そして世界は夢を見る
色彩豊かに光を放つ人工的な光の海を見つめ、恋人達が眼下を臨む。彼らは足下で起きている喧噪など全く知らずに、ただ「きれい」だと人類の築き上げた未来に夢を見た。
だけど、地上に降りれば夢を見たはずの彼らでさえその喧噪に巻き込まれ『夢』を忘れる。
それは昼夜問わずに起きるのだ。摩天楼は『夢』を与えるためにただただ高くそびえ立つ。
『模型』のように小さく映る列車と線路。ミニカーの走る高速道路。ちっぽけな存在に、存外に大きく思える自分の存在。
彼もまた『夢』を与えられ地上へと戻る。そして、ちっぽけな自分に失望する日を再び数え始める。
もしかしたら、神様はそんな風に『ヒト』を創造したのかもしれない。
より高く、より大きく。遙か遠くに至るまで時を数え、時を失う。
儚い記憶を持つもの達を、ただ愛おしみ、愛でるために。
儚い記憶を持つもの達に神と同じ気分を味わわせるために。
儚い記憶を持つもの達に、絶望を与えかねない夢を与えるために。
おそらく人はこう言うだろう。
「なんて残酷な存在なんだ」と。
ただ、ヒトは気づいていない。この世界に生まれ出た意味を。しかし、それはこの世界を生み出した神ですら気づいていない事象なのだろう。神が何を望んで彼らを生みだしたのか。
おそらく、単純な理由を
何人たりとも知らないのだろう。