第三十四話 選ばれなかった二人
電話に出たら、元カレのTS予定イケメンくん――いや、TS”ヒロイン”ちゃんだった。着信相手をしっかり確認しなかったことを後悔する。着信拒否なり、ブロックなりしておけばよかったなぁ。自らの未練がましさを恨みつつ、すぐに切ろう――
『ふ゛ら゛れ゛た゛』
「ええ~~~……」
お、お、お、おまえ~~! そこは上手くいくところでしょうがよ!! そんで「私をフって幸せにやりやがって、恨んでやるーーっ!」って叫びたかったよ!! 私は!!!!
そもそも! なぜ!! フった相手にフられた報告するんじゃい!!
……と、思ったけども。付き合ってた時に聞いてた話から察するに、TS”ヒロイン”ちゃんは交友関係とても狭い。友だちが親友”主人公”くんしかいないっぽい。エロゲのメインキャラって、友だちが少ないよね(※1)。
あとは、妹ちゃんと部下”ヒロイン”ちゃんたち、か。おそらく恋のライバルであろう彼女たちに、告白してフられたなんて話をできるはずがない。
うん、消去法で私に電話するしかねぇ!
いつ電話を切ろうかと思っていたけど、相手のボッチっぷりに気づいてしまった。ここで電話を切るのはあんまりにも無情すぎる。しょうがねぇなぁ! 聞いてやるよ!! と思いつつ嗚咽まじりの話し声に「うんうん」と相づちを打つ。
そして思わず言ってしまった。
「そらフられるよ」
「どうじで」
TSしたのが23日、別れたのが24日、告白したのが25日て。攻略がド下手すぎる。
そりゃあ「友だちとしか思えない」と言われても仕方ない。たった三日で、親友”主人公”くんのTS”ヒロイン”ちゃんに対する認識が変わるってのは無理がある。
TSヒロインのいちばんの強みは『距離の近さ』と『油断』だ。ふざけて肩を組む。スカートであぐらをかく。男なら当たり前の動作を女の子がする。しかも、恥じらいなく。危なっかしいわエッチだわで、見てる方はドキドキせざるを得ない(※2)。
そして、TSヒロインのいちばんの旨みは『自分は女の子であると理解した瞬間』だ。男性性の喪失と女性性の獲得。そこから生じる感情。最高においしい(※3)。
とまあ、そういったニュアンスの話を、オブラートに包んで伝える。
「じわじわ時間をかけてアピールするべきだったと思うよ?」
「だっで、好ぎになっぢゃったんだもん~~~!!」
振り絞るような泣き声。電話の向こうで、TS”ヒロイン”ちゃんが昨日の自分と同じ顔をしているのかと思うと、不思議な気持ちになる。
エロゲにあるのはハーレムエンドだけじゃない。
数だけで言うのならば、個別エンドの方が豊富だ。当たり前だ。攻略対象の数だけルートがあるのだから。どれだけ共通ルートでイチャイチャしてようが、主人公に選ばれなかったヒロインは恋人になれない。
この世界は、基本的に一夫一妻制だ。
単純に、一夫一妻の夫婦の数が多いのだ。モブキャラやサブキャラな人々もだいたい一夫一妻だし、”主人公”や”ヒロイン”も一夫一妻の方が、実は多い。たった一人の”ヒロイン”を選ぶ”主人公”がいるということは、きっと選ばれなかった”ヒロイン”もいるのだろう。
そんなものなのだ。エロゲも、エロゲみたいなことが起きる世界も。
「好きな人に好かれないってツラいねぇ」
「つ゛ら゛い゛~~! ごべんなざぁ~~いっ!!」
しょうがないなぁ。イヤみはこのくらいにしてあげよう。
それにしても、こうやって腹を割って話したのは初めてかもしれない。付き合っていた時は、なんというか『いいカノジョだと思われたかった』から、イヤみを言ったり怒ったりしないようにしてた気がする。
別れた後の方が、気安く話せるなんて。なんだかおかしくなって笑ってしまう。
こうして、私とTS予定イケメンくん――いやTS”ヒロイン”ちゃんは、元カノと元カレになった。
※1 主人公の周りには親友(もしくは悪友)としてヒロインかサブキャラが一人二人いる。が、浅い付き合いの友だちがあまりいない。これは、ゲーム制作上の労力の問題だと考えている。キャラが増えれば増えるほど、立ち絵やボイスなども増える。ものすごく大変。なので、友だちという立場を少人数のキャラに集約しているのだろう。ちなみに、この世界は男性向けエロゲみたいなことが起きる世界なので、”主人公”周りは押しなべて交友関係が狭い。
※2 これは個人の感想・嗜好・解釈であり、普遍的な価値観を示すものではありません。
※3 これは個人の感想・嗜好・解釈であり、普遍的な価値観を示すものではありません。
◆ TS予定イケメンくん&TS”ヒロイン”ちゃんについて
実は、このまま放っておくとフられたことをきっかけに心の隙間を狂った神に蝕まれ、闇堕ちしてヤンデレに進化していた。”主人公”くんを監禁陵辱し、第三勢力として”ヒロイン”ちゃんたちの前に立ちふさがるはずだった。が、そのルートはもうなくなった! 泣き言を聞いてもらうだけで救われることもある。
男性向けエロゲで例えると、主人公をサポートしてくれる親友サブキャラ(男)にファンディスクでTSする男の娘サブキャラ(男)属性を足した感じ。TS予定イケメンくんは男の娘ではないが、「お前が女でもモテてただろうなぁ」と言われるタイプ。
※ 男の娘のTSについてですが、実際にそういうエロゲもあるよという話として出しました。男の娘のTSを推奨しているわけではありません。作者は男の娘のままでもTSしても、どっちも好きです。




