然に零れた微笑みだった。しかし、すぐにその微笑みは消え去った。
向かうはディアトーラ領主館。
全くいつまで経っても世話の焼ける子ですこと。もっと自分の気持ちに正直に自分勝手な魔女でもよかったのに。
立ち上がったラルーの髪は紫の髪色ではなく、黒髪。そして、魔女の象徴であった緑の瞳は漆黒色に戻っていた。
ルタとなったラルーはこの世界を繋ぐための行動を起こそうと、最後の企てを進める。




