「ハーレムヒロイン限定」転移相談所
人々が賑わう大通りの表参道にその店はある。
店の名前はドラッカー、「ハーレムヒロイン限定」の転移相談所だ。
ハーレムヒロインとはヒロインが多数登場する物語のヒロインのことを指す。
ハーレムヒロイン限定なんてニッチな商売が成り立つのか疑問に思うかもしれないが、そこは商売のやり方次第で幾らでも金を毟り取れるだろう。
今日も暗い顔をした見目麗しい女性が一人、当店に来訪した。
「いらっしゃいませ。」
私は来訪した女性の耳に聞こえる位の声量で挨拶をした。
居酒屋やコンビニエンスストアの様に明るく大きな声など論外である。
ここに来た方々は飲みに来た訳でも深夜に酎ハイを買いに来た訳でもないのだ。
「はじめまして、私の名前はガーネットと申します。こちらはその転移相談所で間違いないかしら。」
女性は俯きながら声を出す。
「はい。こちらはヒロイン限定の転移相談所となります。」
私は半ば機械的とも思える位お堅い表情で返答した。
正直、この商売の心象はそれほど良くない。
ハーレムヒロインということは一人の男性に対して複数の女性がいる状態である。
この様な場所に来ること自体が競争相手への敗北を意味している。
「実は・・・」
ガーネットの話を要約すると、主人公君が抱えるハーレムヒロインの数が2桁を超え、最近は月に1度話すかどうかのレベルになっているそうだ。BIG3と呼ばれる冒険初期から同伴しているヒーラーちゃん、元は奴隷だった猫耳獣人のキャットちゃん、読者人気トップの姫騎士リリアン、この3人と主人公君の4人で物語の大半が進み、他のヒロインは登場時以外はバーター要因如くイベント時の賑わかし程度となっているらしい。
「私、こう見えても最年少の賢者で炎魔法の達人でもあるの。それがこんな扱い耐えられない。」
ガーネットはそう言うと、さめざめと泣き始めた。彼女は見目麗しく才能もあり努力も怠らないのだろう。但し、その分プライドも高く、主人公君の様な更に自身の上をいく稀有な人物でも現れない限り独身コースまっしぐらかもしれない。
「泣かないでください、マドモアゼル。次の異世界ではあなたにピッタリの主人公が見つかります。」
私は、A4の用紙を1枚、机の上に出した。
「こちらは、ネクストワールドという世界で、これから主人公が冒険者となって冒険の旅に出かけます。あなたは冒険者ギルドに来た主人公に目を付け同行します。」
私はA4の用紙を指さしながら説明する。
「なかなか良いですね。特に物語初期のヒロインのポジションというのが素敵だわ。大半の作品は物語初期のヒロインと結ばれることが多いもの。ただ、この物語で私は活躍出来るのかしら。」
ガーネットさん、範囲魔法の分野で言えば魔法に次ぐ世界第2位の実力者であるが、主人公君の戦いの多くが強敵単体に対して複数の仲間で戦っているらしい。近接戦や単体攻撃がガーネットより得意な仲間がおり、戦闘要員としてもガーネットは微妙な立場となっているそうだ。
「ならばこちらの物語など如何でしょうか。」
次に私が提案したのは、サードワールドという世界だ。この世界の主人公は貴族として仕官し、大勢の兵隊を引き連れ戦う立身出世物語だ。
「ガーネットさんには当初、敵側の傭兵として主人公の前に立ちはだかります。終戦後、主人公に気に入られ、傭兵として主人公勢に味方します。」
私の説明を聞いてもガーネットは浮かない顔をしていた。
「確かに私の能力を発揮出来るけど、最初に私と主人公が戦う規模の戦場だと、私一人で敵側を全滅させちゃうわよ。」
ガーネットの炎魔法は一発でモブ兵士位なら数百人焼き殺してしまうそうだ。最大火力の魔法は都市一つ焼き殺すそうだから、それ以上のこの世界の魔王の実力は桁外れだ。ガーネットさんなら魔王の魔法にも対抗出来るそうだ。ガーネットさんが転移した後、主人公君が魔王にどう対処するのか疑問に思ったがお客様の前で他のことを考えてはいけない。
「最初から主人公に雇われた傭兵では駄目かしら。」
ガーネットさんは物語初期のヒロインになりたいようだ。
「サードワールドの物語ですが、亡国の姫君が参謀として主人公に同伴し、戦闘では魔法でサポートします。ガーネットさんが初期から味方ですと主人公や姫君の活躍を根こそぎ食いかねませんので難しいです。」
私がやんわり断りを入れるとガーネットさんは少し不機嫌になった。ガーネットさん最大の問題はその火力の高さから物語序盤からの加入が難しいのだ。強過ぎる味方は封印されるか遠方に行くか等、物語序盤に出ても離脱させられるのがセオリーである。
「こちらはあまりお勧め出来ませんが如何でしょうか。」
フォースワールドは家族を殺された主人公が王国に復讐する物語だ。主人公側の仲間は高確率で死ぬことが予想されお勧め出来なかった。
「良いじゃない。圧倒的な戦力差の中であっても怯まず戦う。こういうのを待っていたの。」
ガーネットさんは予想に反して、目を輝かして喜んでいる。
「ですが、他の世界に比べ本当に危険なんですよ。」
私はガーネットさんに翻意を促す。
「うーん。ならこの世界の主人公はどういう人間でどういう戦い方をするの。」
ガーネットさんは深堀し始めた。
「フォースワールドの主人公は目的達成の為には多少の犠牲も厭わない覚悟を持った人物です。武器は斧槍とダガーを得意としていますが、利用できるものは何でも利用するタイプです。」
フォースワールドは荒廃した世界なだけあって治安はかなり悪く、幼少の頃より戦いに明け暮れた主人公の技量は相当のものだ。
「魔法使いとの連携も得意で常に戦いに身を置いている。私の中の魔力がうずくわ。」
確かヒロインとして転移先を探していた筈が、傭兵が新たな戦場を求める話に変わってしまった気がする。
だけど、依頼者の要望に沿った形なので問題無し!
「行ってらっしゃいませ。」
私はガーネットさんから依頼料を頂き、フォースワールドへと送り届けた。
「上手くいったみたいですね。」
お店の奥から顔を出したのは主人公君だ。いつも傍に侍らせているBIG3はいない。
実を言うと、主人公君からハーレム要員のリストラの依頼を私は受けていた。
2桁となったハーレム要員の管理など容易ではない。
今回、私はリストラしたハーレム要員の数によって主人公君から金品を受け取る契約を事前にしていた。
主人公君とハーレム要員の双方からお金を頂き、懐はホクホクになった。
ハーレム要員の女性も他の世界で再度チャレンジ出来るのだからウィンウィンだろう。
「主人公君、ハーレム要員の増員も程々が良いですよ。選択と集中です。」
私は主人公君にニコリとほほ笑んだ。
選択と集中、人気のあるキャラの見せ場を増やし、不人気キャラはとっとと退場させる。
逆ハーレムバージョンも執筆するかも。